株式会社 mediba 様

auスマートパスのアップデート方針策定 – よりユーザの生活に染み込むサービスを目指して

auスマートパスがより”ユーザの生活に染み込む”サービスになるアップデートが進行中

1,500万ユーザを抱えるauの会員特典サービス「auスマートパス・auスマートパスプレミアム」は、今春以降に段階的なアップデートを予定しています。ビービットは、このサービスアップデートの方針策定プロセスをご支援していました。

サービスを通してユーザとの長期的な関係を構築し、auの通信サービスに対する満足度に貢献するためにはどうするべきかを考えたプロジェクトについて、株式会社 mediba CXOの岡様に、ビービット側の担当者だった本山と一緒にお話を伺いました。

auスマートパスの画面イメージ

ユーザとの関係を深めるためにはどうするべきか?

auスマートパス・auスマートパスプレミアムは、auユーザ向けの月額制会員特典サービスで、様々なクーポン・特典の配信や、アプリの紹介などをしています。

岡様「今や通信サービスはコモディティ化していて、”つながっていて当たり前”という感覚ですよね。なので、もちろん通信品質は大切なことなんですが、それ自体では差がつかなくなってきているのが現状です。お客様の満足度向上のためには、通信に乗っている”サービス”の重要性が増してきていると感じています。」

株式会社 mediba CXO(Chief Experience Officer) 岡昌樹様

そうした背景の中、auスマートパス・auスマートパスプレミアムについても、よりユーザに楽しみながら使ってもらうことで、au全体の満足度向上に寄与し、長くauユーザでい続けてもらうためにはどうするべきか、今後の方向性を探るプロジェクトが2018年の夏に立ち上がりました。

それまでもNPS®(ネット・プロモーター・スコア)※をサービスのKGIとして定期的な調査が行われていましたが、その結果をサービスアップデートにつなげる方法については十分なナレッジがなかったと岡様は振り返ります。

岡様「そこでいくつかの会社さんに話を聞いたんですが、ビービットさんにお願いすることにした決め手は、二人三脚でやってくれそうだ、ということでした。我々としては、今後も継続的に改善を続けていくために社内にナレッジを蓄積したいという思いがあったので、それにご賛同いただけたのは大きかったですね。」

サービスを本当に好きでいてくれているユーザとは?

プロジェクトはまず、NPS®の推奨度別にユーザ行動観察調査を実施するところから始まりました。本当にサービスを好きでいてくれているユーザはどんな人なのかを明らかにするためです。

本山「最初の調査の中で1人、とても印象的な主婦の方がいたんです。」

株式会社ビービット シニアコンサルタント 本山遼太朗

その女性は、ご本人曰く「変化の少ない日々」を過ごしていたのですが、auスマートパスというサービスを通して、auユーザでいるだけでお得な体験ができることにとても驚いたそうです。今では新着情報を毎朝能動的にチェックしたり、そこで見つけたクーポンや特典をきっかけに新しいお店に出かけたりすることが、生活の中で大きな楽しみになっているのだとか。

本山「この時のことはプロジェクト中ずっと頭の中にあって、同じような状況におかれている他の方にも、あの方と同じように生活の変化を楽しんでもらえたら、という視点でずっと考え続けていました。」

一方で、auスマートパスを「ただのクーポン配信サービス」と認識しているユーザは推奨度が低く、「払った分の月額料金の元を取らなければ」という感覚でいることもわかりました。

”高速プロトタイピング”で思い切り失敗したからこそ、本当に大切なものが見えた

第2回以降の調査では、初回調査の結果から導き出した仮説をプロトタイプに落とし込み、実際にユーザに使ってもらって検証することを繰り返す「高速プロトタイピング」を実施しました。

最初のプロトタイプの方向性は、「生活変化の提案をコラムにまとめ、最後に関連するクーポンや特典を提示する」というもの。推奨度の高いユーザではauスマートパスのクーポンや特典がきっかけで生活の変化が起きていたことを受けて、生活変化を積極的に提案しようとしたのです。しかし、これはユーザに大変不評でした。

岡様「第一声で、これどうやってクーポン使えばいいんですか、って言われてしまって(苦笑)。」

本山「わざと振り切ったプロトタイプを作ったという認識はあったんですが、本当に受け入れられないというのはこういうことか、と痛感した調査でした。」

岡様「でも、決して意味のない調査だったわけではないんですよ。我々だけだったら、既存の顧客体験を大きく変えることをためらってしまって、ここまで振り切った調査はできなかったと思います。踏み込んでみて、それが当たれば新しい発見になったでしょうし、今回のように当たらなくても、絶対に残さなければいけない体験が何か、プロジェクトメンバーで改めて認識できたことは大きかったですね。」

「身近なお得」への気付きを入り口に、文脈に沿った「お得」体験で生活に染み込むサービスへ

その後もいくつか大胆に振り切ったプロトタイプを作り、徐々に精度を高めながら調査を繰り返していきました。

その中でわかったことは、サービスの推奨度向上、ひいてはau全体の満足度向上・auユーザであり続けてもらうことに寄与するためには、表面上の見せ方を工夫したり短期的な推奨度を追いかけたりするのではなく、長い時間軸でユーザとの関係を築いていく必要があるということです。

今は推奨度の高いユーザも、最初のサービス認知は「クーポンがもらえるお得なサービス」だったのです。そこから無理なく利用シーンを拡大し、ちょっとした空き時間に使ってもらえる存在になり、更にauからの提案をユーザが楽しみに待つ関係ができるまでの体験を、ビービットは下図のように整理しました。

ポイントとなるのは、ユーザの文脈に沿ってメリットを提示すること。どれだけユーザにメリットがある情報でも、「今」「ここ」という状況にフィットさせる努力なしに押し付けてしまえば、ユーザは喜ばないからです。

最初は、小さなことでもいいので「auユーザでいるだけで、身近に使えるお得がある」と気付いてもらうことから始めます。さらに、趣味関心に沿ったもの、すぐ近くで使えるもの、生活リズムにあわせたもの、など様々な切り口でお得との出会いを繰り返すことで、能動的なチェックの姿勢を引き出していきます。例えば、外出先で少し時間が空いたときに「この辺りで使える特典はないかな」とスマホを見る、といったイメージです。そこでも良い体験を重ねられれば、ユーザは自然とauからの提案を受け入れ、それによって起こる生活の変化を楽しむようになっていくと考えられます。

ユーザという共通言語ができて意思決定がスムーズに

本山「今回の私達の提言は、かなり骨太なものになったと感じています。それを着実に実行に移していただいていることは、とてもありがたいことですが、大変なことも多いのではないですか。」

岡様「プロジェクト初期にNPS®の勉強会を開催してもらうなどして、知識や考え方がメンバーに共有されていたので、意思決定はスムーズなんですよ。何より、ほぼ全てのプロジェクトメンバーが実際のユーザ行動観察調査を見ているということが、効いていると思います。」

調査時は見学室がいつも満員で、mediba様のメンバーだけでなく、KDDIの皆様も、何度も調査見学にお越しいただいたそうです。

岡様「意思決定の会議では、議論はいろいろな方向に広がります。そんなときにも、『でも、あのときのユーザはこうだったじゃないですか』と誰かが言って、みんなで同じ地点に立ち戻ることがよくあるんです。立ち戻るべき原点があるということがユーザ中心でやる意味だし、実査を共有する意味ですよね。百聞は一見にしかず、というのは本当にそうだなと思います。」

medibaとビービットが一丸となったプロジェクトだった

岡様によれば、発注時の”二人三脚でやっていけそうだ”というご期待も、想像以上に実現されていたのだそうです。

岡様「うちの社員が、ちょっとビービットに行って分析してきます、と言って出かけるんですよ。ビービットさんの会議室で、ホワイトボードと付箋で仮説や調査結果を整理していたらしいんです。」

本山「それもやっぱり、一緒にユーザを見たからできたことだと思います。プロジェクト初期からずっと”一緒にやっていこう”という雰囲気があったので、medibaの皆様は、クライアントではあるんですが、どちらかというと同じプロジェクトチームのメンバーという感覚が強いですね。」

プロジェクトの進め方についても、一緒に作っていく感覚があったそうです。

岡様「ビービットさんは演繹的ですよね。クライアントをどう導くか、という視点が強いと感じます。リサーチ会社だと、調査だけして判断はクライアントに委ねる、というところが多いので、そういった意味ではコンサルティングファームに近い。でも、いわゆるコンサルティングファームのようなマーケット・インではないので、プロジェクトのゴールイメージをある程度持った上で、プロセスを柔軟に変化させられる。

今回のプロジェクトでも、高速プロトタイピングの内容はあっちへ行こうかこっちへ行こうかとディスカッションしながら決めていったのですが、そういうプロセスに慣れているし、上手だなと思いました。議論のスピードも、こちらが言ったことの理解も早いので、的外れなものが出てくることはないし、コミュニケーションコストが小さいんですよ。」

本山「リサーチとコンサルティングの間、というのは私自身が心がけていることでもあるんです。ユーザだけを見て提案をしてもクライアントにとっては実現性が乏しいことが多いですし、クライアントのやりたいことだけを形にしてもユーザのためにはならない。クライアントとユーザをつないで、両方に貢献するということが我々の目指していることで、今回のプロジェクトではそれを実現できたのではないかなと思っています。」

サービスはリリースしたときがスタート地点

岡様「まさに今開発中のアップデート第一弾は、F-7というプロジェクトネームがついています。これは、7つのサービス・特典を利用しているユーザは推奨度が高い、という調査結果を踏まえたもので、ファインダビリティを上げて7つの特典を使っていただけるようにすることを目指したものなんです。

我々にとっては、F-7がリリースされるところがスタート地点。次のフェーズの開発を始める前に、もう一度ちゃんとユーザの声を聞くということからやっていきたいですね。サービスに関わるメンバーが、ユーザのことを本当にわかって進めていくということが、長期的なユーザとの関係を築く上で大切なことだと考えています。」

インタビューを通して、岡様のユーザ中心を信じ周囲を巻き込む力強さと、会社の枠を超えた一体感に支えられたプロジェクトだったことが伝わってきました。ビービットはこれからも、mediba様、KDDI様のお取り組みを全力で支援させていただきます。

<株式会社 mediba>
本社:〒144−0056
東京都港区六本木3-2-1
住友不動産六本木グランドタワー39F
設立:2000年12月
資本金:10億3500万円
代表者:代表取締役社長江幡 智広、代表取締役副社長大堀 益弘
従業員数:431名(※2018年7月現在)
ウェブサイト:https://www.mediba.jp/

注:NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

担当コンサルタント

  • 本山 遼太朗(もとやま りょうたろう)
    東京大学法学部卒業後、2013年にビービット入社。コンサルタントとして、各種保険・通信・転職・不動産など様々な業界の企業を支援。