株式会社LIXILLIXILが挑む『プロダクトサーチ』の変革 紙カタログ文化から、データに基づきプロの判断を支えるデジタル基盤への軌跡

住宅設備機器・建材メーカーの株式会社LIXIL。膨大な商品点数を誇る同社において、長らく情報提供の主役は「紙カタログ」でした。しかし、コスト高騰や情報の鮮度、画面やユーザの働き方の変化を受け、同社は大きな転換点を迎えています。この変革を牽引するフラッグシップが、商品情報のデジタル化を推進する『プロダクトサーチ』です。 『プロダクトサーチ』のグロース活動は、単なるウェブサイト改善に留まりません。その本質は、業界に根付いている「紙カタログで情報収集する」という常識を、デジタルでアップデートすることにありました。その活動の中で、同社は組織に「データで議論する文化」や「ユーザ体験」という視点を定着させ、結果的にアクティブユーザ数を飛躍的に向上させました。本記事では、『プロダクトサーチ』のCPO(チーフ・プロダクト・オーナー)を務める香取幸子様と、伴走したビービットの田中楓子に、変革の道のりについて詳しく聞きました。

株式会社LIXIL

  • CX部門 商品コンテンツマネジメント統括部 UXStrategy & Design WEBサービスG グループリーダー
    香取 幸子 様

株式会社ビービット

  • UXインテリジェンス事業本部 UXグロース部 リーダー
    田中 楓子

紙を超え「プロの判断」を支える新基盤を目指す『プロダクトサーチ』

——まずは、『プロダクトサーチ』が立ち上がった背景や、社内での位置づけについて教えてください。

香取様(LIXIL):LIXILは住宅設備機器・建材業界の中でも特に商品点数が膨大です。これまでプロのお客様(工務店・設計事務所・流通店など。以下「プロユーザ」)への情報提供は、長らく紙カタログとPDF版ウェブカタログが主役でした。

しかし、紙カタログにはいくつか課題がありました。
紙カタログは一番分厚いもので2,600ページにも及び、まるで辞書のような厚みです。上がり続ける印刷・物流コストと、情報の鮮度が発行時点で止まってしまうことが最も大きな課題でした。
また、商品データベースがいくつかに分断されており、ウェブカタログはそれぞれあるものの、デジタルチャネル全体で一つの「正しい情報」を流通させる基盤も整っていませんでした。
さらに、コロナ禍以降の働き方の変化もあり、紙カタログ主体の情報提供のあり方を見直す必要が出てきました。

こうした背景から、私たちは『プロダクトサーチ』を単なる「商品検索ツール」ではなく、全社的な商品情報のデジタル化を牽引する存在にしたいと考えています。具体的な役割は、①カタログ関連コストを削減する事業エンジン、②ワンソース・マルチユース型の商品データベース整備の出口、③AI時代に向けた顧客体験変革の社内モデルケース、という3つです。社内の極めて重要なプロジェクトとして、2023年8月にスタートしました。

——『プロダクトサーチ』はどのような価値提供を目指しているのでしょうか。

香取様:『プロダクトサーチ』が目指す提供価値とは、紙カタログをただウェブに置き換えることではありません。紙ではできなかった「プロの判断を支える基盤」を新しく作ることです。
特に重視したいのが、「人に伝える」という業務フローを途切れさせないことです。
建築業界は「超分業」の世界です。商流が非常に長く、登場人物が多い。さらに、プロユーザは商品を探すだけでなく、図面を職人や施主に渡して説明する責務があります。そのため、正確な情報をいかに分かりやすく提供できるかどうかが重要になります。

また、プロユーザが安心して判断できることも欠かせません。
発注ミスは命に関わる可能性がありますから、プロユーザは非常に慎重です。現場調査の結果を元に、「確かにこの製品だ」という証拠を求めて、何度も何度も、商品情報を確認します。
『プロダクトサーチ』は、そうしたプロの心理に寄り添い、現場で毎日安心して使えるツールであることを目指しています。

株式会社LIXIL CX部門 商品コンテンツマネジメント統括部 UXStrategy & Design WEBサービスG グループリーダー 香取 幸子様

データなき改善の限界と、部分最適では解けない課題

——グロース活動にビービットがご一緒しはじめたのは、『プロダクトサーチ』リリース直後ですね。どのような活動をされてきましたか。

田中楓(ビービット):最初の半年間はレクチャー形式で進めました。LIXILの皆様に、ビービットの行動分析ツール『USERGRAM』を使用してテーマに沿って分析をしていただき、ビービットがフィードバックするという形です。

レクチャーを終えた後は、2週間ごとの定例会をベースに、2カ月程度のサイクルで設定したテーマ一つひとつに対する分析と改善を行います。テーマの全体像は初期段階である程度すり合わせするものの、進めていくうちに深掘りしたいテーマが出てきたら途中で調整することもあります。
例えば伴走初期は、機能別の改善活動に取り組んでいました。その後「初めて利用するユーザの体験」などのユーザの習熟度に応じたテーマ設定や、「紙カタログと併用するユーザの体験」といったような利用シーンに特化したテーマも扱ってきました。そうしたUX改善活動を2年以上ご一緒させていただいております。

——活動を進める上で、当初はどのような「壁」がありましたか。

香取様:最大の壁は、意思決定のあり方でした。以前は、社内で改善の議論をすると、どうしても直接顧客と接点を持っている部門や、製品そのものを担当している部門の意向が優先される傾向があり、彼らの経験や知見をもとにした「こちらのデザインのほうがよい」という議論が少なくありませんでした。もちろん、その意見には商品を深く理解しているからこその価値があります。

しかし一方で、複数の意見が出たときに改善施策の優先順位が定まらず、関係部門との調整に多くの時間を費やし、サイトそのものを進化させる取り組みに十分な時間を割けない時期もありました。ユーザ行動を正しく分析する知見や、データという武器がなかったため、論理的に改善施策を選択・説得することができなかったからです。

田中楓:ご支援を開始した当初に感じた『プロダクトサーチ』の印象は、ユーザの業務プロセス全体を支える可能性を秘めているサービスだということです。
単純に「ページを改善する」という案件であれば、部分最適なリニューアルで済むことが多いです。しかし『プロダクトサーチ』の場合、ユーザが検索して事例を見て、情報を取得するだけで終わりません。ユーザはその情報を元に、施主や職人に説明したり、さらにその後また戻ってきて違う情報を取得したりします。そのため、一連の体験全体をデジタル上に設計することに対し、非常に難易度が高いと感じました。

株式会社ビービット UXインテリジェンス事業本部 UXグロース部 リーダー 田中 楓子

1年でコアユーザ2.6倍。飛躍を生んだ3つの転機

——この1年で、アクティブユーザ数が驚異的に伸びたと伺いました。

香取様:直近1年の数字で見ると、月次ユーザ数は約2倍になりました。さらに嬉しいのは、月5回以上利用してくださる「コアユーザ」の数です。こちらは2.65倍に急増しており、サービスが明確に「定着フェーズ」に入ったと実感しています。

——まさに「飛躍」ですね。これほどの成長につながった転機となる活動は何だったのでしょうか。

香取様:大きな転機は3つあると考えています。
1つ目は、「全商品UIの統一化」です。先行して成功していたエクステリアカテゴリのUIをベースに、全商品UIを統一しました。これにより、ユーザが一度使い方を覚えれば、別のカテゴリでも迷わず使える状態を作れたことが非常に大きかったです。

2つ目は、「行動データに基づく継続的な施策実行」へシフトしたことです。感覚や仮説ではなく、ビービットさんと一緒に『USERGRAM』を活用し、「実際にプロユーザがどこで詰まっているか」という事実を起点に改善サイクルを回すようにしました。ユーザの具体的な困りごとが可視化されたことで、施策の確度が格段に上がりました。

田中楓:例えば、『プロダクトサーチ』の中で、同じ商品情報を何度も検索するユーザ行動が多く見られました。これは、プロユーザが建材を検討する際、カタログなどの情報を繰り返し取得・確認しているためです。そこで、閲覧履歴機能を各所に設置し、再訪時にスムーズに目的の商品へアクセスできる体験を実現しました。
あわせて、検索につまずいたユーザへのフォローコミュニケーションや、商品詳細ページでの情報取得体験を改善するなど、各ページの改善を積み重ねたことが、コアユーザ増加につながっていると感じます。行動データからは、偶然流入したユーザが回遊を重ねる中で『プロダクトサーチ』の価値を実感し、継続利用へと移行している様子が確認できています。

香取様:3つ目が「プロユーザの業務理解を深めたこと」、文字通り定性的な調査への注力です。大規模なインタビュー調査を通じて、ユーザのワークフローには、商品を検索する前の「イメージを掴む段階」に大きなペインがあることが分かりました。

データの「なぜ」を埋める30人のインタビュー調査。現場で判明した衝撃の実態

——大規模なユーザインタビューが、飛躍的な成長のきっかけの一つだったのですね。インタビュー実施の目的について教えてください。

香取様:『プロダクトサーチ』リリース当初、私たちは紙カタログをゼロにしようとしていました。しかし、本当にゼロにできるのかという疑問もありました。
そこから発想を変え、「紙カタログをゼロにする」ことが本質的な目的ではなく、「紙カタログよりもデジタルのほうが便利だと思ってもらえる世界をつくるには、何が必要なのか」を考えるようになりました。
この問いから、インタビューの実施が実現しました。

田中楓:インタビューの実施においては、ビービットのインタビュー調査を中心とした支援を専門としているチームに協力を依頼して、プロユーザ約30名にインタビューを行いました。行動分析ツール『USERGRAM』の分析とユーザ調査を組み合わせることで、サイトの外での状況や競合サービスの利用状況も含めて把握でき、より大きな改善につながると考え実施しました。

香取様:このインタビューを通じて得られたユーザ理解から、AI施工例検索(※)という機能が生まれました。また、ビービットさんから、インタビューの設計や進め方、その内容を整理・分析し、サービス改善につなげるまでの一連のプロセスを、実践を通じて学べたことも大きな収穫でした。本を読んで知識として理解していたつもりでしたが、実際に体験してみると、自社だけでここまで実践することは難しかったと感じています。それほど、ビービットさんのサポートは必要不可欠なものでした。
※AIを活用し、施工イメージ画像から類似の製品を検索することが可能な『プロダクトサーチ』の検索機能

一方、私たち主導でも、実際にLIXILの商品を使ってくださっているプロユーザの方にお話を伺う取り組みを行いました。プロユーザの方のオフィスに伺って、実際に使っている分厚いカタログを持ってきてもらい、「普段どうやって商品を探していますか?」と実演してもらいました。

田中楓:ユーザのリアルな業務把握は衝撃的でした。インタビューを通じて、ユーザが電話で会話する際、「カタログの〇〇ページを開いて」という話からいきなりスタートする実態が見えてきました。そもそもウェブカタログを開く暇もないほど、紙が深く業務に根付いていたのです。

香取様:プロユーザは、2,600ページにも及ぶ分厚いカタログを持ち歩き、現場や移動中でも必要な情報を探しています。その負担は、特にデジタルネイティブ世代にとって大きなものです。一方で、ベテラン層にとっても、カタログのめくり方を若手に教えることが負荷になっていることも分かりました。

「ユーザの業務をラクにする」視点が、社内の足並みを揃えた

——施策開始当初、課題に感じていた「意思決定のあり方」にはどのような変化がありましたか?

香取様:議論の出発点が、「顧客接点やプロダクトを担う事業部門の意見」から「“行動データ”を起点にした事実共有」に変わりました。データという武器を得たことで、感覚や思いつきではなく「事実(ファクト)」から議論を始めるスタイルへ転換できました。
具体的には、住宅サッシ領域をプロダクトサーチに組み込む際、過去の新領域組み込み時に比べて準備期間を3分の2に短縮することができました。どこにリソースを集中すべきか。データに基づいて判断できるようになった成果の一つです。

また、行動分析や業務インタビューを重ねる中で、「紙かデジタルか」という二元論ではなく、プロユーザが求めているのは「いかに業務をラクに進められるか」であるという気づきも、意思決定のあり方を変えるきっかけになっています。
当初、経営層からは「紙カタログの即時削減」という強い期待がありました。しかし、行動データを分析すると、3割のユーザは依然として紙カタログを必要としていることが分かりました。

この事実を受け、「紙を残すべきかどうか」を議論するのではなく、ユーザがなぜ紙を必要としているのか、その背景にある業務上のペインに目を向けるようになりました。「紙を削減する」というLIXIL側の都合を押し付けるのではなく、「どうすれば現場の負担を軽くできるか」というユーザ視点で議論するように。その結果、他部門とも「ユーザの利便性をどう高めるか」という共通の目的で足並みが揃い、部門間の調整もスムーズに進むようになりました。

田中楓:行動データが、社内での意思決定や合意形成を支える材料になっていますよね。

ビービット 田中 楓子(左)、LIXIL 香取 幸子様(右)

社内に根付いた「データで議論する文化」

——ビービットとの取り組みにおいて、特に価値を感じているポイントを教えてください。

香取様:一番大きいのは、社内に「データで議論する文化」が根付いたことです。今ではマーケティング部門以外の方々にも行動分析をできる人が増えました。部内に閉じず、他部署の人を巻き込んでレクチャーワークショップを実施したのは、社内の共通言語を作る上で非常に良かったと思っています。実際、部門内では「UG(USERGRAM)」という言葉が当たり前に飛び交い、「ちゃんとUGで行動見た?」という会話がなされるほど浸透しています。

田中楓:最近では、あらゆるユーザ行動を取得できるよう、『USERGRAM』の計測範囲を広げています。それによって、商品の検討の末に見積を作成しているユーザの行動や、紙カタログをどのようなタイミングで注文しているかなど、一連の業務フローが見られるようになってきました。

——組織全体に分析の考え方が浸透したのですね。

香取様:2023年からビービットさんにご支援いただいていますが、年々成長している実感があります。これまでのグロース活動で得られたことを、自社内で「標準化」「仕組み化」することはある程度自走できるようになってきました。
それでも継続的に伴走をお願いしているのは、さらに難しい課題に取り組むフェーズに入ったからです。今後はより一層、自分たちの「当たり前」がユーザの「当たり前」とズレていないかを定期的に検証したり、自社だけでは得られない他業界の事例からのよりハイレベルなヒントを得たりする必要があります。そして、データだけでは見えない「なぜ」をインタビューや定性調査で補完することも欠かせません。
定量データと定性データを行き来しながら、本質的な課題を見極めていく。この高度なプロセスを伴走していただけることこそ、ビービットさんの強みであり、大きな価値だと感じています。

デジタルの利便性が空気のように溶け込む世界へ

——今後の展望をお聞かせください。

香取様:これからは、より新しくて難しい次の「山」にビービットさんと挑みたいと思っています。
ユーザが「以前より便利になった」と実感できる利便性を、より速く届けていきたいですし、今後加速するAI時代において、AIにも人にも正しく情報が届く商品データの整備を進めたいと考えています。データ整備とユーザ理解を両輪で進め、「AI時代の商品情報」のあり方を切り開いていきたいです。

田中楓:今後はデータ構造そのものの改善など、より難易度の高い課題に取り組むフェーズです。他部署と連携しながら、部分最適ではなく全体最適の構造改革を支援していきたいと考えています。

香取様:そして『プロダクトサーチ』が売上やロイヤリティにどう貢献しているかを可視化し、事業を支える基盤としての価値も示していきたいと思っています。ユーザにとってデジタルの利便性が空気のように当たり前になっている世界を目指し、これからもビービットさんと新しい課題に挑戦し続けていきたいです。

(写真右から)LIXIL 高橋マイク様、LIXIL 香取幸子様、ビービット 田中楓子、田中 伸雄

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