顧客の声を活かす【後編】

顧客の声を事業推進の要としていくためには、これまでのやり方から視点や考え方を変えていくことが必要となります。後編では、この時に重要となるポイントとその理由、具体例について弊社代表の遠藤が解説します。

2016年10月13日

前編では、顧客の声に基づく改善活動が定着しにくい、3つの原因について解説しました。顧客の声を事業成長につなげるためには、単に顧客調査をして指標を追うだけではなく、より戦略的な活動が必要になります。

本コラム・後編では、改善活動を推進する以下の3つのポイントについて解説します。

  • 顧客の経験価値を捉える
  • 数値と共に文化で推進する
  • 経営陣の情熱を引き出す

(前編はこちら:顧客の声を活かす【前編】

1: 顧客の経験価値を捉える

顧客調査を行うときは、表面的なアンケート回答にとらわれるだけではなく、お客さまが求めているものはそもそも何なのかをもう一段深く考えることで、改善活動につながる発見点を得やすくなります。

例えば、通信サービスのような定期的に支払のある事業の場合、解約は大きな痛手となるため、継続しない原因の分析は多くの企業で行われているでしょう。しかし、理由の多くは得てして「料金が高いから」です。そうなると、料金体系を簡単に見直すわけにはいかないので、手の打ちどころは限られると考えがちです。結局、解約を阻止するセーブデスクを設置したり、あるいは割引クーポンの発行や解約したときの不利益の説明をするなど、よくある引き留め策になってしまい、抜本的な解決がなされていない事例が多く見られます。

ここで本来やるべきなのは、「料金が高い」の裏側に何があるのかを考えることです。「料金が高い」とは必ずしも「価格そのものが高い」ということではありません。現に多くの顧客は、もともとはその価格で納得してサービスを使い始めているのです。 むしろこれは「サービスの実際の提供価値が価格に見合っていなかった」と読み替えられることが多いです。

そうなると、顧客が期待していた価値は何だったのかを知る必要が出てきます。これは解約理由には通常現れてこないため、インタビューなどさらに深い調査が必要です。例えば「困ったときにいつでも助けてもらえると思っていたが、いくら電話してもつながらない。それでこの料金は高すぎるのではないか」などのようなコメントを掘り起こすことができれば、真の課題が見えてくるでしょう。

解約時の顧客の声を「料金を理由にした解約は全体の62%」といった数値的な報告に落とし込むのではなく、その回答の背景を理解し、顧客が抱えている不満の根本原因に辿りつくべきです。そのためには、企業が提供している経験価値の全体像をお客さまの目線で捉え直す活動が求められます。

2: 数値と共に文化で推進する

顧客の声を活用した改善活動を企業に定着させるためには、数値で評価するだけでなく、企業文化として推進していく仕組みが必要です。

もちろん、多くの改善活動では、数値によるシミュレーションも必要です。それぞれの活動がどの程度顧客のロイヤルティ形成につながるのか、そしてその結果として、良い口コミ創出による新規顧客の獲得促進や、継続率・クロスセル・アップセル強化、生涯価値の増加、業務効率化によるコスト削減などにどの程度寄与するかを考えておくことで、活動の優先順位付けを行うことができます。そして、その改善活動の成果を責任者や担当者の人事評価と結びつけて、活動を強化していくのがセオリーです。

しかし、単に数値的・論理的なやり方で報酬制度と紐付けてしまうだけでは、改善活動が単なる数字上げのゲームと化してしまいます。顧客の満足度やNPSアンケートの回答は、主観的な情報にすぎず、その気になればごまかせてしまいます。例えば、もともと評価の高い顧客だけにアンケートをお願いしたり、良い評価をつけてもらうよう顧客に直接頼みこんだりなど、本来の趣旨に反する動きが多く発生しやすくなります。

このような数字ゲームを避けるために、経営陣はそもそもなぜ顧客の声を重視しようと考えるようになったのか、どういった理想を掲げて活動を推進しているのかを示し、社内の理解と納得を得るべきです。

数字は活動の進捗や正当性を検証するための単なる手段にすぎません。それだけにならず、顧客を大切にする文化を構築しながら活動を推進することで、数値目標の達成のみを目的化することを回避することが必要です。

3: 経営陣の情熱を引き出す

ここまで書いたような工夫を実際に行うには、一定の権限のある責任者を置くことが前提となります。その上で、組織全体でこれまで以上に顧客を深く理解し、企業組織の縦割りを超えた協力体制を構築することが欠かせません。

例えば、多くの企業ではウェブ部門とコールセンター部門の間で情報が十分に連携されていません。このような組織サイロを超えた課題はトップダウンでしか解決できませんし、企業全体の取り組みであるという認識が醸成できなければ活動は停滞していきます。そのため、経営陣が情熱を示し、他人事ではないという覚悟と姿勢を見せることが効果的です。

例えば、オーストラリア最大の通信会社であるTelstraは、経営陣がコールセンターで応対している場面を撮影し、youtubeで公開しています。この動画はお客さま向けというよりも、企業内部に経営陣の姿勢を示すためのものだと考えられます。



オーストラリア大手通信会社Telstraの事例
(Telstra CEO and leadership team take customer calls)

また、打ち上げ花火のような単発の活動ではなく、継続性のある活動とするためには、経営陣を含めた改善活動の推進者が情熱を維持する仕組みを作らなくてはなりません。

例えば、お客さまからの喜びの声や新たなご指摘の声は、さらなる活動を行うエネルギーの源泉になります。そこで、経営陣がお客さまの声を直接聴く時間を作るなどの取り組みです。顧客の声を数値化して情報量をそぎ落とすのではなく、一人ひとりのお客さまとしての重みのある情報として定期的に触れる機会を作ることで、より経営陣の共感を刺激し、情熱を維持することができます。

これを繰り返せば、お客さまからの厳しいご指摘の声を聞いても「もし家族が同じような辛い目にあったとしたらどう感じるのか」といった捉え方ができるようになり、より強く改善への意欲を維持することができるでしょう。

顧客の声を活かした活動が成果につながるには、想像以上に時間がかかり、年単位の時間を要する場合もあります。

それでも、お客さまからの目線で自分たちの提供価値を棚おろしし、改善の事業インパクトに対する数値的な裏付けを持ちながら、経営陣が顧客重視の理想を掲げて力強く推進していくことで、息切れをせずに真に顧客の声を活かせる企業への変革が実現できるはずです。

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執筆者:遠藤直紀
株式会社ビービット 代表取締役
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを設立。現在は、東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』。TED×Todai 2013にて「貢献志向の仕事」講演。ほか、講演・寄稿多数。横浜国立大学経営学部卒。

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