ヤマハ発動機株式会社様全世界のユーザの“夢”を実現するために。ヤマハ発動機が挑戦する、アプリ改善を通じた顧客体験のアップデート

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「感動創造企業」を目指し、1955年の創業以来「世界中の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」ことを追求しているヤマハ発動機グループ。

180を超える国や地域で二輪車やマリンなど多様な事業を展開する同社は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に力を入れ、既存領域にデジタルを掛け合わせた新しい価値づくりを推進しています。

同社が取り組むDXの重点課題の一つが、デジタルを活用した顧客接点の強化です。コネクテッド機能を搭載した商品ラインナップを拡充し、すべてのお客さま・車両・販売店とつながり、コネクテッドデータをもとに新しい体験提供を目指す「コネクテッドビジョン2030」を掲げています。そのための取り組みとして2020年よりインドネシア・ベトナムから順次リリースされているのが、バイクユーザ向けスマホアプリ「My Yamaha Motor」です。

このアプリは、これまで販売代理店を経由したBtoBtoCのビジネスを長く営んできたヤマハ発動機にとって、直接ユーザにサービスを提供し続けるという前例のない挑戦。そこで、パートナーとして選んだのがビービットでした。

お客さまに向き合い、ユーザ体験(UX)を改善し続けるUXグロースをどのように進め、何を獲得したのか。本プロジェクトを推進するLMつながる推進グループ企画チームのリーダー山田 宗幸様、プロダクトオーナー村松 蒼介様、開発担当の川口 祐史様にお話を伺いました。

ヤマハ発動機株式会社様

  • ヤマハ発動機株式会社 ランドモビリティ事業本部 LM戦略統括部 LMつながる推進グループ
    山田 宗幸 様
  • ヤマハ発動機株式会社 ランドモビリティ事業本部 LM戦略統括部 LMつながる推進グループ
    村松 蒼介 様
  • ヤマハモーターソリューション株式会社 デジタルソリューション事業部 コトサービス推進部 コネクティッド推進グループ
    川口 祐史 様

全世界のユーザとつながり、一人ひとりの豊かなバイクライフをサポートしたい

——まずは改めて、ユーザとアプリを介して直接つながる取り組みに挑戦した背景を教えてください。

山田 宗幸(以下、山田)様:私たちがコネクティビティに取り組む理由は、大きく2つあります。

1つ目は、顧客ニーズの変化です。消費傾向がより体験重視に変化する中、良い製品をつくっているだけでは生き残れないという危機感がありました。

そして2つ目は、事業環境の変化です。主戦場だった東南アジア地域が成熟マーケットとなり、二輪車以外の移動手段を選択する人が増えてきました。新規顧客の獲得が限界を迎えつつある中、既存顧客を大切にし、いかに選び続けてもらうのかを本気で考えなくてはなりません。

バイクをはじめとした、3から5年、時には10年使用される耐久消費財を扱う私たちにとって、購入後の体験をいかに豊かにできるかが、次もヤマハ発動機を選んでもらうことに直結します。

こうした背景から2020年7月、事業部内に「LMつながる推進グループ」という組織を創設し、現在、車両とつながる「Yamaha Motorcycle Connect※」と、お客さまとつながる「My Yamaha Motor」、2つのスマホアプリを展開しています。

※Yamaha Motorcycle Connect:バイクに搭載されたセンサーから走行距離やエンジン回転数などの車両情報をスマートフォンに送るアプリ

ヤマハ発動機株式会社 ランドモビリティ事業本部 LM戦略統括部 LMつながる推進グループ 山田 宗幸 様

——今回のUXグロース活動の対象である「My Yamaha Motor」について教えていただけますか?

村松 蒼介(以下、村松)様:「My Yamaha Motor」は、お客さまのより充実したバイクライフをサポートするアプリです。現時点の提供機能としては、安心・安全なバイクライフを送ってもらうために必要な保守点検情報の通知、故障時に有用な最寄りのディーラー検索やロードサービス、お得なクーポンの配布などを搭載しています。

これまで購入後のヤマハ発動機とお客さまの接点は、販売店経由のメンテナンス時しかありませんでした。それも多くはいわゆる「町の修理屋さん」に流れてしまい、定常的に直接接点を持てる場が存在していなかったのです。さらに、お客さまを車両単位で管理していたため、「車両ごとのメンテナンス状況」はわかっても、持ち主である「人」が、どのような行動特性を持つかまで知ることができていませんでした。

もっと一人ひとりのお客さまに向き合いたい──その一つの手段が「My Yamaha Motor」です。将来的には別のアプリである「Yamaha Motorcycle Connect」と連携し、全世界5,000万人以上のヤマハ発動機ユーザとつながる起点にしたいと考えています。

つくってリリースし、アジリティ高く改善し続けるという未知の挑戦

——長い歴史を持つメーカーでアプリのグロースに取り組むというのは新しい挑戦だと思いますが、どのような課題にぶつかったのでしょうか?

村松様:ご想像の通り、とにかく大変でした。他の製造業にも共通して言えることだと思うのですが、私たちの組織にはモノをつくって世の中に出したその後に、改善し変化させ続けていくという発想も経験もありませんでした。頭では「このアプリはリリースしただけではダメだ」とわかっていても、具体的にどのように改善していけばよいのかお手上げ状態でした。

川口 祐史(以下、川口)様:ITシステムという観点でも同様です。私はヤマハ発動機のIT子会社から今回のプロジェクトに参画しているのですが、これまでの主な仕事はウォーターフォール型の基幹システムや業務システムの開発でした。

社内システムとは異なり、B to Cのアプリはユーザに受け入れてもらうために、使える以上の「何か」が必要です。アジャイル開発も初めての経験でしたが、それでもリリース前のフェーズでは従来のノウハウを活かせる場面がありました。しかし、リリース後の改善となると、どのように進めればよいのか正解が全くわかりません。

村松様:特に困ったのは「実装機能の優先順位付け」と「グロースに必要なスキル定義」でしたね。

まず「実装機能の優先順位付け」については、正直感覚頼みの部分がほとんどでした。リリース後しばらくは開発フェーズからのやり残しや、社内でリストアップした機能アイデアを実装していたのですが、早々に手詰まりになっていきました。開発拠点である日本と、実際のユーザがいる東南アジアとの物理的な距離もあって、ユーザの姿が見えてこない。このままでは良くないと感じていました。

もう一つの「グロースに必要なスキル定義」については、具体的にどのようなスキルを身に付けるべきか見当がつかない状態でした。このプロジェクトは社内でも珍しく、スタート時から企画・開発・データ分析と多様な職域のメンバーが一つになったアジリティの高い推進チームで構成されていました。しかし、いざグロースに取り組もうとした時、何から始めればいいのかわからなかったのです。

ヤマハ発動機株式会社 ランドモビリティ事業本部 LM戦略統括部 LMつながる推進グループ 村松 蒼介 様

ツールだけではない、体験設計のプロのノウハウ

——課題解決のパートナーとしてビービットを選んだ理由を教えてください。

村松様:実は以前から書籍『アフターデジタル』シリーズを読んだりセミナーに参加したりと、UXについてビービットさんから勉強させてもらっていました。

中でも、ユーザは属性ではなく「置かれた状況によって行動が変わる」というユーザの捉え方が印象的でした。それまでは「このモデルの車両の購入者は属性Aの人が多く、属性Aの人はこのような行動をする傾向があるから、こういう施策を打とう」という考え方をしていました。そうではなく、一人ひとりのユーザの行動を観察することで、状況ごとのカスタマージャーニーを可視化して継続改善を行うのが新鮮かつ納得感があり、ぜひ当社にも取り入れたいと思いました。

山田様:他にも複数社からアプリ改善の提案を受けましたが、ツールの機能や実績の話ばかりで……。
『USERGRAM』のようなユーザ行動分析ツールはたくさんありますが、ツールだけあっても取得したデータをどう分析し、どう顧客心理を捉えるのかについてノウハウがなければ、正しい改善はできません。

ビービットさんの提案には、長年UXと向き合い続けてきたからこその方法論が詰まっていて、実績あるどのソリューションにも勝るものだと感じました。ビービットさんとご一緒すれば、表面的な改善ではなく、真にLTV(顧客生涯価値)を高めるためのグロース活動ができると思ったんです。

ゼロから自走まで、グロース業務を伴走支援

——実際のグロース活動では、具体的にどのような支援を受けていますか。

村松様:『UXグロースOps』を導入し、最初の数か月の土台づくりのフェーズで、大きく3つのサポートをしていただきました。

1つ目は、ユーザ行動を計測・分析するためのクラウドサービス『USERGRAM』の導入支援です。これにより一人ひとりのアプリユーザの行動を追えるようになり、データに基づいた改善のための環境が整いました。

2つ目は、自社メンバーを対象としたスキルの向上支援です。「データ定義力」「ユーザ憑依力」「シナリオ構築力」などUXグロースに必要なスキルの中から、私たちが特に不足しているスキルを重点的に向上するために、ワークショップも交えながら実践形式でレクチャーしていただきました。

3つ目は、業務プロセス構築支援です。ユーザ行動分析、施策立案、実行、振り返りといった一連のPDCAサイクルをフローに落とし、ファシリテートしていただきながらうまく運用できるよう業務構築をサポートしていただきました。

川口様:そして現在も、形だけではない成果につながるグロース活動になるよう、業務を伴走いただいています。ビービットさんに「よくわからないから、お願い」と丸投げしたり、逆に「土台はつくったので、後は頑張ってください」と手放されるのではなく、私たち自身が最終的に自走できるようになるために丁寧に支援いただける点が大変ありがたくて。できることが確実に増えていると実感でき、チーム全体の自信につながっています。

他にも、東南アジアにいる実際のユーザ調査、画面設計など、様々な面で支援していただいています。

ヤマハモーターソリューション株式会社 デジタルソリューション事業部 コトサービス推進部 コネクティッド推進グループ 川口 祐史 様

「ユーザ起点」を手に入れ、アプリ改善の質が変わった

——『UXグロースOps』を導入して、どのような成果があったのか教えてください。

川口様:定量面では、アプリダウンロード後の車両登録率の向上など、改善テーマ別の数値成果が見えてきています。月に1回の頻度でバージョンアップをしていて、1回ごとの改善率は小さいものの、それを積み重ねていけているのが大きいと感じています。現在、それら数値成果がどのように事業貢献に結びついているかについて、可視化に取り組んでいるところです。

デジタルとリアルの連携も少しずつ進んできています。「My Yamaha Motor」のグロース活動の中で発見したユーザ行動をリアル店舗にフィードバックし、接客の改善に活かすなど、波及効果も生まれてきているんです。

これまでは来店誘導の電話のタイミングなど、各オペレーターの勘に頼っていたところもあるのですが、デジタルを含めたお客さまの行動を追っていくと、「こういう行動をとっている人はこういうことで困っている」などと、パターンがわかってきたんです。リアル接点だけ、車両データだけ見ていたら気づかなかったことですね。

山田様:それから、チームリーダーである私から2人を含めた現場メンバーを見ていると、明らかに発想がユーザ起点に変わったなと感じていて、それがとても嬉しいですね。

村松様:たしかに、視点は大きく変わったと思います。

たとえばこれまでは、クリックされない画面上のボタンがあったとき、そのボタンという対象自体をどう変更するのか悩んでしまっていました。UXを学んでからは、ボタンにたどり着く前にユーザがどのような状況下で、どのような行動を取り、何でつまずいたのか、から着想を始め、理想と実態のギャップを分析するようになりました。すると、実はボタン以外の場所を変えた方が良いことがわかったりするんです。

川口様:これまでは開発のしやすさを先行して考えてしまっていたように思います。

今はまず「ユーザは?」がチームの共通言語になってきていますね。おかげで、様々な社内のステークホルダーに対しても、改善案とその根拠を伝えることでスムーズに納得してもらえるようになり、よりスピーディに改善が進められるようになりました。

山田様:たとえば川口はシステムエンジニアですが、ヤマハ発動機グループの中にこうしたUX視点によるデジタル変革を推進できる人材を増やせていることが、ビービットさんとご一緒したことによる、特に大きな成果だったのではと感じています。

ジャーニーをつなぎ、お客さまの夢を実現するブランドへ

——最後に、今後の展望について教えてください。

川口様:まずは「My Yamaha Motor」を通じた、お客さまの体験向上に貢献していきたいですね。現在は私がグロースの主担当をしていますが、チームメンバー全員のスキルを底上げすることで、もっとアプリとしての品質を高めていけると考えています。

そしてこのUXグロースの視点を、ヤマハ発動機グループ内にもっと広げていきたいとも考えています。顧客接点を担っている組織はたくさんありますが、お客さまの体験向上という共通目標に向けて有機的に連携できているとはまだ言えない状態です。UXグロースの考え方を取り入れることで、グループ全体でより良いサービスを提供できるブランドになれると思っています。

村松様:今は「My Yamaha Motor」というアプリやデジタル領域での取り組みに閉じていますが、今後は他のアプリはもちろん、リアル店舗を含めた一連のカスタマージャーニーを捉えて、取り組みを拡大していきたいですね。

私たちは、モノを磨いてきた会社で、現在のユーザは製品の価値を評価してくれた人たちです。これからは製品自体だけではなく、ヤマハ発動機のバイクを持っているからこそ経験できる価値をもっと提供していきたい。購入体験や乗車体験だけではない、バイクライフ全体が楽しい状態であってほしいですし、そのために寄り添うパートナーでありたいと思っています。

山田様:お客さまには、バイクを通じて実現したいそれぞれの夢があります。それは旅行先で美味しいものを食べたい、プロのレーサーとして活躍したい、など様々です。私たちは、こうしたお客さまの夢を実現するブランドを目指しています。

2人も言っていましたが、そのために取り組まなければいけない課題はまだまだたくさんあります。分断されていたジャーニーをつなぎ、本気でお客さまと向き合う組織に大きく変わっていかなくてはいけません。

そしてそれは、決して自社だけで実現できるものではないと思っています。ビービットさんのように同じ志を持ち、異なる強みを持った会社との共創関係が必要不可欠です。今後もビービットさんには、さらに広い領域を含めた体験向上のご支援をいただきたいと思っています。