AI活用が企業の競争力を大きく左右するようになっている現在。業務効率化や生産性向上を目的とした活動にとどまらず、新たな顧客価値の創出や事業変革の手段としてAIを活用する企業や、AI活用を経営指標や人事評価に組み込む企業も増え、もはやAIはすべてのビジネスパーソンが避けて通れないテーマになっています。
一方で、現場ではこんな声を耳にすることがあります。
●社内向けAIを作ったものの、現場に使ってもらえない
●AIを活用した施策を実施しているが、成果につながっている実感がない
●AI活用を進めろと言われるが、何から始めればいいのかわからない
●AI人材育成を進めているが、何が変わったのか説明できない
AIへの期待が高まる一方で、「導入した」「作った」「研修を実施した」で止まってしまい、思うような成果につながらないケースは少なくありません。
では、なぜこうしたことが起きるのでしょうか。
本記事では、企業がAI活用を進める中で直面しやすい4つの課題を取り上げながら、その背景に共通する構造について考えてみたいと思います。
なお、この記事では顧客向けAIと社内向けAIの両者を扱うため、それを利用する「顧客」と「社員」をあわせて、「ユーザ」と表現しています。
なぜ使われないAIが生まれてしまうのか?
AIが使われない理由の多くは、「誰が・どんな場面で・何のために使うのか」が整理されないまま開発が進んでしまうことにあります。
AIを活用したサービスや仕組みを作ったものの、思うように利用が広がらない。これは多くの企業で起きていることです。
社内向けであれば、「現場に使ってもらえない」「結局以前のやり方に戻ってしまう」、顧客向けであれば、「リリースしたものの利用が伸びない」「想定していたほど価値を感じてもらえない」というケースです。
こうした状況を見ると、「AIの精度が足りなかったのではないか」「機能が不足していたのではないか」と考えたくなります。しかし実際には、それ以前のところに原因があることも少なくありません。
それは、「誰が、どのような場面で、何のために使うのか」が十分に整理されないまま開発が進んでしまうこと。
近年はAIの技術進化が非常に速く、「何ができるか」の議論からプロジェクトが始まることが珍しくありません。しかしユーザから見れば、重要なのはAIであることではなく、自分の仕事や意思決定、あるいは日常の行動を前に進めてくれるかどうかです。
例えば社内向けAIであれば、「人に相談する」「既存の業務フローで対応する」「過去の経験で判断する」などの選択肢もある中で、「それでもAIを選ぶ理由」がなければ利用は定着しないのです。
<営業活動支援AIの例>
ある企業の営業活動を支援するAIの開発プロジェクトでは、営業担当者へのフィードバック機能を実装したものの、利用が広がらないという課題に直面していました。
詳しく調査してみると、ユーザが問題視していたのはAIの回答精度そのものではなく、AIからのフィードバックと上司からのフィードバックが食い違うことでした。ユーザからすると、最終的な評価を行うのは上司です。そうであれば、AIではなく上司の意見を優先するのは自然な行動でしょう。
そこで、上司側の考え方や評価方針も踏まえながら支援できる仕組みに見直したところ、以前よりも利用が広がったのです。
この事例が示しているのは、ユーザが何を求めているかを理解しなければ、本当の解決策は見えてこないということです。AI活用の成否を分けるのは、必ずしもモデルの性能や実装技術だけではありません。ユーザがどのような状況に置かれ、何を判断基準に行動しているのか。その理解を起点に設計できているかどうかが、使われるAIと使われないAIを分ける大きな要因になるのです。
AI時代、ユーザに「見つけてもらう」には?
AI時代にユーザに自社を見つけてもらうために必要なのは、「AIに最適化すること」ではなく「AIを使うユーザに最適化すること」です。
AIの浸透にあわせてユーザの情報収集行動が現在進行形で変化する現在、いかにユーザに自社の商品・サービスを見つけてもらうかという点に悩みを抱える企業が増えています。例えば、
●AI検索への対応を進めたい
●AIに引用されやすいサイトにしたい
●検索流入が減る中で、何を変えるべきかわからない
といった声がよく聞かれます。
これまでは、ユーザは検索エンジンを使い、自ら複数のサイトを比較しながら情報を集めていました。しかし現在は、AIに質問し、その回答を起点に意思決定を進める場面も増えています。
こうした変化を受けて、多くの企業がAI対応を急いでいます。
もちろん、構造化データやメタデータへの対応といった技術的な取り組みは重要です。ただ、それだけで十分かというと、必ずしもそうではありません。企業が本当に理解すべきなのは、AIそのものではなく、AIを使うユーザの行動だからです。
ユーザはどのような疑問を持ち、どのような問いを投げかけているのか。どのような情報を求め、どのような判断をしているのか。そうした行動を理解しないままAI対応だけを進めても、本質的な対応にはつながりません。
そのためには、行動観察やヒアリングを通じてユーザが実際にどのようにAIを活用しているのかを理解し、あわせてアクセス解析や行動履歴などのデータも活用しながら全体像を捉えていく必要があります。
AI時代にユーザと出会うためには、技術対応の話だけでは不十分。AIを使うユーザの行動を理解し、その体験に合わせて情報提供のあり方を見直していくことが必要なのではないでしょうか。
なぜAI活用施策は成果につながらないのか?
AI活用で成果を出している企業は、AI起点ではなくユーザ起点で考えているという特徴があります。
マーケティング施策の企画を考える。コンテンツ案を作る。新しいサービスアイデアを検討する。こうした場面では、すでにAIを使うことが当たり前になりつつあります。実際、AIを活用すれば短時間で多くのアイデアやアウトプットを生み出すことができます。
一方で、「それっぽい案はたくさん出てくるが成果につながらない」という声も少なくありません。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
背景にあるのは、AIが与えられた情報の範囲でしか考えられないという事実です。AIは非常に優れた情報処理能力を持っていますが、自ら顧客を観察したり、市場の変化を体験したりすることはできません。
そうなると、公開情報や一般的な成功事例だけをもとに施策を考えることになるため、結果的に平均的な答えしか出てこないことになります。素早く一定の品質には到達できるかもしれませんが、それだけで競争優位を生み出すことは難しいのです。
では、AI活用が成果につながっている企業は何が違うのでしょうか。共通しているのは、AIから考えないこと、ユーザ理解が先にあることです。
ユーザ理解のための調査において重要になるのが、意見ではなく行動、特に「行動の流れ」を見るという考え方です。
人は必ずしも自分の行動理由を正確に説明できるとは限りませんし、その場で思いついた意見を話すこともあります。一方で、実際に比較したもの、選んだもの、使い続けているものには理由があります。
多くの場合その理由には、行動の前後の「流れ」が関係しています。顧客は突然サービスを購入するわけではありません。課題を認識し、情報を集め、比較し、検討し、意思決定を行います。そのどの場面で迷い、どのような情報を求め、何が行動を後押ししているのか。この流れを適切に理解できてはじめて、本当に価値のある体験を設計できるようになります。
だからこそ、「何が欲しいですか」と意見を聞くよりも、「なぜその選択をしたのですか」と行動の背景を掘り下げる方が、本質的な理解につながることが少なくないのです。
<AIを使った検索サービスの例>
ある企業では、多数の商品情報を掲載する検索サービスを運営していました。ユーザの行動を調査したところ、商品選定の初期段階では仕様比較よりも参考事例を探す行動が多いことが分かりました。ユーザはまず、「何ができるのか」ではなく、「これを使うとどんなイメージになるのか」を知りたかったのです。
そこで、参考事例を探しやすくする仕組みを検討した結果、AIを活用した検索機能の導入を決めました。
ここで重要なのは、AIありきで機能を考えたわけではないということです。先にあったのはユーザの課題であり、AIはその解決手段として選ばれたに過ぎません。
AI活用が成果につながるかどうかは、AIの性能だけでなく、ユーザ理解の精度にかかっているのです。
なぜAI人材育成の成果を実感できないのか?
AI人材育成の手応えがないのは、「AI人材」の定義が曖昧なことが原因です。AI時代に求められるのは、単に「AIを使える人」ではなく、「AIを使って価値を設計・実装できる人」なのです。
AI人材育成に力を入れる企業が増えるにしたがって、社内研修や勉強会、ワークショップ、活用事例の共有会などを実施するのは、珍しいことではなくなりました。
一方で、
●参加者は増えているが、現場はあまり変わっていない
●AIを使う人は増えたが、事業成果にはつながっていない
●経営層から「何が変わったのか」と聞かれると答えに困る
といった声も聞かれます。
背景にあるのは、「AIを使える人を増やすこと」と「成果を生み出せる人を増やすこと」を同じものとして捉えてしまっていることです。
もちろん、AIの基本知識を学ぶことは重要です。業務で活用できるようになることも必要でしょう。しかし、それだけで競争力が生まれるわけではありません。
なぜなら、AIそのものは誰でも利用できるからです。
近年はAIの進化によって、アイデアを形にするためのハードルそのものが大きく下がっています。以前であれば専門的な開発スキルが必要だったようなことでも、今では比較的短期間で試せるようになりました。
だからこそ、差が生まれる場所も変わっています。重要なのは、「どう作るか」ではなく、「何を作るか」です。
ユーザはどのような状況にいるのか。どのような課題を抱えているのか。どのような体験が価値につながるのか。そうした問いに向き合いながら、解くべき課題を定義できる人材が求められています。
実際、AI活用が進んでいる企業には共通点があります。それは、先述した「ユーザへの理解を出発点にしていること」に加え、「現場での挑戦を後押しする文化」を持っていることです。
活用事例を共有する。成果を称賛する。小さな実験を歓迎する。そうした環境が、AI活用を一部の専門家だけのものではなく、組織全体の取り組みへと変えていきます。
AI時代に求められる人材像も、少しずつ変わり始めています。単にAIを使える人ではなく、ユーザを理解し、価値ある体験を構想し、それを形にできる人、言い換えれば、価値や仕組みを設計・実装できる人です。
そうした人材の育成こそが、これからの企業にとって重要なテーマになっていくのではないでしょうか。
AI活用を成果につなげるために
本記事では、
●AIが使われない
●AI時代の顧客行動に対応できない
●AIを活用した施策が成果につながらない
●AI人材育成の成果を実感できない
といった課題を取り上げてきました。一見すると別々の問題に見えるこれらの課題には、共通する構造があります。
それは、AIから考えてしまっていること。
AIありきで考え始めると、ユーザの課題や行動が見えなくなりやすくなります。
一方で、成果を出している企業は逆の順番で考えています。ユーザの状況や課題から出発し、解決手段としてAIを活用しています。
AI時代に重要なのは、AIから考えることではありません。ユーザの課題から考え、その解決手段としてAIを活用することです。
その意味では、AI活用の本質は技術の問題ではなく、ユーザ理解の問題だと言えるのかもしれません。
ビービットでは、AI関連支援に特化したチーム「AI Experience Lab」を設立し、UX専門家の立場からAIに関わる体験を検討するだけでなく、全社AI戦略の策定や、実際の研修・ワークショップの実施など、企業のAI活用を多方面から支援しています。
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