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UX(ユーザエクスペリエンス)とは?言葉の意味や今後のトレンドを解説

2022.12.22 Thu.

UX(ユーザエクスペリエンス)とは?言葉の意味や今後のトレンドを解説

マーケティング業務に携わる人にとって、UX(ユーザエクスペリエンス、ユーザ体験)はつねに意識を向ける重要な用語となってきています。しかし、「UX」という言葉は非常に広い意味を持つことから、あいまいな認識をもたれやすい傾向があります。また、時代の変化にともない、求められるUXも変わってきています。今回はビービットが提唱するUXのあり方や、設計方法を説明していきます。

UXとは?これまでの定義と誤解されがちな意味

UXとは、ISO(国際標準化機構)によって「製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚や反応」と定義されています。

しかしこのUXの定義は漠然としていて、さまざまな意味に捉えることができます。その結果、同じUXについて話をしているはずなのに、話をしている人同士で意味がかみ合わない事態が発生してしまうのです。
ここではまず、多くの人々が誤解しているUXの概念や、UXと似た言葉の意味、それらの関係性について説明していきます。

UIとは?

UXと一緒によく聞く言葉にUI(ユーザインターフェイス)というものがあります。
UIは、ユーザと製品・サービスとの接点のことで、たとえばWEBサイトやアプリにおけるUIならば、サービスのデザインやフォントなど、ユーザの視界に入るもの、触れる情報のすべてをUIと指します。ここではサービス画面上の情報だけでなく、PCやスマートフォンなどデバイス本体の外観も含みます。

UIとUXの違いとは?

それではUIとUXの違いとはなんでしょうか。UIとUXの関係性に注目して説明していきます。
UXとはユーザのあらゆる体験を指すもので、UIはユーザと製品・サービスとの接点のことです。UI/UXと並べて使われることも多く、混同されがちなのですが、UIはUXを高めるための重要な要素であり、UXに包括されています。

たとえば、見やすいWEBデザインを作ったとしても、知りたい情報にすぐにアクセスできない、問い合わせに対する返信が遅いなどの問題があれば、より良いUXは生み出せません。質の高いUIはUX向上に欠かせないものですが、UIだけが良くても価値のあるUXにはならないのです。

また、混同されやすい言葉に「UXデザイン」というものもあります。UIデザインまたはUI/UXデザインは表層的なインターフェースデザインやインタラクションデザインを指すのに対して、UXデザインはユーザの体験そのものを設計することを指します。
UIとセットの文脈で語られるUXはあくまでWEBサイトやアプリの表層的なデザイン領域を出ないものですが、UXデザインは製品・サービスに触れる前後の体験を含めた一連の体験価値を設計することを意味します。

CXとUXの違いは?あえてUXを使う理由

UXに近い言葉にCX(カスタマーエクスペリエンス)という言葉があります。CXとは「顧客体験」を意味するもので、文脈的には「企業にとっての顧客」を表しています。ビービットでは、製品・サービスに関わるすべてのユーザの体験を重視することを強調したいため、CXではなくUXという言葉を使っています。

たとえば自動車メーカーにとってのCXの対象は車を購入した顧客です。しかし、もはや自動車メーカーは車を売るだけではなく、車に搭載したソフトウェアや関連サービスも提供しています。ドライブしているときに近くのレストランを教えてくれるといったサービスなどがその一例です。そうなると、自動車メーカーが提供している製品・サービスに関わるユーザは、車のドライバーだけでなく、一緒に乗っている人も含まれます。

対象を顧客に限定すると、一人あたりの支払額などで捉えがちですが、対象をユーザに広げてUXを考えると、いかに喜んで使ってもらえるか、何人ユーザがいるのか、といった利用頻度やユーザ数の方が重要な指標になります。
勘違いしてはいけないのは、UXとCXは、どちらが上位概念であるといったものではなく、文脈が異なるだけで、どちらも体験中心の考え方をもった共存できる概念なのです。

UXのパラダイムシフト

現代ではスマホなどのモバイルデバイスが普及し、行動データを広く取れるセンサーも発達しています。私たちの生活にオンラインが浸透し、あらゆる行動がデータ化できるようになった世界では、もはやオフラインはなくなり、リアルでの生活もオンラインに包含されているといえます。

ビフォアデジタルからアフターデジタルへ
ビフォアデジタルからアフターデジタルへ

ビービットでは、このようにデジタルがリアルを取り込んだ世界観を「アフターデジタル」と呼び、これまでのリアルとデジタルがわずかに重なっていた時代を「ビフォアデジタル」としています。
ビフォアデジタルの時代では人とモノ(製品やサービス)という関係性がはっきりしており、前述のISOの定義、つまり「製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚や反応」に当てはまるものでした。

しかし、モバイルデバイスやSNSの普及、サービスのデジタル化率が高まり、OMOの出現といった形で、デジタルとリアルがネットワークのように絡み合い、関係性がより複雑になり、これまであった境界線は曖昧になってきています。

その結果として、UXを「人とモノの関係性」として捉える時代が終わり、UXを「相互に作用する環境」、つまりシステムやアーキテクチャとして捉えるべき時代を迎えたと考える必要が出てきました。
このような社会変化を受けて、この記事のUXは、ユーザエクスペリエンスを提唱したドナルド・ノーマンが示した定義に基づいています。

(原文)
The Definition of User Experience (UX)
"User experience" encompasses all aspects of the end-user's interaction with the company, its services, and its products.The first requirement for an exemplary user experience is to meet the exact needs of the customer, without fuss or bother. Next comes simplicity and elegance that produce products that are a joy to own, a joy to use. True user experience goes far beyond giving customers what they say they want, or providing checklist features. In order to achieve high-quality user experience in a company's offerings there must be a seamless merging of the services of multiple disciplines, including engineering, marketing, graphical and industrial design, and interface design.
(出典:https://www.nngroup.com/articles/definition-user-experience/)

(翻訳)
ユーザエクスペリエンスとは、エンドユーザと、企業およびそのサービスや製品とのインタラクションにおける、あらゆる状況を包括したものである。典型的なユーザエクスペリエンスの第一要件は、いら立ちや面倒なく、顧客のニーズを正確に満たすことである。次に、所有や利用の喜びをもたらすプロダクトを生み出すような、シンプルさと気品が求められる。真のユーザエクスペリエンスとは、単に顧客が欲しいと言ったものを提供したり、顧客が期待した機能のリストをただ提供するようなことよりもはるか先を行く。企業が質の高いユーザエクスペリエンスを実現するには、多くの専門分野、たとえばエンジニアリング、マーケティング、グラフィックデザイン、工業デザイン、インターフェースデザインなどをシームレスに統合することが必要である。

アフターデジタル時代ではUXスパイラルに乗った企業が生き残る

アフターデジタルの世界では、よりよいUXを生み出すことが、競争力の源泉になっていきます。良い体験には人が集まり、データが蓄積されていきます。そして、そのデータを利用すれば、さらにUXを改善できます。
企業が成長するためには、こういったサイクルを作り出し、高速で回転させることが重要です。いま世界中で、好スパイラルに乗れた企業はどんどん成長し、乗れなかった企業との差が明確に開いています。

UXなきDXは失敗を招く。目的は「次世代のUXをつくること」

今国内ではDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタルを利用した変革)が盛んになっていますが、その多くがシステム導入や人事制度および業務のデジタル化としかとらえていません。

しかし、アフターデジタル時代では、DXはシステム導入のためではなく、従業員を含めたユーザとの新しい関係性をつくるために推進されるべきです。ユーザーの状況理解とそこに提供するべきUXの方針がないままDXを進めようとしても、中身のない変革になってしまいがちです。

UX(ユーザーエクスペリエンス)とDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義

DXでは、2つの変化が望まれます。1つは、「ユーザとの関係性を新たにする」ことから生まれる提供価値やビジネスモデルの変化。もう1つは、「コストや生産性の効率化・パフォーマンスを高める」ための変化です。日本では、後者にばかり注目されがちですが、前者なしでは後者の最適解はわかりません。

DXの目的は、次世代のUXをつくることです。より良いUXをつくることで、前述した好スパイラルが生み出され、DXが推進されていきます。UXは、DXの最重要トピックであると捉えるべきでしょう。

ビービットの提唱する「UXインテリジェンス」とは

ビービットでは、アフターデジタル時代のDXに挑むビジネスパーソンが持つべき精神とケイパビリティ(能力)を併せたものを「UXインテリジェンス」と呼んでいます。

UXインテリジェンスとは

UXとテクノロジーを扱う人材・組織の影響力は非常に大きく、その力を悪用すると「サービスを楽しく利用するうちに、気付いたら返せない額のお金を借りてしまっていた」「便利なサービスを毎日使っていたら、裏で自分の個人情報や顔のデータが勝手に売買されていた」といった恐ろしい事態にもなりかねません。

このようなUXを悪用した事例がいくつも起こると、データやAIなどのテクノロジーの活用は社会悪とされ、大きく制限されてしまいます。日本がテクノロジーの恩恵を受けて進化していけるかどうかは、いかに起業家やビジネスパーソンが善良な精神を持ってUXとテクノロジーを活用できるかにかかっているのです。

民間企業がアーキテクチャ設計を担う時代に求められる精神とは?

アフターデジタルで目指すべき社会は、「多様な自由が調和する、UXとテクノロジーによるアップデート社会」です。つまりユーザ視点だと「人がその時々で自分に合ったUXを選べる社会」となります。これは、民間企業が社会のアーキテクチャ設計を担える時代の到来を示しています。

アーキテクチャは「構造」という意味ですが、ここでは単なる構造ではなく「環境の設計を通じて、行動をコントロールする手段」を意味しています。

たとえば、リアルの世界では、踏切の音がカンカンカンカンと鳴ると、それを聞いた人は自然と「止まらなきゃいけない」と思うでしょう。また、建物にドアが付いていれば、人は自然とそこから出入りをします。このようにアーキテクチャとは、自然と周りの環境に適した行動を取るための環境設計を指しています。

踏切や信号といったリアル世界のアーキテクチャは、基本的に国によってつく作られます。一方で、インターネット上では、これまであまり国が主導したアーキテクチャ設計はなされてきませんでした。そんななかで人々が選んできたのは、より便利で使いやすいものです。

たとえば、欲しい服を見つけだすのに30分かかるECサイトよりも、多くの人は欲しい服がすぐに見つかってさらに新しいスタイルの提案もしてくれるECサイトを使うようになるでしょう。インターネット上においては、UXやUIをうまく使うことが人の行動をコントロールすることにつながるのです。

そして、リアルとオンラインの境目が曖昧になった現代では、民間企業がこれまでオンライン上で行っていたアーキテクチャ設計を、リアルの世界にも浸透させることが可能になっています。インターネット上でのアーキテクチャ設計と同様に、リアルにおけるユーザの行動も操作できてしまうのです。そうなると、設計者はある意味で「権力」を持つことになります。

だからこそ、その力は社会のため・人のためになる方向に使うべきで、ユーザに不義理な使い方をすれば前述のように社会発展の妨げになってしまいます。
DXを推進する人やウェブマーケターといったUX設計者は、社会・企業・ユーザーに受け入れられるアーキテクチャをつくる責任があるのです。

UXインテリジェンスについて詳細を知りたい方はこちらもご覧ください。
UXインテリジェンスのパレーシア第1回:今、ビービットが「UXインテリジェンス」を提唱する理由

「UXリサーチ」と「体験設計」でUXの向上を目指す

UXインテリジェンスとは、「アフターデジタル時代のDXに挑むビジネスパーソンが持つべき精神とケイパビリティ(能力)を併せたもの」と前述しましたが、ここでのケイパビリティとは「バリュージャーニーを作り、運用する力」、端的には「UX企画力(プランニングする力)」を指しています。

UXインテリジェンスで求められるUX企画力

アフターデジタルにおいては、バリュージャーニーを設計するUX企画力がなければ、企業は生き残れません。
バリュージャーニーとは、すべてのタッチポイント(接点)が1つのコンセプトでまとめ上げられ、その世界観を体現したジャーニーに顧客が乗り続け、企業は顧客に寄り添い続けるという顧客体験型のビジネスモデルです。バリュージャーニーは、次のプロセスを通じて実現します。

1. 深いペインポイントを発見・解消し、幸せなサイクルが生まれる世界観をつくる
2. コア体験を設計し、体験の自動化システムをつくる
3. ユーザの”状況”をデータで可視化させ、課題を高速で改善していく

ここから、ひとつずつ説明していきます。

1.深いペインポイントを発見・解消し、自由で豊かなサイクルが生まれる世界観をつくる

世界観の軸をつくるために必要なのが、ユーザが持っている深いペインポイント、絡まり合ってどうにもならなくなっているような課題がある状況を発見し、それを解決することです。

ペインポイントのゲインポイント化

深いペインポイントを発見するためには、行動観察やデプスインタビューによって、時系列も考慮しながらユーザ一人ひとりに起こっている因果を丁寧に読み解く必要があります。
これらを実施すると、さまざまな小さな課題や人それぞれの個別状況が出てきますが、大事なのは状況を「出来事」として捉えるのではなく、「こんがらがった構造やシステム」として理解することです。

状況理解ができたら、その状況に対して「理想的な状況」を描きます。マイナスの状況を改善する方法は次から次へと浮かんできやすいですが、たくさんアイディアを出すよりも、「不自由で貧しい状況」はなぜ発生しているのか、どこを変えたら自由で豊かなサイクルを生むことができるのかをひたすら考えるのがコツです。
「ここをこう変えたらすべてが好転する」というトリガーが見つかれば、そこから自社の強みを活かした、いまの時代に合った世界観をつくれます。
(参考)
ペインポイントを見つけるには?ユーザ視点で不自由や貧しさを解消する方法

2.コア体験を設計し、体験の自動化システムをつくる

理想的な状況を定義しコンセプトの仮設ができたら、それを一度体験に落とし込み「コア体験」を作っていきます。コア体験とは「不自由で貧しい状況を解決し、理想的な状況に転換し得る体験」を指しています。深いペインポイント(ユーザの悩み・困りごと)を解決して高い価値提供をすることで、ユーザが「このサービス・機能はすばらしい、使いたい」と思うようになります。

ジャーニーボードにおけるコア体験の設計

アフターデジタルのビジネス原理からいえば、コア体験では高頻度な接点を設定するべきですが、無目的に高頻度で利用してもらう必要はありません。「得られる接点やデータからUXが改善できるのか」「どのようにビジネスにつなげていくのか」が高頻度な接点を設計する目的となります。

そして同時進行で、ユーザの成長シナリオを描き、どの程度の頻度で使ってもらう必要があるかを考えていきます。ユーザの成長シナリオは、ビジネス目標だけを設定するのではなく、設定した世界観に沿った「なりたい自分」「送りたい生活」に向かってユーザが成長できるように設計します。

どのようなメリットでユーザがサービスのアップグレードをしたくなるのか、そのメリットを得る前後でどのような状態変化(たとえば特定の機能を使うことで仕事の効率が向上し、チームメイトにもおすすめしたくなるなど)が起こるのかを考えましょう。

高頻度接点の検討はコア体験とセットで考え、「コア体験に隣接する領域」で高頻度接点をつくることが肝になります。
たとえば、複数の病院を比較して診療予約ができるサービスをコア体験に置くなら、「健康情報メディア」「歩くとポイントがもらえる」「健康グッズや美容品の購入」などを高頻度接点として設定できます。得られたポイントを使うとコア体験がより便利になる、安くなるなど、連携して接点頻度を高めていくことも可能です。

コア体験、成長シナリオ、高頻度接点という体験設計ができたら、次は「最適なタイミングに、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーションでの価値提供」が自動でまわるような仕組みを作ります。

ここでは、テクノロジーを活用して「ユーザの状況を把握し、条件が満たされたら指令を出す」というシステムをつくります。たとえば、ECサイトなどでよく見られる「これを買った人にはこれがおすすめ」といった個人に合わせたレコメンド(おすすめ)を提示するようなシステムも、自動化された体験のひとつです。

3. ユーザの”状況”をデータで可視化させ、課題を高速で改善していく

バリュージャーニーの運用を組織に定着させるためには「ユーザーの状況を把握して対応するUX企画力」が必要です。このとき、ユーザーの状況を把握し、ユーザー理解の解像度を高めるテクノロジーを活用することで、人間の思考や企画の助けになります。

これまでユーザの状況を理解しようとする場合、個別インタビューやアンケートなどの手法が主流でした。しかし、こういった手法で得られる「ユーザの声」は、ユーザが嘘をつくつもりはなくても記憶が曖昧だったり、本当の感情を表現できなかったり、ユーザ自身の答えにぴったりの選択肢がなかったりなど、真実から遠いものになってしまっていることもありました。

あらゆる行動をデータ化できる現代では、ユーザの行動履歴がデータとして残るため、それを分析することで「どこで違和感を抱いているのか」「どんなコンテンツが好きなのか」といったことが理解可能です。また、テクノロジーを利用することで、膨大なデータからの判別が可能になり、人間の限られた処理能力では見落としていた課題に気づけるようになります。

課題を発見した後によくやってしまう間違いとして見受けられるのが、短絡的な課題への対応です。たとえば、「1ヶ月以内に4回購入した人は、その後定着する傾向にある」と発見し、4回以上の購買を増やそうと考え、3回購入した人に期限付きの4回目購入用クーポンを配ることがよくあります。しかし、このやり方ではユーザの状況に即したものにはなっておらず、ほとんどの場合は定着にまで至らないでしょう。

大事なのは「なぜそのような行動をしたのか」という理由と状況を考え、想像し理解することです。
とある企業では上記と似た傾向が見られた際、さらに深掘りした分析を行ったところ「多くのユーザが1人に向かってギフトを送っている行動」が発見できたそうです。

これはどうやら、地下アイドルに対してファンがギフトを贈っているようだとわかり、アイドルにギフトを贈る使い方を促進するプロモーションを行うことで、アイドルのファンをオンボードすることに成功しました。

本当にターゲットにすべきユーザに向けたUX企画をつくるためには、「自分だったらどんなふうに使うのか」「人がこんなふうに使うのはどんなときか」と、ユーザの行動を自分のことと仮定して想像することが重要です。そうして初めて顧客の置かれた状況を理解でき、その状況を支援したり加速したりする施策が打てるようになるのです。