第40回 進化するユーザビリティテスト 「ユーザ行動観察調査」の効果・効能

ユーザビリティテストとユーザ行動観察調査の違いを明らかにします。

本コラムのサマリ

  • ユーザインタフェースの課題を抽出するだけのユーザビリティテストでは、サイトの本質的な改善はできない
  • ユーザ行動観察調査をプロジェクト初期段階から実施し、ターゲットユーザとその行動原理(インサイト)を正しく把握することがプロジェクトのROIを最大化させる

ユーザビリティテストは誤解されている!?

「ユーザ中心」「ユーザーエクスペリエンス」といった概念の浸透に伴い、近年のウェブサイトリニューアルプロジェクトでは「ユーザビリティテスト」を実施することが当たり前になってきたようです。アイトラッキング(視線追跡)なども駆使した本格的なユーザビリティテストの事例が多く聞かれるようになったことは、数年前の状況から考えると非常に好ましい進歩です。

ただ、ユーザビリティテストを単なる「サイトの使いやすさ調査」と位置づけてユーザインタフェースの課題(見つけやすさ・読み易さなど)を抽出するためのものと捉える向きが一般的で、その本質的な効果・効能が理解されていないケースも見受けられます。

ユーザビリティテストはユーザインタフェースの課題を抽出するだけに止まらず、「ユーザを知る」ための強力な手段として活用可能なのです。ビービットでは「ユーザビリティテスト」を「ユーザ行動観察調査」と呼び、ユーザの内面にまで踏み込んだ分析を可能にする、より上位のマーケティングツールとして活用することを推奨しています。

今回は、単なる「使いやすさ調査(ユーザビリティテスト)」を超えた「ユーザ行動観察調査」の効果・効能をご紹介していきます。

一般的なユーザビリティテスト≠ユーザ行動観察調査

一般的なユーザビリティテストとユーザ行動観察調査との間の違いは何でしょうか。被験者がサイトを使用する様子を観察するという点において両者の違いは全くありません。ただ、その実施内容に大きな違いがあるのです。以下簡単に整理しました。

図表1:一般的なユーザビリティテストとユーザ行動観察調査の違い

ビービットでも一般的なユーザビリティテストを実施しており、上記比較は決して一般的なテストを否定する意図のものではありません。ここではユーザビリティテストのより高レベルでの活用可能性を示唆したいのです。

UI設計の第一人者アラン・クーパー氏は著書「About Face3」の中で「ゴールダイレクテッドデザイン概念」とユーザのゴールを把握するための「民族誌学的インタビュー」について言及していますが、「ユーザ行動観察調査」はこの「民族誌学的インタビュー」に類似する側面を持っており、「個々の製品とインタラクションする人々の行動や習慣を理解することを目標とする(「About Face3」P.80より引用)」ものとして活用できる可能性を持ちます。

ユーザ行動観察調査を実施することにより具体的にどのようなメリットが得られるのかをご紹介していこうと思います。

  • メリット1:ターゲットユーザ像を明確にすることができる
  • メリット2:ユーザの行動原理を把握できる
  • メリット3:ROIの高い施策を導出できる

[メリット1] ターゲットユーザ像を明確にすることができる

ターゲットユーザ分類を行う際に重要なポイントは、「ユーザ行動に影響を与える要素で分類すること」です。サイトリニューアルにおいても対象となるターゲットの検討を行っていると思いますが、サイト運営者が事前に想定しているターゲットユーザ分類が実態と乖離してしまっているケースも残念ながらあります。

ユーザ行動観察調査では、特定の文脈(コンテキスト)でのユーザ行動を観察するわけですから「ユーザの行動に影響を与える要素」がより明確に把握することができます。以下に、ある金融機関の住宅ローンサイトにおいて、現場ヒアリングとユーザ行動観察調査を経てターゲットユーザ分類が修正されたケースをご紹介します。

図表2:ターゲットユーザ分類の修正例
(「ユーザ中心ウェブサイト戦略 P.234から抜粋」)

この例では、ターゲットユーザの分類軸が変わったことで、物件確定後の「業者不安ユーザ」「金利選好ユーザ」を説得するコンテンツを提示する方向でサイトを構築していかなければいけないことが明確なったのです。当初の分類でサイトを構築していたら全くズレた構造・コンテンツになっていたことは想像に難くありません。

[メリット2] ユーザの行動原理を把握できる

「行動原理」とは、行動を突き動かすユーザにとっての根源的なゴール(そのような行動をしてしまったことの背景や本当の理由)のことです。

ユーザ行動観察調査では、ある状況下でのユーザの一連の行動を観察することから、当該文脈(コンテキスト)内での行動や反応を総合的に分析することで、その裏にどのような想いやニーズがあったのかの仮説を導出できる場合があります。

この仮説を元に改善の方向性を検討することにより、場当たり的で表面的なユーザインタフェースの課題潰しというレベルから一歩先に行くことができるのです。

[メリット3] ROIの高い施策を導出できる

一般的なユーザビリティテストでは既に存在しているユーザインタフェースを評価するため、現状をベースにどう良くするかという思考に陥りがちです。当該ユーザインタフェースが誰に・何のために提供されるべきなのかのという本質まで遡った改善提案を導出しにくいのです。

ユーザ行動観察調査はターゲットユーザ分類を明確にし、各ユーザタイプの行動原理を特定できる場合もあるため、誰に対して何を提供すればビジネス的なメリットが得られるのかという本質に遡った検討を可能にします。極端なケースでは、調査結果が当該サイトリニューアルを実施すべきではないという決定の手助けとなり、クライアントの無駄な投資を未然に防ぐことができたという話も実際にあります。

ユーザビリティテストの進化系(深化系?)ともいうべきユーザ行動観察調査がユーザ中心アプローチに必須のものとして今後のサイト構築のプロセスとして一般的になる日は近いはずです。

参考書籍:
「About Face 3 インタラクションデザインの極意」 アラン・クーパー
「ユーザ中心ウェブサイト戦略」 株式会社ビービット 武井由紀子、遠藤直紀他

  • 執筆者:宮坂 祐

    株式会社ビービット マネージャ