顧客の声を活かす【前編】

「アンケートや問い合わせ分析を行い、顧客の声を取り入れて改善をしようとしているのにうまくいかない...」とお悩みではありませんか?顧客満足度調査を失敗に追いやる3つの理由について、代表の遠藤が執筆しました。

顧客満足の計測や改善領域の特定を目的に、多くの企業がアンケート調査を実施しています。また、日々コールセンターや自社ウェブサイトに届くお客さまの声を集計し、経営会議で課題を共有するといったVOC(Voice Of Customer)活動も増加するなど、お客さまからのフィードバックを集め、事業活動に活かす気運は高まっています。

しかし、これらの活動が実際の改善に直結していないという悩みもよく聞きます。本コラムでは、前編・後編の2回に分けて、一定の労力や費用をかけている顧客満足向上活動が改善に繋がらない理由と、そこから見える効果的な運用方法について考察していきます。

まずは、せっかくの顧客満足度調査が改善につながらない3つの理由を紹介します。

1: 改善効果の予測

顧客の声を扱う場合、その重要度の判断は「料金の振込方法に関するクレームが3000件」、「ウェブサイトの説明がわかりづらいという指摘が6000件」といったように、件数が拠り所になりがちです。

確かにクレームの件数が多いということは、それだけ多くの顧客が問題視している事項であるため、重大な課題だと捉えることができます。しかし、多くの人から声は上がっていても、実際には顧客がすでに対応方法を見出していたり、諦めているような事項もあります。その場合、それらを改善しても顧客満足度はたいして高まりません。

逆に、「クレーム件数は少ないが、価値提供を行う上では致命的である」という声もあります。あまり顕在化していない課題でも、改善を行うことで顧客満足度の向上が劇的に見込めるのであれば、そちらの方が重要です。

つまり、課題の評価基準として、件数×課題の致命度(=改善効果)の両面で評価をしないといけません。件数は「広さ」を捉え、課題の致命度は「深さ」と捉えるとわかりやすいでしょう。

件数の多い少ないだけでは、その改善効果を明確にしづらいです。そのため、本業の根幹に関わる問題でない限り、関係者全員に納得感を持ってもらい、力強い活動につなげていくのは困難です。

また、顧客アンケートの活用においても、同様のことが起こりやすいです。企業として資源を投下し続けるには、各項目を改善することで事業成果にどの程度貢献できるのかを示す必要があります。

しかし、大型投資が必要な課題や構造的な課題を解く必要のある領域は、その予測が難しいことが多いです。そのため、対応が容易な課題が優先され、全社的な本気度を示せずに活動が停滞していくという展開になってしまいがちです。

この場合には、その課題を解くことでビジネス上の成果をどれほど出せるのか、予測を示すことで経営陣を説得することが必要になります。

2: 適切な顧客属性と調査設計

VOC活動で聞ける意見は、実際に連絡をくれた一部のお客さまのものだけであるため、それが事業戦略上の大切なお客さまのニーズとは限りません。例えば、忙しいビジネスパーソンは、クレーム電話をかけたりアンケートを回答する時間がないことが多いでしょう。

そのため、顧客属性をセグメント化するなど精緻な分析が求められるのですが、その方法が定義されていなければ、そもそもの件数や数値を信頼できる形で施策につなげることができず、活動への熱量が高まらないのは必然です。場合によっては、結果の意義が薄いという判断が下されてしまい、貴重なお客さまの声を活用することができずに宝の持ち腐れとなってしまいます。

また、アンケート調査でも、適切な調査設計が必要です。多くの会社では、設問項目が提供者論理であったり、企業内の事業部単位のタッチポイントや要素と紐付いただけのものになっていたりして、顧客満足の真の構成要素が掴めていない事例が見られます。

例えば、「店長が挨拶をしましたか」といった設問があった場合、実は顧客にとっては挨拶はどうでもよく、むしろ「店員が自分の話をきちんと聞いてくれるか」がより重要かもしれません。また、「コールセンター」や「ウェブサイト」の品質を聞いたとしても、仮に顧客が手続き時の2つのチャネル間の連携の悪さに不満を持っていた場合には、それを拾い出すことができません。

顧客調査を実施する前に、戦略的に優先順位の高い顧客が本当は何を求めていて何を評価しているのか、そしてそれを調査の中でどのように検証するのか、あらかじめ仮説を立てて勘所を掴んでおくべきです。そうでなければ、改善活動のフォーカスが定まりません。

3: 責任者の権限

改善活動を続けていき、少しづつ実を結ぶようになると、従来の枠組みでは実現不可能な改善難易度の高い課題が残っていきます。例えば「料金不満を受けた値下げ」などはその最たるものでしょう。さらに、部門間のつなぎ目や意識から漏れていた、いわば担当部門が不明だったり、不在だったりする課題も着手しづらいものです。

これらの課題に取り組むには、部門横断活動の組成や他部門への干渉を行う権限が必須となります。 しかし、顧客の声の責任者は、情報を統合して報告する権限しか与えられていないのが実情、といった状況が多いのです。そのため、根本的な課題に向き合うことが難しくなっています。

既存の体制にこだわらず、必要な部門を収集しプロジェクトチームを組成する権限があるかないかで、活動の推進力は大きく違ってくるでしょう。

前編では顧客の声が改善につながらない3つの理由を述べましたが、後編では顧客の声の重要度を企業内で高め、焦点を絞って力強く活動を推進していく方法を考察します。

(後編はこちら:顧客の声を活かす【後編】

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  • 執筆者:遠藤直紀
    (代表取締役)

    横浜国立大学経営学部経営システム科学科を卒業。ソフトウェア開発会社を経て、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2000年3月にビービットを設立し、現在は東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に「売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門」。経済同友会会員。