顧客フィードバックを獲得し、現状を把握する(後編)【顧客ロイヤルティコラム:第10回】

顧客ロイヤルティのような「人の気持ち」を扱う調査は、質問の仕方やタイミングによって回答の精度や回答率が変わってしまう。ロイヤルティ調査で発生しがちな回答の歪みを抑え、顧客の気持ちを正しく把握するためのコツをご紹介する。

このコラムでは、第8回から顧客ロイヤルティ向上のアプローチ「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」について紹介している。

前回のコラムでは、ステップ3(顧客フィードバック獲得)について、自社の顧客ロイヤルティの現状を把握するために得るべきフィードバックである「総合的なロイヤルティ」と「ロイヤルティ創出要素(ドライビングファクター)」について説明した。

今回はステップ3の後半として、これらのフィードバックを「誰から」「どのように」集めるべきかについて取り上げる。

※各ステップのコラムはこちら
ステップ1・2 ステップ3(前半) │ ステップ3(後半)(今回) │ ステップ4 ステップ5 ステップ6

2.顧客フィードバックの集め方...「誰から」

自社顧客への調査結果は上振れしがち

顧客フィードバックを得るためのアンケート内容が固まったとして、そのアンケートは誰に回答してもらうべきだろうか。

歪みのないデータを得るためにはすべての顧客から回答を集めるのが理想的だが、現実的ではないため、実際には一部の顧客からの回答によって全体を代表させることになる。

しかし、企業からのアンケート調査に積極的に回答するのは、そもそも企業への関与度が高めの顧客であり、ロイヤルティも高いのが一般的である。結果として、回収されたアンケート結果は実態よりも上振れしがちなため、アンケート結果から正しい考察を導き出すためには、回答者の属性を顧客全体の属性に近づける、回答者の属性が偏っていることを踏まえた分析を行うといった対応が必要になる。

まず、回答者の属性の偏りを抑える方法であるが、関与度が低い顧客からも回答を収集するためにはアンケート回答への謝礼を増やす、調査会社の登録パネルを利用するといった方法が考えられる。

また、年配の顧客が多い場合は集計の手間やコストはかかるもののハガキや紙によるアンケートにしたり、逆に若年層が多い場合はスマートフォンから手軽に回答できるような形式のアンケートにしたりするなど、自社の主要顧客が最も回答しやすいチャネルを用いることも回答者の偏りを抑えるためには重要である。

なお、調査会社の登録パネルを利用する場合、競合他社のロイヤルティ状況も同時に把握できるというメリットもあるが、利用している商品・サービスやこれまでの購買量などに関わるデータは、アンケート内での回答者の自己申告に頼ることになるため、回答者ごとのロイヤルティと収益性の正確な紐付けが難しいという欠点がある。また、回答者にとって調査主体が分からない状態で実施するため、自社顧客に対して自社自らが実施するアンケート調査に比べるとロイヤルティスコアが低く出る傾向があり、調査結果を単純に比較することができない点にも注意する必要がある。

次に、母集団の偏りによる影響を軽減するための集計時の工夫としては、回答者の関与度(例えばサービス利用頻度や利用回数)の分布が自社の顧客全体と同じになるよう、傾斜をかけて集計を行うといった処理が考えられる。

いずれにせよ母集団のバイアスを完全に排除するのは難しいため、個々の調査の正確性を突き詰めるよりは、同一の母集団に対して継続的にデータを収集しその推移に注目することをおすすめする。

3.顧客フィードバックの集め方...「どうやって」

回答の歪みを抑える質問票設計

企業のアンケート調査に協力する時のことを考えれば分かりやすいが、多くの顧客はアンケート回答に多くの時間を費やそうとは思っておらず、自分の回答内容についてもそれほど深く考えていないことが多い。

そのため、精度の高い回答を得るためには、調査票の質問文はできるだけ分かりやすく、誤解を招く表現を避け、質問の順番や数にも気を配る必要がある。

調査票設計にあたって注意すべき観点としては例えば以下のようなものがある。

最も聞きたい内容(ロイヤルティ総合評価)を最初に聞く

ロイヤルティを把握することが目的の調査では、満足度や推奨意向といった総合的なロイヤルティ評価を冒頭で聞くべきである。

これは、最初に回答した内容がそれに続く質問への回答に影響を与える可能性があるためである。例えば「商品の質」「価格」「サポート体制」といった個々の要素についてすべて「満足」と回答した後に総合的なロイヤルティスコアを質問された場合、回答者は「ここまで満足と回答したのだから、総合評価も高くないとおかしいはずだ」と考え、回答の自己補正につながる場合がある。

自由回答欄を設ける

大規模なアンケート調査の場合、回答の集計・分析に手間のかかる自由回答は省略されることも多い。しかし、ロイヤルティ総合評価の理由については、必須回答でなくても構わないので自由回答欄を用意しておき、数値には現れない顧客の声を把握するのが望ましい。

顧客の生々しいコメントにざっと目を通すだけで、ロイヤルティの高い/低い顧客が評価/批判しているポイントを大づかみに把握することができ、回答データの詳細分析を行うための仮説を立てやすくなる。また、コメントに頻出する要素からそれまで見えていなかったドライビングファクターに気づくこともある。

設問数を多くし過ぎない

アンケート内の質問数が増えるほど、回答を途中でやめてしまう顧客が増え、回答率が低くなる。回答を続けてくれたとしても、後半の質問への答えが適当になっていく。また、協力意向が高い顧客に回答者が偏り、最終的に集まるデータを歪める要因の一つにもなる。

調査を実施するにはコストがかかるため、ついあれもこれもと質問票に盛り込みたくなってしまうが、回答率とデータの信頼性を高めるためには、設問の数はできるだけ絞り込んだ方が良い。具体的には、ドライビングファクター満足度はロイヤルティへの影響度が大きいと想定されるものに絞って聞く、自社のデータベースや別の調査からデータが集められる項目は省略するなどの対応を考えるべきである。

質問票設計における注意点としては他にも以下のようなものがある。

  • 社内の専門用語を用いず、顧客にとって分かりやすい言葉を使う
  • 誘導的な質問や曖昧な表現を用いない(例えばロイヤルティ評価の対象が、企業全体なのか直近の体験なのかを明確にするなど)

調査票の質を向上させる方法としておすすめなのは、アンケートを配信する前に、回答者に近い属性の同僚などに回答を依頼し、質問文の分かりやすさや回答のしやすさについてチェックしてもらうことである。2、3人に数分間協力してもらうだけで、誤解を招く言い回しなど質問票の作成中には気づかなかった改善点を指摘してもらうことができる。

従業員による調査バイアス・不正を防ぐ

顧客の気持ちを扱うロイヤルティ調査は、自社の現場社員の行動がバイアスとなってしまうこともある。

例えば、担当営業制を導入している企業(BtoBや高額商品を扱うBtoC)では、顧客と担当者の間の結びつきが強く、顧客が今後の関係性への影響を懸念し、ネガティブな評価をつけない可能性がある。正直なフィードバックをもらうためには、

回答内容による不利益が発生しない旨を顧客に伝達する
営業担当者の目の前で回答してもらうことは避け、回答結果は営業担当者を介さずに回収する
といった方法を検討するべきである。

また、対面型の接客を行っている企業において、顧客からの評価を現場社員の評価や報酬と紐付けると、現場社員による不正や恣意的な操作を促してしまうことが多い。

発生しがちな課題としては「顧客に高い評価をつけて欲しいと依頼する」「調査対象となる顧客に対してのみ、あるいは調査を実施している時期にのみ顧客対応に力を入れる」「対応に満足していそうな顧客にしか調査を依頼しない」などである。顧客評価がチームや支店の評価と結びついている場合は、これらの操作が組織的に行われることもある。

このような現場社員によるアンケート結果の操作を防止するためには、

  • 現場社員ではなく本社や第三者を起用してアンケート調査を実施する
  • アンケート実施時期の予測をつきにくくする
  • 対面だけでなく、郵送やネットでもアンケート調査を実施するなど、サンプリングの幅を広げる
  • 顧客からの評価と従業員評価の連動性を弱める

といった対応が考えられる。

調査もカスタマーエクスペリエンスの一つと心得る

最後に、調査そのものも企業と顧客のコミュニケーションの一つであり、カスタマーエクスペリエンスを構成する要素であることに触れておきたい。

顧客向けにアンケート調査を実施している企業は多いが、調査結果がどのように活かされたのか顧客に対してフィードバックを返しているケースは稀である。

しかし、顧客に手間をかけて答えてもらったにも関わらず、それに対して何のアクションも取らない状態を続けることは、「どうせ回答しても使われないので意味がない」という印象を顧客に与え、回答率を押し下げるだけでなく、企業への信頼を損なう要因の一つとなる。

顧客アンケートを実施する以上は、顧客アンケートの結果は必ず改善に活かし、改善結果を顧客に向けて発信していくべきである。

例えば、星野リゾートでは宿泊者アンケートをきわめて重視しており、「星のや 軽井沢」の開業当初は、アンケートに回答してくれた顧客に対し、その顧客が指摘した内容が改善されていることが分かる手紙をお礼として送付していたという。

また、ソニー損保では顧客に「事故対応満足度アンケート」や「継続手続きの満足度調査」などを実施した際、評価が低かった顧客には役職者からフォローコールを実施している。怒っている顧客に敢えてこちらからコンタクトすることは火に油を注ぐ結果になってしまいそうだが、実際には「忙しい中、そこまでして頂いてありがとうございます」というポジティブな反応が返ってくることがほとんどだそうである。(上記2例とも『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』遠藤直紀+武井由紀子・2015年より)

アンケート調査のような多くの顧客の目に触れる調査を実施する際は、それがカスタマーエクスペリエンスに影響を与えていることを意識し、調査結果を顧客にフィードバックする方法まで検討した上で実行に移すことをおすすめする。

次回のコラムでは、ステップ3で集めた顧客フィードバックを分析し、ロイヤルティ向上の注力領域を見極める方法について紹介する。

●カスタマーエクスペリエンスマネジメントに関する書籍のご紹介

『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』

本コラムで紹介した内容以外にも、各ステップを進めていく上での注意点や事例をより詳しく紹介している他、ロイヤルティ向上活動を全社に展開し、活動を維持していく方法についても触れています。

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  • 執筆者:遠藤直紀
    株式会社ビービット 代表取締役

    アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを設立。現在は、東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』。TED×Todai 2013にて「貢献志向の仕事」講演。ほか、講演・寄稿多数。横浜国立大学経営学部卒。