Date : 2019

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21Mon.

中国の配車アプリ・滴滴出行(DiDi)とは - デジタルがリアルを包み込むってどういうこと?第2回

アフターデジタル

エクスペリエンス事例

大した話じゃないかなと思って特にPRしてなかったんですが、実は田城は昔中国に留学していたことがあります。1999年に、しかもなぜか福建省に(笑)。 厦門(アモイ)という異国情緒溢れる暖かい港町だったのですが、交通手段は基本バスかタクシー(最近は地下鉄もできた他、BRTという新交通システムがあるらしいですが、モノレールか何かのふりして単に専用高架橋をバスが走っているだけです)。私はもっぱらバスユーザで、1年間の留学期間中になぜか全路線を制覇するという、乗り鉄ならぬ、乗りバスみたいなことをしていました。 なんでかというと。 タクシーは危なかったから。

冷静に昔の写真を見ると、バスもまあまあ危ないですね。そこで降ろすんだ…。(現地で買ったトイカメラで撮ったので、時空が歪んでいます)

厦門のタクシー危ない伝説その1:ドアが外れる。

友人が3人で後部座席に乗ったら、カーブで後部座席右側のドアが外れたそうです。カーブで押し出されそうになり、パニクる友人。怒鳴る運転手。「手すりにつかまって!」
いや、止まれよ!

厦門のタクシー危ない伝説その2:ブレーキが壊れる。

友人と私の2人で乗っていたのですが、途中でブレーキが壊れたと運転手から申告があり。蛇行しながら慣性に従って走り続けるタクシー。あ、これ死んだな、と思いました(実際は時速5㎞くらいまで下がったタイミングで通行人を轢いて止まった←この人も無事でした)。遠回り、ぼったくりは日常茶飯事。言葉が通じない外国人だけでなく、現地の人間にすら「まともな運転手に当たるかどうかは五分五分」と言われていました。留学後半には語学力がついてぼったくり運転手と互角に怒鳴りあいができるようになったので、必要に迫られたら乗っていましたが、それでもちょっと心理的には抵抗がある、それが99年の中国のタクシーの印象でした。
時は流れて2017年。取締役の中島から上海研修の誘いがありました。何やら今、上海がデジタルで凄いことになっているらしく、片っ端から社員に見学させているのです。その順番が私にも回ってきたのでした。
「特に田城は、タクシーでびっくりするよ」

特に変わってないじゃないか

上海浦東空港に降り立ったのは2017年の12月末。実に7年ぶりの中国大陸でした。寒風吹きすさぶ空港で、タクシー乗り場に向かった先で見つけたのは、おなじみのタクシー。古いセダンが列を作っています。比較的綺麗なタクシーを選んで乗ろうとするも、係員にオンボロタクシーに押し込まれ…。
古びたゴム、破れた合皮のシートレザー、「禁止吸煙(禁煙)」と大書きされているにも関わらず目に見えるレベルで漂うたばこの煙…。運転手のお父さんからは脂っぽいにおいがします。
遠回りされたらすぐに怒鳴れるよう、10数年ぶりの中国語を思い出しながらWechatの位置情報サービスをにらみ、オフィスについたら絶対中島締める、と思ってました…。

昔懐かしいタクシー。レースのカバーしがち。車内で弁当食べがち。

上海の配車アプリ・滴滴出行(DiDi)とは

さて、ここまで厦門と上海のタクシー事情について延々愚痴を書いてきましたが、今回紹介する滴滴出行(DiDi※ディーディーと読む)は正確にはタクシーではなく、配車アプリです。


呼べる車のランクは以下の5つ。


・順風車:ライドシェア(乗り合い)。サラリーマンが運転手をしていることも。最も安い。

・出租車:一般のタクシー。DiDi経由で他社のタクシーを呼ぶ形。料金はタクシー会社のメータ次第。

・快車:DiDi専門のタクシー。通常快車と優良快車があり、優良だと料金は出租車よりやや割高。

・礼燈専車:DiDi専門の高級タクシー。セダンだけでなく、6人乗りなどもある。料金はや通常快車の1.5倍程度。お水のサービスつき。

・豪華車:DiDi専門の超高級タクシー。ベンツなどに乗ることができる。料金も最も高く、通常快車の9~10倍くらい。お水の他にお菓子もついてくる。

こちらは豪華車のイメージ(DiDiのウェブサイトより)

2016年にウーバーチャイナを買収したこともあり、日本では順風車(ライドシェア)のイメージが強いと思いますが、サービスラインナップを見る限り、タクシーのほうが強いと思います。

滴滴出行(DiDi)のここがすごい1:アプリが便利

アプリでは、例えば以下のようなことができます。

タクシー配車中の画面。ナンバーに加えて車種や色、運転手の顔写真、ランクも書かれていてわかりやすく安心。アプリ上で簡単なメッセージのやりとりができ、なんと英語⇔中国語は自動翻訳される。

・タクシーの配車だけでなく、予約もできる。(空港送迎の場合、何と便名を入れておくと飛行機が遅れても対応してくれる!)

・乗車時、地図上には推奨ルート、混雑具合、自分とタクシーの現在地、推定到着時間、推定金額と現時点での金額が表示される。

・乗車後、乗車体験の評価とフィードバックが送れる。(ドライバー側も実は乗客を評価しています。後述)

・他にもなぜか保険やローン、ECなど、至れり尽くせりの機能が満載。

ユーザとして使っていて便利なのは予約と自動支払いですかね。
特に支払いはアプリ上で走行データに基づいて計算されるので、中国ではありがちな、「運転手がメータをいじって勝手に金額を上げる」ということができず、とても安心です。
また、地図上にDiDiが示す推奨ルートが表示され、タクシーが間違いなく正しいルートを走行していることがわかるのも、とても安心できます。

って、どんだけ中国のタクシーに不信感あんねんって話ですが、いや、99年のタクシーは本当に野蛮だったんだよ…。

最近のDiDiのサービス一覧。多角化経営かな。色々試してるんでしょうね。

滴滴出行(DiDi)のここがすごい2:客も運転手も評価される

タクシーを降りるとすぐ、アプリに「今の運転を評価してください」と表示されます。

以前は細かい項目をたくさん答える形式だったのですが、最近はシンプルになってまして、
最初に「満足」か「不満」を選択し、次にそれぞれの理由を1つ選択する形になっています。
満足だったら「サービスが良かった」「温度が適切だった」「臭くなかった」など、不満だったら「うるさかった」「汚かった」「運転に集中していなかった」などから一つ選びます。(そのほかを選んで詳しくコメントすることも可能。)これらの選択肢は、これまでのアンケートから、満足・不満足の鍵になる要素を特定して、選ばせているようです。

評価画面の最初はこんな感じ。シンプルに「満足」か「不満」で答えます。

運転手は乗客からのフィードバックの他、運転手用アプリによって、呼出し後の到着時間・ルートの正確性・急ブレーキ、急発進の有無などが記録され、評価されています。こうした実際の運行データも取ることで「乗客に賄賂を渡して高評価をつけてもらう」ことを防いでるんだとか。賄賂て…!
私が思うに、DiDiの肝はこのリアルとデジタル双方を併せたフィードバックにあると思っていて、実はこれ、乗客も運転手から同様に評価されます。
この評価によってDiDi内で運転手も乗客もランク付けされ、評価の高い運転手は金額を稼ぎやすい長距離が優先的に回されるようになり、評価の高い乗客は、高評価の運転手がすぐに迎えに来てくれるようになっています。
また、運転手はこのランクによって昇格試験を受けられるようになり、快車→礼燈専車→豪華車と昇進していきます(同時に給与も上がる)。
その結果、乗客はエレガントに利用するようになり、運転手は執事のように丁重にお客を迎えるようになるわけですね。

滴滴出行(DiDi)の礼燈専車に社員を乗せたらどうなったか

いや、一言で言うと「寝た」なんですが…。

99年のトラウマを引きずる身としては、中国でタクシーで寝るって身ぐるみ剥がされたいのかよ!って言うくらい無防備な行為なんですよ。それが、うららかな上海の陽気に当てられたこともあり、6人乗りタクシーで私以外の全員が寝ました…。
まず、運転手がとても礼儀正しく、見るからに信頼できる風貌でした。糊のきいたワイシャツにネクタイ、清潔感に満ちていて、そして実際に清潔。社員が寝落ちしたとみるや否や、更に加速減速、カーブに気を使い、起こさないように努めてくれました。
更に驚いたのが、社員が勝手にDiDiのロゴのペットボトルの水を飲んでいたことなんですが、これ、サービスなんだそう。無料だから好きなだけお召し上がりください、と言われ、あ、これ、動くリッツカールトンかな、と思いました…。
駐在員の藤井や取締役の中島は、タクシーの中が静かなので仕事をしたり、電話会議をしたりするそうです。信頼があるから、もうアプリで位置を確認したりしないんですね…(結局DiDiに乗っていた間はずっと地図を開いていたトラウマの癒えない私)。

で、このエピソードのどこがOMOなのよ

エクスペリエンスデザインを語る際、いかにユーザの体験を設計するか、という点にフォーカスしがちです。ただ、実際にはユーザ体験を完成させるのは現場で相対する人間だったりします。(DiDiの場合は運転手)。最前線でユーザに接する運転手の提供するサービスが悪ければ、それはユーザの体験にダイレクトに跳ね返ってきてしまうわけです。
そこでDiDiはアプリによってユーザの体験と共に、運転手の体験を作りこみました。

・どういった行動を高く評価し、どういった行動を低く評価するかを明示

・運行データやユーザ評価を元に行動を客観的に評価

・ユーザからの評価をフィードバックにも活用して運転手のモチベーションを高める

を行うことで、運転手が自発的にアプリに従ってユーザ中心に行動するよう方向づけたのです。
DiDiが提供したいサービスを運転手が提供すれば、評価されて良い乗客が回されるようになり、昇進試験も受けられ、昇格したら給料も上がる。体験設計によって、優れたドライバーを育成しているわけですね。
また、運転手がグレる(笑)原因の一つに、「乗客の態度の悪さ」というものがあると思うんですが、乗客も相互評価されることによって、行儀が良ければ待ち時間が短くなるなど、得をするようになります。体験設計によって、上客に育成していくわけです。

こうして、運転手と乗客双方の育成が好循環を生むことで、より良いタクシー体験が実現しているわけで、これを考えた人は本当に頭がいいなあ、と思いました。
この好循環を生む、乗客と運転手をつなぐ鍵になっているのがDiDiの配車アプリで、まさしくデジタルがリアルを包み込む好例だと言えると思います。

日本版DiDiは成功するのか

滴滴出行はソフトバンクとのジョイントベンチャー、DiDiモビリティジャパンを設立し、2018年9月末には大阪でサービスを開始させました。
ただ、日本で展開しているのは上海で展開されている5つのランクのうち、出租車のみ。DiDi専門のタクシーではなく、既存のタクシー会社のタクシーを配車させる仕組みにとどまっています。
上述の通り、中国でのDiDiの成功の肝が「アプリによって運転手と乗客の好循環を生む」だとすると、日本版DiDiが成功するかどうかは、アプリによって提供された運転手の評価を、それぞれのタクシー会社がきちんと運転手の人事評価に活用できるのか、に掛かっていると思います。それができれば、運転手の皆さんも何によって評価されているのかがわかって、納得感や働きがいが生まれ、更にサービスが向上するのではないかと。
個人的には、早くあの動くリッツカールトンに日本に上陸してほしいです。
https://www.shogyokai.co.jp/conference/3/

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