MAツールをムダにしないために必要なこと

近年、日本でもMA(マーケティング・オートメーション)ツールを導入する企業が増えている。しかし、MAツールを導入しただけで成果が上がるわけではない。MAツールを最大限活用するためには、マーケターが現実に即した顧客理解にもとづく戦略を立てることが不可欠である。

2016年6月15日

普及しつつあるMAツール

最近、MA(マーケティング・オートメーション)ツールを導入する企業が増えている。MAという言葉が生まれたアメリカでは、33%の企業がMAツールを既に導入しており、50%以上が今後の導入を検討している[1]という。 日本でも、2015年度のMAツールの市場規模は前年比31%増[2]と試算されており、MAツール導入は珍しい取り組みではなくなりつつある。

しかし、MAツールを効果的に使いこなしている企業がある一方で、劇的な効果が出ないままの企業も見られる。MAツールを成果につなげるためには何が必要なのだろうか。


[1] Trend Report 2016 Data driven marketing
[2] DMP(データマネジメントプラットフォーム)サービス市場/MA(マーケティングオートメーション)サービス市場に関する調査結果 2015 | 矢野経済研究所

MAツールが効率化するのは実行と検証のみ

MAツールを導入したのに成果が出ない背景には「MAツールさえ導入すれば完璧なOne to Oneマーケティングができる」という考え方があることが多い。MAツールの主要機能の一つは、顧客を属性やサイト上での行動に基づいたいくつかのペルソナに分けて、顧客ごとにコンテンツを出し分ける機能である。そのため、MAツールでマーケティング活動を自動化し、緻密なパーソナライズを行うことで、売上を増やすことができると考える企業が多い。

しかし、それはMAツールのみでできるものではない。確かにMAツールは、複雑なパーソナライズ施策を楽に実行する力があり、それは企業のマーケティングにとって大きな助けとなる。しかし逆にいえば、MAツールが効率化してくれるのは施策の実行と結果の測定のみである。PDCAサイクルでいえば「D」と「C」の部分にすぎず、残りの部分は人間が考えなければいけない。MAツールはマーケティングを完全に自動化するためのものではなく、マーケターの側がMAツール活用のための戦略を持つことが必要となる。

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図1:MAツールが効率化するのはCとD

MAツール活用のために考えるべきこと

ここでいう「MAツール活用のための戦略」とは、例えば以下のようなものである。

□どのようにデータを管理するか

MAツールには、顧客の属性や行動のデータが欠かせない。しかし、そもそもデータが散逸しており、一元管理する体制を整えるのに苦労する企業も多い。また、実質的にサービスをほとんど使っていないような「ジャンクデータ」のクレンジングや、企業名・氏名の名寄せなどにも労力がかかる。さらに、検討の時間軸が長いサービスの場合、過去の顧客の行動を今の検討段階にどう紐付けるかの判定も難しくなる。
データベースの中に使えないデータが混じっていると、営業に渡すリードの質が低くなり、社内でMAツールの意義を理解してもらえなくなってしまいやすい。MAツール導入を決めた企業にとって、データ管理が最初の壁となることが多い。

□どのようにコンテンツを量産するか

One to Oneマーケティングを行うといっても、そのためのコンテンツ作りには大きな労力が必要となる。顧客を細かく分けるほどコンテンツの種類も多く必要になるうえ、数ヶ月程度で結果が出るものでもない。組織の中で継続的にコンテンツを生み出せる体制を作らなければいけないだろう。

□どのように顧客シナリオを正しく捉えるか

MAツールのスコアリングがいくら緻密でも、間違った顧客シナリオをインプットしてしまえば、検証結果も歪んでしまう。自社サービスの特長・方向性と、顧客から見たときのサービスの見え方との両方をマーケター自身が理解していなければ、MAツールによって誤った施策がさらに加速してしまうことにもなりかねない。


他にも考えるべきことはあるが、ここで挙げたものはMAツール導入時に特に壁となりやすいものである。これらに対しどのように取り組んでいくかを考えておかなければ、MAツールで成果をあげることは難しいだろう。

現にアメリカでも、MAツール導入に失敗する最も多くの原因は「戦略の欠如」であり、その割合は実に52%にのぼる。[3]マーケターがMAツールを通じて戦略をブラッシュアップしていくという意識を持たなければ、MAツールを導入してもあまり変化が起こらず、成果にもつながりにくい。


[3] Marketing Automation Trends | Ascend2

MAツール導入のための顧客理解

とはいえ、戦略を自分たちで考えるのはとても難しい。中でも特に難しいのが「顧客シナリオを理解すること」だろう。顧客シナリオは、そのサービスの顧客と直接接する経験が多くなければつかみきれないことが多く、仮に外部のコンサルなどに支援してもらっても浅いアウトプットしか出てこない場合もある。

筆者は、多くの企業とともにプロジェクトを行った経験から、「顧客理解の成熟レベル」を以下のように考えている。

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図2:顧客理解の成熟レベル

□レベル1:
顧客理解が弱く、施策が場当たり的

MAツールの機能を使いさえすれば、劇的に売上が改善すると思っている。もちろんこれだけでは、MAツールが単なる作業自動化ツールとなるだけで、その真価を発揮することはない。

□レベル2:
顧客理解はあるが、点が線になっていない

MAを導入するにあたり顧客像とシナリオを定義したものの、それが個別接点での最適化にとどまってしまっている状態である。

例えば、単に展示会に多くの参加者を呼びこんだり、ウェブサイトのページビューを増やしたりすればマーケティングがうまくいくわけではない。それは「展示会」「ウェブサイト」という単独の接点で考えれば良い方法かもしれないが、マーケティングのプロセス全体で見れば、確度の低い顧客へ労力を割くことになりかねない。

さらに、マーケティング部門だけでシナリオを決めることも勧められない。営業や製品開発・システムなど、別の形で顧客と接している担当者がいれば、彼らには別の顧客像が見えていることが多い。それらを無視してシナリオを決めてしまえば、顧客から見た体験を適切に捉えられないだけでなく、社内におけるシナリオの納得感を高められず、他の部署の協力を得にくくなってしまう。

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図3:接点ごとの最適化には限界がある

顧客理解をするときは、全ての接点をふまえた一貫したものになっていなければ意味がない。そのためには、単独の接点に囚われることなく、多くの関係者を巻き込んで顧客像やシナリオを作ることが望ましい。

□レベル3:
顧客理解が線になっているが、机上の空論

顧客の行動やその奥の価値観を考え、緻密なシナリオを組み立てることはできている。しかし、それは本当に現実の顧客像だろうか?多くの企業が陥りやすい失敗は、ビジネス成果を達成できるような「理想的な顧客・シナリオ」を、机上の空論だと気づかずに定義してしまうことである。

弊社が支援したある自動車メーカーは、「商品認知」「ブランド認知」など、顧客が十数以上のバナーを経由してCVするというシナリオを立てていた。しかし、実際にはCVした顧客はわずかしかおらず、それらの顧客のほとんどはバナーを一つしか見ていなかった。他のバナーに投下した広告費は、ほぼムダになってしまっていたのである。ビジネス成果の達成は確かに必要だが、それだけを意識して顧客理解やシナリオ作成を行うと、現実からかけ離れた都合の良いものができあがってしまう。

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図4:シナリオが机上の空論だった失敗例

必要なのは、現実の顧客がどのような行動をなぜとっているか理解することである。どれほどマーケティングに長けた企業でも、顧客の考え方を180度変えることはできない。現実の顧客について理解し、それをもとに自社が生み出せる提供価値を使って何ができるかを考えることで、初めて有効に機能する施策を考えることができる。

どうしても顧客のことをつかみきれなければ、顧客に近そうな社内の人でペルソナを作ってみるとよいだろう。普段近くにいる分、何を考えてその行動をしているのかが理解しやすく、担当者の間で共通認識も作りやすくなる。

□レベル4:
顧客理解が現実の文脈と合致している

顧客像やシナリオが、現実の文脈と合致している。すなわち、顧客の細かなニーズの移り変わりや価値観があぶり出されており、それを施策にどう落とし込めばよいのかが分かっている状態のことである。

例えばゼクシィのアプリは、花嫁の嗜好性の違いや変化をふまえて設計されている。花嫁を見ると、自分が主役となって派手な式を挙げたい人から、二人だけでひっそり式を済ませたい人まで、式の好みが複雑に分かれている。そこで、アプリ内でどのイメージ写真をタップしたかによって顧客を分類し、好みに合うような式場を勧められるような工夫がなされている。

さらに、花嫁は検討段階が進むにつれてニーズが大きく変わる。例えば、検討初期はプランや式場の雰囲気に心惹かれて夢を見やすいが、両家顔合わせなどのイベントが済むと、次第に費用や人数など現実的な思考をするようになっていく。これに対応するため、ゼクシィアプリでは花嫁に式までの予定を登録してもらっている。そして、予定が消化されるのに合わせて、表示するコラムや情報を変えている。

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図5:ゼクシィアプリ

ゼクシィアプリの例はMAツールを導入したケースではないが、ここから学べることは多い。表面的な属性にとどまらない顧客定義を行い、それを行動の違いにまで落とし込めていれば、MAツールを導入する意義も大きくなるだろう。

導入に成功する人は、既に成果が出ている人

ここまで、MAツール導入のための「顧客理解の成熟レベル」を見てきた。単にツールを導入するために、ここまでする必要があるのかと思っている方もいるかもしれない。しかし、 国内外におけるMAツール導入の成功事例を見ると、多いのは「MAツールを導入する前から成果を出していた」というパターンである。

例えば、mediacurrentの事例では、MAツールの導入前からペルソナを組み、Excelを使って顧客をセグメント分けするなどの取り組みを行っていた。また、日本エスリードの例ではMAツール導入の1年前からペルソナごとにメールを細かく分け、手動で効果測定まで行っていた。[4] 日本電気の例に至っては、導入の5年前からマーケティングと営業の連携に注力し、CRMツールによるナーチャリング施策実行の体制を整えており、「e-marketing Award」で優秀賞を受賞するほどであった。[5]

このようなパターンの企業の成功事例を要約すると、以下のようになるだろう。

『もともと、データの管理や営業との連携、顧客のパーソナライズなどの工夫を自分たちの手で既に行っており、一定の成果は出ていました。ただ、施策が緻密になるにつれ、その実行・検証を手作業や古いツールで行うには時間がかかりすぎるため、MAツールを使って効率化させました。その結果、以前にも増して戦略を考える時間を多く取れるようになったのです・・・』

このような事例では、もともと自分たちに成果を出すための土台があり、それがMAツールによってさらなる芽を出したのである。逆に言えば、仮にMAツールがなかったとしても、時間さえあれば十分な成果を出せていたことだろう。

すでに書いたように、MAツールは施策の実行と検証を効率化するためのツールであり、One to Oneマーケティングを回すための土台をゼロから整えてくれるわけではない。MAツールの活用のためには様々な準備が必要である。そしてそれらを根本までたどれば、結局は「個々のマーケターのマーケティング手腕」がものをいうのである。


[4]電通イーマーケティングワン「マーケティングオートメーション入門」
[5]庭山一郎「BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方」

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執筆者:宮坂佑
(エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト)
一橋大学法学部を卒業後、ビービット入社。金融、電機メーカー、メディア等の大手企業・ネット先進企業のウェブサイト改善・再構築に関するコンサルティングプロジェクトを多数手がけ、クライアントの成果向上に貢献。累計1000人超のユーザ行動観察調査の経験をもとに、近年は講演や執筆活動も実施。
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執筆者:大谷直也
(コンサルタント)
東京大学経済学部を卒業後、ビービット入社。人材、メディア、金融機関等のウェブサイト・デジタルサービス改善プロジェクトに携わった後、現在はテクノロジーとユーザ中心設計に関する調査・研究活動に従事。

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