【動画】顧客ロイヤルティ経営とは何か? ネットプロモータースコアからネットプロモーターシステムへ

顧客志向な理念を掲げてスタートした企業も、事業が軌道に乗り組織が拡大していく中で、徐々に理念を実践し続けることが難しくなっていく。本コラムでは企業が顧客志向を実践し続けるための「顧客ロイヤルティ経営」のあり方とその価値について考えてみる。

顧客志向でビジネスを行うとは?

「顧客にとって価値のある仕事をしたい」と考えている方は多いだろう。

しかし、企業が存続していくためには売上・利益が必須であり、企業では売上・利益の確保のために必ずしも顧客にとって価値を生んでいない活動がしばしば行われている。

顧客への価値提供を理念として掲げてスタートした企業でも、社員や株主といった関係者が増えるにつれ、顧客への価値提供だけをピュアに追い続けることは徐々に難しくなっていく。

また、企業規模の拡大は顧客と接しない社員の増加を意味する。その結果、規模が拡大するほど、企業で働く社員は自分の日々の仕事が顧客に価値を提供するものであるかどうかを判断するのが難しくなり、企業側が思い描く「顧客志向」と顧客が求める真の顧客志向の間に乖離が生じやすくなっていく。

弊社ビービットでは、企業、特に組織の大きな大企業がどうすれば顧客志向での経営を実践することができるのか、5年ほど前から国内外の先進企業の事例調査や経営者へのヒアリングを行ってきた。

その中で得られたインプットに基づき、弊社では顧客志向を実践するためのアプローチを「顧客ロイヤルティ経営」と名付け、それを「顧客への価値提供を伴う「良い売上」のみを追求することによって、企業の中長期的な成長を実現する経営」であると整理している。

この「顧客ロイヤルティ経営」のコンセプトを説明したのが、以下の動画である。

【動画】「顧客ロイヤルティ経営」とは何か (youtubeに移動します)

良い売上を追求する「顧客ロイヤルティ経営」

上記の動画でも取り上げている通り、顧客への価値提供や顧客満足を無視して、売上ばかりを追求することは、顧客の離反や従業員の士気低下を招き、将来の事業存続のリスクを高める。

※「悪い売上」についての詳細は過去のコラム「ロイヤルカスタマーは売上上位顧客ではない」をご参照頂きたい。

だが、価値提供を伴わない「悪い売上」だと気づいたからと言って、その売上を捨てることはなかなか難しい。しかし、実は顧客への価 値提供を真摯に追求することによって、収益拡大を実現している先進企業が存在している。

【スーパー オオゼキの事例】

【証券会社 チャールズ・シュワブの事例】

これらの企業はなぜ、顧客ロイヤルティ経営を実践できているのか。その背景には、顧客からのロイヤルティを測る「顧客ロイヤルティ指標」を導入し、「良い売上」と「悪い売上」を識別し、良い売上の追求と悪い売上の排除に努めていることがあげられる。

顧客ロイヤルティ指標を用いて顧客からのロイヤルティを定量化できれば、顧客ロイヤルティと売上の相関関係が把握できる。そうすれば、顧客ロイヤルティ向上によって長期的に得られる「良い売上」と短期的に失われる「悪い売上」を比較し、どちらが自社の今後にとって望ましいのかを正しく判断することができる。

また、顧客ロイヤルティ指標を企業活動の管理指標の一つとし、顧客からのフィードバックを事業の方向性を決める材料に組み込めば、企業が思い描く「顧客志向」が、顧客が求める顧客志向と食い違い、企業側が「良い売上」だと信じていたものが実は「悪い売上」だった、という状況を防ぐこともできる。

顧客への価値提供を伴わない「悪い売上」をできるだけ減らし、顧客への価値提供の結果である「良い売上」の維持・拡大を目指すこと。それによって強固な顧客基盤・組織基盤を創り、中長期的な事業成長を実現すること。

このような経営が、顧客志向を実践し、それによって成長し続けるための「顧客ロイヤルティ経営」のコンセプトである。

NPSはネットプロモータースコアではなく、ネットプロモーターシステムである

経済の成熟、少子高齢化が進む現在、既存顧客のつなぎ留めの重要性が高まっており、顧客ロイヤルティを重視する経営に関心を持つ企業が増えている。それらの企業では、主要な顧客ロイヤルティ指標である「NPS(ネットプロモータースコア)」(注1)の導入も進んでいる。

この動きの中で気になるのは、NPSを導入する企業の多くは、顧客ロイヤルティ向上を売上拡大の手段の一つとして捉えており、売上目標達成に最適化された枠組みの中で従来のKPIの一つがNPSに置き換えるだけで成果を得ようとしている点である。

他社ではなく自社を選び続けてくれる。他の人におすすめしてくれる。このようなロイヤルティの高い顧客群は、NPSを指標化だけによって生み出すことは難しい。「どうすればNPSが上がるのか」という方法がセットにならなければ、指標がNPSに変わってもどのように改善活動につなげて良いか分からず、成果が見えずに立ち消えになってしまう可能性が高い。

事実、顧客ロイヤルティ指標を開発したベイン・アンド・カンパニーのF・ライクヘルドは、NPSについて説明した著書の中で、「NPSは"ネットプロモータースコア"ではなく"ネットプロモーターシステム"だ」と述べている。

NPSは単にロイヤルティという曖昧な概念を定量化する指標としてだけでなく、社員がもっと顧客志向で動くように駆り立てるシステムとして企業に取り入れられるべきものなのである。(『ネット・プロモーター経営 顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』 フレッド・ライクヘルド 2013年 プレジデント社)

NPSは単なる「指標」ではなく、ネットプロモータースコアの向上につながる業務プロセスの設計、その業務を遂行する社員の採用・育成、社員の日々の行動に影響をおよぼす企業文化、これら一連の要素が組み合わさった「システム(仕組み)」として考えるべきものである。

NPSがシステムとして成立して初めて、顧客への提供価値の向上によって中長期的な事業成長を実現する顧客ロイヤルティ経営が可能になるのである。

顧客ロイヤルティ経営を実践する企業が増えた未来

最後に、顧客ロイヤルティ経営が、価値を提供する側である企業内の従業員に及ぼす影響についても触れておきたい。

企業は多くの人が働き手として多くの時間を過ごす場でもある。ドラッカーは「企業は人の生き方を規定する社会的組織である」と述べているが(『企業とは何か』P・F・ドラッカー 2005年 ダイヤモンド社)、人々が企業内で働き手として担う仕事が価値あるものであれば人々は やりがいを感じ、逆に顧客を騙すような仕事であれば人々の心は荒んでいく。

あなたは自分の両親にあなたの会社の商品やサービスを薦めたいと思うだろうか。自分の子どもにあなたの会社で働いて欲しいと思うだろうか。あなたの仕事は、誰かの役に立つものだろうか。

顧客ロイヤルティ経営は、顧客への価値提供を仕事の起点にすることで、企業で働く社員の一人ひとりが日々、顧客への価値提供を考え実践している状態を目指す。

顧客ロイヤルティ経営を行う企業が増えていけば、顧客にとっての価値が増えるのはもちろん、従業員にとってのやりがいや貢献実感も増え、社会全体が豊かになっていく。そのような未来を描くことができるのではないだろうか。

売上・利益などで表される既存の財務目標は、収益が上がる過程を可視化しない。財務指標には誰にどんな価値を提供しているのか、仕事における人間的な感性が組み入れられておらず、結果として何を追っているのかが分からなくなるリスクを抱えている。

顧客ロイヤルティ経営は、顧客ロイヤルティ指標という人間の感性を反映した指標を企業経営に追加することで、顧客にとっての価値だけでなく、社員のやりがい・貢献実感を高めていくための経営モデルと言うことができる。

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注1)NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

  • 執筆者:肥後 真
    株式会社ビービット コンサルタント

    京都大学総合人間学部卒業