ユーザ中心ウェブビジネス戦略-顧客心理をとらえ成果を上げるプロセスと理念

まえがき

マーケティングの大家フィリップ・コトラーは著書の中で、「マーケティングの役割とは、たえず変化する人々のニーズを収益機会に転化すること」と説明している。

本書で説明する「ユーザ中心設計手法」は、コトラーの定義をインターネットにあてはめ、収益の実現手法を組み入れたものであると言える。つまりユーザ中心設計手法とは、「絶えず変化する人々の行動やニーズを把握し、インターネットを通じた企業の収益機会を実現する」ためのものである。コトラーが述べているように、ユーザを正しく知るということが偉大な成果をもたらす要になる。

ただし、このユーザ中心設計手法を本格的に実施しようとすると、多くの時間と労力が必要なのは否定できない。すべてを実施しようとするのではなく、まずは手法の一部分だけでよいので普段のサイト運営の中に取り入れてみることをお勧めする。

たとえば、サイトのデザイン案を同僚に使ってもらう「簡易ユーザ行動観察調査」を行うだけでもよい。これならたった5分でできる上に、「仮説を立ててそれを実際のユーザで検証する」というユーザ中心設計の神髄に触れることができる。そして、多くの示唆をもたらしてくれるだろう。

さらに、実際にこの手法を実践してみると想像していたほど大変ではないことに気づくはずである。むしろ、実践した方がかえって楽になる感覚すらあるかもしれない。なぜなら、仮説検証を繰り返すことでひとつひとつの意思決定が論理的に下せるようになるからである。このようにしてノウハウが蓄積されていくと、それだけサイト運営は明確な指針の下に勧められ、それに伴い大きな成果がもたらされるようになる。

仮説を立てて、それを実際のユーザで検証する。たたこれだけのことが、変化し続けるユーザに有効にアプローチし、それを継続的に成果につなげていくための秘訣である。作っては試し、試しては直すという、地道で泥臭い作業の中にユーザの真実が隠されている。

実際にウェブを活用して、自社のビジネスに多大な成果をもたらしている先進企業には、「徹底したユーザ中心」「挑戦し変化をし続けている」という共通点がある。これらの先進企業の生の声は、筆者のようなコンサルティング会社という外部支援の立場から声高にユーザ中心を叫ぶのとは全く違った説得力があるため、今回、各社のご協力のもと、先進企業事例インタビューという形で収録した。インタビューにご快諾いただいた先進企業各社の皆様には深く感謝する。

インタビューでは、サイト運営の最前線で確約する方々が、サイト運営方針や業務の実際、また組織体制などをリアルに語っていただいたことによって、読者の皆様に深い理解や励ましを与えてくれるものとなっている。ぜひご一読いただけたら幸いである。

なお、本書は2006年に出版された著書『ユーザ中心ウェブサイト戦略』に大幅なリライトを加えたリバイズ(改訂)版となる。

2006年当時、インターネットの世界で流行していたのはSEO(検索エンジン対策)だったが、現在は、ソーシャルメディアやビックデータ、アドテクノロジーといったキーワードをよく耳にする。しかし、何が流行しようとも、ユーザを起点に考えるという基本は不変の概念であると確信している。そのため、今回のリバイズでも、前著で論じた方法論のベースはそのままに、さらに時代の変化に応じて、考慮すべき観点を加筆・強調した。

特に、アクセス解析や広告配信技術の進化に伴い、データ分析への期待が高まっているが、実際にはデータにいたずらに振り回され、ユーザを見失っている状況が多い。この課題に対するひとつの処方箋として、第II部第5章はほぼすべてをリライトして、「見るべきデータを絞った高速PDCA」という方法論を紹介している。

インターネットは今後ますます我々の生活と密着した社会的インフラの一つになってくるはずである。本書により、すべてのウェブサイトがユーザにとっても、また企業にとっても有益なものとなり、社会インフラの品質向上に少しでも貢献できれば本望である。

2013年3月 武井由紀子

目次

序章
第I部 理論編 ウェブビジネスを成功に導く方法論
 第1章 ユーザ中心思想の背景とネットユーザ行動特性
 第2章 ユーザ中心設計手法とは
 第3章 ユーザ中心設計を進めるツール
第II部 実践編 ユーザ中心設計の進め方
 第1章 サイトコンセプトの立案
 第2章 サイトコンセプトの検証
 第3章 サイト基本導線設計と検証
 第4章 サイト詳細画面設計と検証
 第5章 サイトの運用

書籍情報

著者
株式会社ビービット 武井由紀子、三木順哉
価格
2,600円+税
出版
ソフトバンククリエイティブ
発売
2013年04月27日