Macy'sのオムニチャネル戦略によるCX向上

小売・流通業界を中心に、オムニチャネル戦略の考え方が根付きつつある。しかし、単に顧客との接点を多くすること自体が目的になってしまっては意味がない。今回は、アメリカの小売大手であるMacy'sの事例を見ながら、顧客の利用体験を高めるオムニチャネル戦略とはどのようなものかを考えていく。

2016年4月 8日

オムニチャネル戦略を行う真の意義

オムニチャネル戦略という言葉は、ここ数年で流通・小売業界にすでに定着しつつある。リアルの店舗だけでなく、オンラインストアやモバイル・DMなど、多くのチャネルを結びつけて、シームレスな利用体験を提供するという思想である。日本でも、オムニチャネル体験を前面に出したECサービスが登場するなど、引き続き注目度は高い。

しかし、チャネルをつなげることだけに意識を向けているだけでは、良いオムニチャネル戦略は立てられない。オムニチャネル戦略の意義は、顧客の利用体験(CX)を高め、ロイヤルティを高めることにある。そのためには、必ずしもデジタルチャネルからリアル店舗への誘導だけではなく、新しいチャネルや購買プロセスを作るという方法もありうる。

このコラムでは、アメリカの小売大手であるMacy'sの事例を紹介し、顧客の利用体験を高めるオムニチャネル戦略について考える。

Macy'sのオムニチャネル戦略

Macy'sには、もともと顧客を「Queen(女王様)」と位置づけ、顧客視点での意思決定を行う文化があった。しかし、近年ではさらに顧客の体験を向上させるため、様々な施策を行っている。いくつかの施策を具体的に見てみよう。

顧客視点からチャネル横断の体験を設計

多くのオムニチャネル戦略と同様に、Macy'sでもモバイル向けECサイトとリアル店舗との連携を強化している。しかし、Macy'sでは単にどちらでも買えるようにするだけではなく、顧客の利用文脈を明確に想定したうえで、チャネル横断の体験を設計している。

例えば服を検討する場合、日にちが迫ったパーティ用の服を探したり、暇つぶしがてらに販売中の服を眺めたりなど、場所を問わずにスマホで検討を始める顧客が一定数いた。しかし、スマホのみでは実際に手に取って確かめることができない。そこでMacy'sでは、位置情報を利用し、店舗の在庫をスマホで公開した。さらに、Googleにも近くの店舗の在庫を示す広告を出し、Macy'sに絞っていない顧客にも来店を促した。これにより、「思い立ったときにスマホでほしい商品を探し、近くの店舗で確かめて買う」という、ユーザの利用状況に即したカスタマージャーニーを作り上げることができた。

さらにMacy'sでは、オムニチャネル戦略が従業員のインセンティブに反しないよう、Webサイトとリアル店舗の予算を一本化している。これにより、Webとリアル店舗が食い合ってしまう問題をなくし、店舗でも顧客がスマホを見たことを前提とした接客を可能にしている。

画像検索で購買プロセスを大幅に短縮

服を買う体験は、検索から始まるとは限らない。街中や雑誌・テレビなどでおしゃれな服を見かけ、購買意欲を刺激されるというきっかけもある。しかし、後で調べようと思っても、うろ覚えになってしまい、全く同じ服にたどり着けないことも多い。Macy'sはそのような顧客のストレスを理解したうえで、顧客体験の最初の段階からアプローチする施策を打ち出した。

Macy'sの画像認識アプリ"Image Search"は、服を撮影すると、Macy'sの在庫の中から画像検索をかけ、似ている服とその在庫がある店舗を表示してくれる。もちろん、その場でスマホから買うこともできる。これにより、顧客は自分で服を探すプロセスを一気に飛ばして、偶然見かけて気に入った服を、すぐに手に入れることができるのである。

参考:Macy's Image Search(紹介記事)

スタイリストという新たなチャネルを創造

Macy'sのオムニチャネル戦略は、モバイルからの誘導のみにとどまらない。新しいチャネルを作り、新たな検討プロセスを生み出すことも行っている。

"My Stylist @ Macy's"のサービスを予約すると、Macy'sと契約したプロのスタイリストが、店舗で自分に合ったコーディネートを選んでくれる。利用料は無料であり、スタイリストからの強引な売りつけは一切されない。コーディネートが気に入らなければ、スタイリストと一緒に店舗をまわって服を選ぶこともできる。

このサービスのターゲットは"Image Search"と異なり、自分がどのような服を着るべきかわからず、合わない服を着て変な目で見られることを不安に思うファッション初心者である。このような人は、そもそも店で服を買うこと自体にハードルを感じていたことだろう。彼らに対して、スタイリストに対面でベストな服を選んでもらうという新しいチャネルを開くことで、Macy'sへのロイヤルティを生み、新しい顧客として長く利用してもらうきっかけにできると考えられる。

参考:My Stylist@Macy's(公式サイト)

オムニチャネル戦略の根幹にある接客方針

Macy'sでは「MAGIC」という接客方針を設けている。その内容は、「お客様と直に接する」「質問をして話を聞く」「選択肢やアドバイスを示す」「買う意欲を高めてもらう」「買っていただいたことを祝福する」という5つである。顧客に押し売りをするのではなく、顧客の状況やニーズをベースに、その顧客にあった対応をするという思想を見ることができる。

これらの思想は、店舗での接客の場だけではなく、ここまで紹介したデジタル施策の設計にも活かされていると考えられる。Image SearchやMy Stylist @ Macy'sなどは、単に顧客との接点増加を狙ったものではなく、「欲しい商品に自力で行き着くことが難しい」という顧客のフリクションの解消を試みたものと見ることができる。Macy'sでは、これまで培ってきた接客の思想をオムニチャネル戦略の設計にうまく活かすことで、単なる押し売りになることを避け、顧客から見た利用体験を強化することができていると考えられる。

接点の増加ではなく、CXの向上を目指す

オムニチャネル化というと、いかにチャネルを結びつけて接点を増やすかを考えがちである。しかし、顧客がどのような体験を求めており、現状何が足りていないのかを理解できないうちに、接点を増やしても意味は薄い。仮に最初のうちは伸びしろがあったとしても、それぞれの接点ごとに別々の方針で施策を打っていくことで、全体の対応に一貫性がなくなり、顧客がストレスを抱えてしまうこともある。

まずは現状のCX全体を考えたうえで、オムニチャネル化することで顧客にどのような意味があるのかを問う必要がある。Macy'sの例では、チャネルを横断することで顧客のストレスが解消される、潜在的な購買意欲を満たせるなどの意味づけがなされている。チャネルを結びつけること自体を目的にするのではなく、「顧客の視点から自社のサービスがどう見えているか」にもとづいた施策を打つことが望ましいだろう。



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執筆者:宮坂祐
(エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト)
一橋大学法学部を卒業後、ビービット入社。金融、電機メーカー、メディア等の大手企業・ネット先進企業のウェブサイト改善・再構築に関するコンサルティングプロジェクトを多数手がけ、クライアントの成果向上に貢献。累計1000人超のユーザ行動観察調査の経験をもとに、近年は講演や執筆活動も実施。
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執筆者:大谷直也
(コンサルタント)
東京大学経済学部を卒業後、ビービット入社。人材、メディア、金融機関等のウェブサイト・デジタルサービス改善プロジェクトに携わった後、現在はテクノロジーとユーザ中心設計に関する調査・研究活動に従事。

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