トーク (業界著名人との対談集)

第1回 RSS広告社 田中弦氏×ビービット
「今、インターネットで何が起きているのか」(2006年7月29日)

パート5 トラフィック自体のロングテール

田中:
4番目に、「トラフィック自体のロングテール」について、お話したいと思います。3年位前までは、グーグルでレアなキーワードを 検索すると、「検索結果0件でした」って結構よく出てきたと思うんです。

でも最近は、そうした表示を全然見なくなりました。これって、すごい変化ですよね。なぜそんなことが起きたのかというと、 僕はブログの出現による、と考えています。

ブログって、個人が簡単に公にすることができる、究極のメディアだと思うんです。ブログの登場によって、これまで人間の 頭の中に埋もれていた知識が、簡単に公開できるようになりました。

また現在、日本にはブログが800万くらいあると言われていています。それらを記事数や単語数に直すと膨大な数になるわけですが、 グーグルなどの検索エンジンが進化したので、とにかくどんなワードでも検索できるようになりました。

では、それらによって何が起こったのでしょうか。

インターネットメディアをやっている人は特に感じている事だと思うのですが、これまで、ユーザはどこかのサイトを見るときは、 まずはトップページに行っていました。そして「何か良いものないかな」と、ニュースなどの様々なカテゴリに行って、記事に行く、 という動きをしていたんです。

それが、今では記事から直接入ってくるようになりました。インターネットのユーザ自体が増えているので、トップページから 入ってくる人も減ってはいないと思うのですが、記事から直接入ってくる人が非常に増えているので、サイト運営者はどう対応しよう、 と頭を抱えることになってしまったんです。

これは、まさしくロングテールの図で表すことができると思います。グラフの縦方向が検索できる情報の量、横方向が情報源の種類、 例えばニュースやブログの一記事だとすると、グーグルの進化は高さだけではなく、幅も押し広げ、すべてをカバーできるように なってしまった。

つまり、どんなに小さなチャネルでどんなにレアなものを書いても、グーグルから集客できるようになってしまったのです。

遠藤:
田中さんが今おっしゃったことって、コストが非常に下がってユーザが自由に情報発信できる環境が整った為に起こったのだと思うのですが。
田中:
そうですね。確かに情報コストが安くなったということは、根底にあると思います。
ですが、更にその次のステップである、情報が販売チャネルと結びついたということが、情報量増加のキーポイントなのではないでしょうか。

ユーザは単に感想を書くだけではなく、その商品を売ることができるようになり、利益まで出せるようになりました。こうした、 これまであり得なかった状況の出現によって、情報量が爆発的に増加したのではないか、と思うんです。
司会:
では情報が大量に出てくると、今度は情報の質が問われてくると思うのですが、その点は今後どうなるとお考えですか。
田中:
それについては、最近出てきた、フォークソノミーという概念がひとつの鍵になると思っています。フォークソノミーというのは、 大衆という意味の「folks」と、分類という意味の「taxonomy」という言葉をあわせた造語です。

例えば、アマゾンってユーザが面白かったかどうか、自由に星をつけることができるじゃないですか。ああしたシステムのことです。
つまり、どんな情報にも「面白かった」、「面白くなかった」というような、人的な評価が加わってくるようになると思うんです。

例えばブログ。現在は、面白いかどうかというのは一つ一つの記事のPVなどでしか計れないわけですが、そうではなくブログ自体に 価値があるかどうかが人的に判断されるようになるのではないかと思います。

また、もうひとつの例はソーシャルブックマークです。

例えば、はてなブックマークを使ったことはありますか?あれのトップページに出てくる注目エントリというのは、現在は機械で 一定の条件を基に判断して、「どうも重要そうだ」というものをランキングのトップに持ってきているんです。ですが、例えば 最近非常に進化している日本語や英語の解析技術を活用して、ポジティブなことを書いている順、ネガティブなこと を書いている順でランキングされるようになったら、また違った世界が現れるような気がします。
遠藤:
NTTレゾナントのgoo Laboで、実験的にやっていますよね。
田中:
そうですね。あとは今、タグ検索がすごいですよね。

例えば、Youtubeは画像の一つ一つに「甲子園」「試合」といったようなタグがついているんですが、それらは全て、ユーザが つけているんです。それで「試合」というタグをクリックすると、同じタグがつけられた別の画像が見られるようになっているんです。

ユーザが設定した何らかの言葉をトリガーにして、色々な情報が整理されているというのは、今までの辞書とは全然違いますよね。
普通の辞書は、編纂者によって予め洗い出された項目が整理されている、というものですが、これはユーザによって有機的に 整理されているんです。
遠藤:
情報のメタ化、みたいなことを皆でやりましょう、ということですね。
田中:
そうですね。他にも、アメリカのあるサイトではニュースを民主党系、共和党系、と思想によって分けられるようになっていて、好きな情報しか 閲覧しないで済むニュースサイトというのをユーザが自分で作れるらしいです。
司会:
それについては、確かどこかの社会学者が警鐘を鳴らしていましたよね。

例えば新聞の場合は、ある程度幅のあるニュースを読まざるをえないのに対し、ネットだと自分の好みのニュースだけを取得することが できるので、個々人の思想の偏りに拍車がかかってしまうのではないか、と。
田中:
しかし、それは自然にそうなっていくのではないでしょうか。興味があるものは見ますが、逆にこれは嫌いだと思ったら見ないのではないでしょうか。
遠藤:
質を保つ、という点に関しては、フォークソノミーの他に、自浄作用ということも、非常に重要になってくるのではないかと考えています。
田中:
確かに自浄作用ってすごいですよね。
遠藤:
Wikipediaは自浄作用が非常に強く作用していて、誤った情報が書き込まれても、しばらくたつとちゃんと修正されているんですよ。
信頼性に関しては様々な議論があるものの、自浄作用が強く働いていることで成立しているサイトであるということは間違いないと思います。