「顧客価値戦略サミット2015」レポート【第1部:ビービット講演】

2015年12月、顧客ロイヤルティ経営に関心を持つ方々にお集まり頂き、「顧客価値戦略サミット2015」を開催致しました。今回のコラムでは同サミットから顧客ロイヤルティ経営の基本に関する講演内容をご紹介致します。

2015年末、「顧客価値戦略サミット2015」を開催しました

2015年12月8日、丸の内トラストシティのカンファレンスルームにて株式会社ビービット主催「顧客価値戦略サミット2015」を開催しました。

当日は287名の方にご来場頂き、「顧客価値」「顧客志向」「顧客ロイヤルティ」といったキーワードについて、講演やトークセッションなどを実施致しました。

参加頂いた皆様からは「概念的な話と実践的な話の両方が聞けて良かった」「顧客志向活動を現場に接続したり、定着させたりする方法が参考になった」「ホンネやジレンマも含めた生の声が聞けた」といった感想を頂きました。

今回のコラムでは、サミットで行われた講演のうち、顧客ロイヤルティ経営の基本を説明した「顧客ロイヤルティ経営へのブレイクスルー」の概要をご紹介致します。

【第1部:講演】顧客ロイヤルティ経営へのブレイクスルー

サミットの第1部では、ビービット代表取締役・遠藤が、21世紀のビジネスにおいて顧客ロイヤルティが必要な理由や、曖昧なままに語られがちな「顧客価値」「顧客ロイヤルティ」の定義と「顧客満足」の違い、日本企業が顧客ロイヤルティ向上に取り組んでいくためのアプローチについて講演を行いました。

「顧客ロイヤルティ」が今なぜ必要なのか

遠藤:「ご存知の通り、日本国内の労働人口は年々減少し、それに伴って需要総量も低下していきます。すなわち、今後の事業運営にあたっては、新規顧客の獲得よりも既存顧客をいかに維持するかの重要性が高まってきます。」

遠藤:「この状況に対して、多くの企業が取り組んでいる打ち手は2つあります。1つ目は「海外展開」、2つ目は「新事業開発」です。しかし、海外の新興市場に事業を展開したとしても、やがてはそれらの市場も日本と同じく成熟化が進んでいきます。また、既存の顧客基盤の活用を目指して新事業の開発に取り組んでいる企業も多いですが、既存の顧客基盤が活かせるかどうかは、彼らから十分なロイヤルティを獲得できているかどうかにかかっています。」

遠藤:「たとえばAmazonが次々と新しいサービスを展開できているのは、彼らが無料配送や即日配送など「さすがAmazon」と思わせるようなサービスを提供してきた結果、「Amazonが始めたサービスなら使ってみよう」という信頼感を顧客の間に醸成できていることが大きいでしょう。顧客からのロイヤルティが獲得できていなければ、既存の顧客基盤を強みとして活かすことは難しいはずです。」

遠藤:「縮小が続く国内市場で既存事業を維持するにしても、あるいは海外展開や新事業開発に取り組むにしても、現代の企業にとって既存顧客のロイヤルティ創出は、次なる一手の成功に欠かせない経営課題となっていると言えます。」

「顧客ロイヤルティ向上」とこれまでの取組みとの違い

遠藤:「顧客ロイヤルティを目指す活動は、古くから行われてきた顧客満足度向上活動(CS活動)と何が違うのでしょうか?」

遠藤:「両者の大きな違いは、目標とする水準にあるといえます。CS活動が「問題ない」水準を目指すものだったのに対し、顧客ロイヤルティ向上活動は「感動水準」をゴールとしています。他社と比べて見劣りしない水準ではなく、他社とは圧倒的に違う水準を実現することによって、競合との差別化を行い、事業成長につなげていこうという活動なのです。」

遠藤:「では、感動水準はどのようにして生み出せるのでしょうか。そのためにはまず、表面化した顧客の声に応える受け身の対応だけでなく、顧客が声に出来ないことを含めて、企業側がロイヤルティ向上に自発的に取り組むことが求められます。」

遠藤:「また、従来のCS活動は部門ごとに行われることが多く、改善施策も各部署の管轄内に留まることがほとんどでした。一方、感動水準を実現するためには、様々な部署とのやり取りで構成される顧客体験を「一連の流れ」として捉え、部門を横断した大きな打ち手を行っていく必要があります。」

収益と相関する「顧客ロイヤルティ」

遠藤:「実際、弊社が以前ご支援したあるサービス会社では、顧客満足度調査の結果は高いのに、契約数は減少していました。満足度と収益が相関しない事態が発生していたのです。すなわち、「満足した」「問題がない」といった水準では顧客をつなぎ留められないということを示しています。」

遠藤:「満足度が「問題ない」水準を測る指標であるのに対し、「感動水準」を測る指標としてはNPS(ネットプロモータースコア)(注1)があります。NPSは「当社をご家族やご友人におすすめする可能性はどのくらいありますか?」という質問から算出されますが、この質問は回答者に対し、紹介することで生じる責任について考えさせたり、「他社ではなくこの企業を薦めるだろうか?」という競合との比較をさせたりすることになります。その結果、NPSは満足に比べ、自社についてのより厳密な評価を顧客から得ることができます。」

遠藤:「先ほどご紹介したサービス企業では、NPSを調査してみたところ、顧客満足度調査の結果とは対象的に、NPSはマイナス評価となっていました。気づかない間に顧客ロイヤルティが毀損されていた結果が、ある日収益減となって表面化したのだと考えられます。」

顧客ロイヤルティが日本で成功しにくい理由

遠藤:「ただ、日本企業でロイヤルティを向上させようとしても、なかなかうまくいかないのが実情です。その背景には大きく2つの理由があります。」

遠藤:「1つ目の理由はサイロ化した組織です。企業組織内では通常、マーケティング・商品開発・営業・カスタマーサポートといった部署ごとに活動が行われ、自部署の担当領域以外は対応することが難しい環境になっています。一方顧客からしてみれば、ある企業のカスタマーサポートに電話した際に「担当ではないので別の部署に改めて電話し直して下さい」と言われたらむっとします。「せっかく繋がったのだから、担当部署に直接転送して欲しい」と思うでしょう。縦割りの組織構造と、顧客の期待の間に生じるギャップが、顧客ロイヤルティ向上を阻害しているのです。」

遠藤:「2つ目の理由は、顧客ロイヤルティを追求しようとした場合に、短期的には売上減少につながる可能性があることです。顧客を混乱させる複雑な料金体系や退会を防ぐための手数料は、顧客の不満を招いていると分かりつつも、それらが一定の利益を生んでいる場合、やめたくてもやめられないという企業も多いのではないでしょうか。」

遠藤:「本来、売上は顧客に価値を提供し、顧客が喜んだ結果として得られるもののはずです。しかし、結果である売上だけを追っていると、その結果に至るプロセスが見えなくなり、顧客が怒らせるような手段を使って売上を得ていてもそのことに気付きづらくなってしまうのです。そのような「悪い売上」を識別し、顧客のロイヤルティの向上の結果である「良い売上」のみを追求することが、真のロイヤルティ経営と言えます。」

国内企業における変革アプローチ

遠藤:「どうしたら日本企業において顧客ロイヤルティ経営を定着させることができるのでしょうか。そのためは大きく3つのアプローチが必要だと考えています。」

遠藤:「まず1つ目のアプローチとして必要なのは、「顧客ロイヤルティリーダーによる成果創出」です。すなわち、顧客ロイヤルティに共感する理念型のリーダーが、ロイヤルティ向上によって収益が伸びることを証明する「成功事例」を作ることです。」

遠藤:「先ほどお伝えしたように、顧客ロイヤルティ向上には組織横断での改善活動が必要になるため、本来はあらゆる部署に対して権限を持つトップマネジメントが主導して行うことが理想です。ただ、トップマネジメントが動くためには、まずは顧客ロイヤルティ向上によって収益が向上し、現場の士気も上がった、というような成功事例をつくり、コンセンサスを形成する必要があります。この事例は小さなもので構いませんし、リーダー役は組織のミドル層でも務めることが可能です。」

遠藤:「2つ目のアプローチは、NPSなどの顧客ロイヤルティ指標を経営指標として導入することです。多くの企業では売上が経営指標として用いられていますが、先ほどお伝えしたように、売上だけを見ていては、顧客が喜び、ロイヤルティが向上した結果得られた売上なのか、顧客が怒り、ロイヤルティを低下させながら得られた売上なのかを判別することはできません。顧客ロイヤルティを追求するビジネスをしようと思ったら、お客様が喜ぶことを目標として設定する必要があります。顧客ロイヤルティ指標を経営指標として導入することで、顧客ロイヤルティが収益に繋がるビジネスモデルを実現することが可能になります。」

遠藤:「一度、目標指標が設定されれば、それを実行するためのアクションが必要となり、結果として組織横断で顧客体験向上の役割を担う部門の立ち上げにつながっていきます。これが3つ目のアプローチです。サイロを調整することができる組織横断部門を設置することが、活動を確実に前進させていくためのカギとなります。」

まとめ

遠藤:「顧客ロイヤルティ経営は全体最適が必要なため、最終的にはトップマネジメントを巻き込まないと実現できないテーマです。ただし、活動の起点となるのは顧客ロイヤルティに共感し、その実現を目指すミドル層のリーダーたちです。彼らが顧客ロイヤルティの追求によって収益も伸びることを示す「小さな成功事例」を積み重ねることによって、顧客ロイヤルティは徐々に経営課題となり、全社的な取組みとして昇華していくはずです。」

※顧客価値戦略サミット第2部・トヨタ自動車トヨタ店営業部部長木村氏のトークセッションレポートはこちら
「顧客価値戦略サミット2015」レポート 【第2部:トヨタ自動車様トークセッション】

※顧客価値戦略サミット第3部・ソニー損保CXデザイン部部長片岡氏のトークセッションレポートはこちら
「顧客価値戦略サミット2015」レポート【第3部:ソニー損保様トークセッション】

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注1)NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

  • 執筆者:肥後 真
    株式会社ビービット コンサルタント

    京都大学総合人間学部卒業