第43回 改善に結びつくKPIを立てるには -ユーザシナリオによるKPI策定-

成果に結びつくKPIの立案方法を解説します。

本コラムのサマリ

  • サイトのビジネス成果を向上するためには、まずKGI(重要目標達成指標)を明確化すること、KGIに至る中間指標(KPI)を設定することが重要。
  • ただし、闇雲に取得可能な数字を追跡しても、成果には結びつかない。
  • サイトのゴールに至るまでの主要導線と成功因子を明らかにすることが、有用なKPIを作る鍵となる。
  • 主要導線と成功因子の抽出には、ユーザの心理や状況を踏まえたユーザシナリオを策定する必要がある。

KPIを立てているのに、なぜ改善へ結び付けられない?

企業のウェブサイトは、最終的に何らかのビジネスゴールを達成するために運営されます。最終的なゴールとは、コマースであれば「売上げ(高)」、営業機会の増加であれば「問い合わせ、資料請求数」といったものです。
ウェブサイトを効果的に活用していくためには、ビジネスプロセスにおいてウェブサイトで「実現すべきことは何か」をまず明確に定める必要があります。
この、実現すべきゴールは、マネジメント用語ではKGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)と定義しています。
ウェブマスターやコンテンツ担当者はKGIのほかに、少なからず数字を背負って業務を行っていますが、これらは本来、KGIの向上に繋がってくる指標であるべきです。

最終成果であるKGIに対し、KGIに繋がる中間指標がKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)です。
PIも元来マネジメント用語ですが、ウェブサイトの重要性の高まりや、ウェブサイトの効果を測定する解析ツールの浸透に合わせて、インターネットの世界でも大分広まってきた概念です。

ここで、改めてKPIについて考えてみたいと思います。

KPIというとどんな指標が思い浮かぶでしょうか。
PV、セッション数、離脱率、平均滞在時間といったものがよく挙げられる指標です。
これらは、アクセス解析ツールでも比較的簡単に取得できる指標であり、数字の意味としても比較的わかりやすい指標です。
ただ、これらの指標を定期的に測定することが、ウェブサイトの改善、つまりKGIの向上に結びついているかどうか、振り返って考えなければなりません。
アクセス解析を長く続けているが、なかなか改善に繋がらないといった声はよく聞かれます。
毎月のレポート作成が大変で、作ることで精一杯といった話もあります。
なぜ、数値を追いかけているにも拘らず改善に結びつかないのか、これからはその原因を考えていきましょう。

KPIは何のために作るのか

今からKPIの位置づけを整理してみたいと思います。
KGIがウェブサイトでのゴールに到達できたかという指標であることはご説明しました。これは「結果指標」といえます。
これに対し、KPIは結果に至るプロセスの到達度合いを計る指標になります。

KPIはゴールに到達するまでの重要な道のりの状態を数値化したものであり、以下を満たすことが要件になっていきます。

  • 1. KGIの改善に繋がる
  • 2. 効率的かつ的確に成果管理ができる

多くのウェブマスターは限られた時間で多く業務を行っていることを考慮すると、数字を見るだけで課題の箇所が特定可能であり、かつシンプルで管理の負荷が掛からないことが、良いKPIの条件といえそうです。

シナリオによってKPIを意義ある指標にする

では良いKPIを作るにはどうしたら良いのでしょうか。
KPIはプロセスのパフォーマンスを評価する指標ですから、まず最終結果を達成するための重要な要因をはっきりさせなければなりません。
この重要な要因を、KSF(Key Success Factor、キーサクセスファクター)と呼びます。KPIはそれを測定可能(見える化)にした指標です。
良いKPIを立てるためには、まずKSFを突き止めることが必要条件となります。

まずKSFの1つの要件としては、ゴールに達した人が多く通る道筋、すなわち「主要導線」にあることです。ボリュームが大きいということは、KGIへ与える影響も大きいと言えます。
もう1つの要件が、成果を左右する重要な働きを持つものかどうかです。
例えば、金融機関における住宅ローンの資料請求に至るには、ユーザが自分の状況に即した返済額を知ることが商品に対する具体的な興味をもってもらううえで大きな役目を果たす場合、ローンシミュレーションに辿りついてもらうことは重要な要素といえます。
PCのオンライン販売では、仕様・スペック情報がユーザが購入前に確認するうえで不可欠な情報であった場合、仕様・スペック情報ページにどの程度行き着いているかは、最終的なコンバージョンに至るか否かの鍵を握っているといえます。
どのくらいのユーザがどのページを訪れているかは、アクセス解析ツールを使うことによって量的に把握することができます。アクセス解析はKSFを探る糸口になるといえるでしょう。

ただ反面、アクセス解析には限界もあります。アクセス解析は行動の結果はわかりますが、なぜそのような結果(数値)になったのか、背景まで語ってはくれません。
(参考コラム:第42回 アクセス解析の罠 ユーザ行動観察調査の併用による解決)
そこで重要となる考え方が、「ユーザシナリオ」です。
ユーザシナリオとは、ユーザが最終的にサイトのゴールにまでたどり着くまでの道筋や戦術を示すものです。
ユーザシナリオはユーザが持つ前提知識やユーザニーズ、心理面の変化にまで踏み込み作り上げていきます。ユーザのニーズや行動特性と、サイト内外の要素を踏まえて、ゴールまでのユーザ行動をデザインしていきます。
ユーザシナリオを定義することで、ウェブサイト(またサイト外も含めた)の無数の通り道のなかから、成功因子になるものと、それほど重視しなくても良い要素とを識別できるようになります。
このユーザシナリオを策定するには、なるべくユーザ行動観察調査のようなユーザの心理や背景を探る調査手法を用いるのが望ましいでしょう。

まとめると、冒頭で示した、色々な数字を見ているもののなかなか改善に繋がらないという課題は、以下が原因といえるのではないでしょうか。

  • ユーザシナリオが定義されていない
  • KSFが突き止められていない
  • KPIがKGIに結びつく指標になっていない

逆にいえば、以下のようなステップを踏むことにより、KPIを策定していくことが可能となります。

KPIが定義できたら、具体的な測定方法、測定サイクル、目標値を設定していきます。
良いKPIは、効率的、効果的な成果管理を可能とし、ROIを向上するうえで欠かせない戦略的な指標といえるでしょう。

  • 執筆者:磐前 豪

    株式会社ビービット 執行役員