Fintechに冷静に取り組むために

金融業界においてFintechに対する注目が近年高まっています。バズワードに惑わされず成果を上げていくために留意すべきポイントをまとめました。

2015年11月26日

Fintechが国内でも流行りだした

欧米から始まったFintechの流れが今年に入って国内で加速している。海外の言葉を置き換える余裕もなく、「テクノロジースタートアップが金融サービスをディスラプトしてイノベーションが起こる」と興奮気味な記事やセミナーも多い。各所でFintech関連の予算がつき、「イノベーション推進室」のような名称で業界研究がおこなわれている。

筆者はこの盛り上がりにやや冷静な立場をとっている。それはFintechの渦中にないこともあるが、過去に同じような過熱を経験したことがあるからだ。FacebookやTwitterなどコミュニティサービスによる「ソーシャル熱」である。現在も勢いは続いているが、2年ほど前は我先に公式ページを開設し、交流とは名ばかりの一方的なプレスリリース配信を続けたものだった。

さて数年経った今、結果はどうだろうか。見回してみると、最後の発信から数か月経っていたり、フォロワーが100人もいなかったり、いいね!が社員だったり......閑古鳥の声すら聴こえない無残な姿が後を絶たない。おかしい、こんなはずはない。「ソーシャルでイノベーションが起こるはず」だったではないか。

筆者は現在、クライアントからFintechに関する事例共有や新サービスの企画など相談を受けることが多い。環境の変化に機敏に対応することは賛成だが、やや冷静さを欠いているのではという印象を持っている。いつもは堅実・着実な判断が武器の金融機関が、なぜか徒手空拳でFintechに挑もうとしているような気がしてならない。

筆者は「Fintechはバブルだ」と結論づけるつもりはない。大多数は市場に足跡を残せず消えていくことになるが、ほんの一部は既存の金融サービスを変える存在になるだろう。すでに顧客の課題を解決し、生活に不可欠なサービスを提供している企業もある。

「だからこそ、やってみないとわからない」のは事実だが、少しでも成功確度が高い事業・サービスに投資をすべきだ。今のままでは「ソーシャル熱」の二の舞になってしまう。

本コラムでは、Fintechに間接・直接的に投資をするときに気を付けたいポイントをいくつか紹介する。どれも「ビジネスの基本」であるが、熱に浮かれていると正常な判断が鈍るものだ。なお、本コラムで紹介するポイントはBtoCのFintechサービスを想定していることを付け加えておきたい。

Fintech企業を冷静に見るチェックリスト

もし提携先のFintech企業を探す立場にあるとして、どのような点に注意をすればよいのかをチェックリスト形式で整理する。

テクノロジー、自動化に惑わされない

Fintech関連のスタートアップでよく話題になるキーワードが、「テクノロジー」や「自動化」といったキーワードである。これまでのアナログ的手法からどれだけ進化しているのかが強調される。そもそもこれがFintechのFintechたる所以とも言える。

だが、テクノロジーの複雑性や機能性とサービスの価値は比例するわけではない。研究成果としては誇るべきものかもしれないが、それがすなわちサービスとして利用者に受け入れられ、顧客を増やしていける保証にはならない。

それに、特定のテクノロジーはビジネスにおいて長期的な差別化要素になることはない。すぐに進化し陳腐化することと、真似され同種のテクノロジーが乱立することがその理由だ。進化を重ねたり特許で保護をしたりと対応もあるが、その活動には大きなコストがかかり、企業が簡単に担保できるものではない。

大切なのは、テクノロジーが利用者に対して生み出すプラスの価値または解消するコストである。つまりテクノロジーを享受する人にとってどう映るかというものだ。特にここ日本で言えば、利用者はアナログ好きで、新しいものには飛びつかない傾向がある。

高度なテクノロジーは輝かしいが、それだけがサービスの核になっているFintechは非常に心もとない。もう一歩踏み込んで、利用者にどう受け入れられるのかまで考慮されているだろうか。その点については、テクノロジー業界よりも長く「お客様サービス」の土壌を築いてきた金融機関に一日の長がある。厳しい目で判断してほしい。

革新性に惑わされない

Fintechを紹介するメッセージには、「これまでなかった」「まったく新しい」という言葉もよく耳にする。先ほども述べたが、新しいものはそれだけ利用者にとってのハードルが高くなる。金融サービスに限らず、これまで数多の「画期的なサービス」がお蔵入りしてきた。特にデジタルサービスは勃興から衰退までの期間が非常に短い。

金融サービスではもうひとつ、利用者が持つ「負のリスク」に対する関心に気を払う必要がある。サービスを取り巻く雰囲気や心象、世論など客観情報によって主観が大きく左右されてしまう。たとえば直近の話題だと、ビットコイン関連のサービスは(少なくとも日本においては)普及のハードルが高い。不祥事を起こした会社が一社だとしても、世間の見方は「ビットコインは怖い」に傾いてしまう。利用者に影響力を持つメディアも、しっかり勉強して利便性を伝えるよりは、危険性などを訴えたほうが楽で、受け手の注目も集めやすくなる。

「海外で人気」に惑わされない

インターネットが海を渡ってきて以来、今もなお「日本は欧米(特にシリコンバレー)から10年遅れている」と言われていることもあって、特にテクノロジー業界は海外サービスを実態以上に礼賛してしまう傾向にある。実際優れた視点で顧客の課題を解決するサービスも多いが、海外と日本の環境・市場の相違点に注意する必要がある。

日本が単に遅れているだけなら5年先・10年先には変わっているかもしれないが、「今海外で流行っている」サービスの日本のおいての現在価値は、正しく割り引いて考える必要がある。

たとえばクレジットカードの決済サービスや、P2Pレンディングと呼ばれるようなパーソナルファイナンスなど、クレジットを使う文化や寄付の文化など、土壌の違いや利用者の考え方・意識・習慣の違いを忘れてはならない(もちろんサービス自体を否定するものではない)。特に、「海外ではこれが主流だ。おそらく国内でもそうなるだろう」という期待をもとにしたFintechには少し冷静に判断したい。市場はそう簡単には形成されず、また一企業の努力だけで市場を盛り上げることも難しい。

市場規模に惑わされない

市場の話に続けよう。テクノロジー業界は、ピッチと呼ばれる投資家向けのプレゼンテーションに慣れている経営者が多い。自らのサービスの顕在・潜在市場規模の大きさをわかりやすく伝え相手に納得させる。粉飾ではない限り数字は事実であって、疑う余地はない。だが市場規模はサービスをどう定義するかによってある程度恣意的に操作できる。それを事前に検証し、妥当性を明らかにすることは大切だが、その数字はサービスの成功を保証するものではない。

それよりも、市場を構成するひとりひとりの利用者にフォーカスし、彼らにとっての価値が明確になっているかをチェックすべきだと筆者は考えている。どんなに大きな市場だとしても、必ず最初は「誰か1人」なのだ。経営者は、利用者を数字ではなく課題を持った人間として認識しているだろうか。

そのサービスは利用者の価値につながるか?

最後のチェックポイントは、今までの総括でもある。それは、「サービスは利用者にとって必要なものか?」という観点だ。これまでの説明でも、「利用者の視点で見る」ことが大切であると述べてきた。

すでに一定の市場を形成し、延長線上に成功が約束されたFintechに投資をするのが理想ではある。だが未知なもの、どう転ぶかわからないものにもリスクを取って投資を判断する必要に迫られるかもしれない(だからこそ投資を必要としていると言える)。

そんなときは、流暢に語られる輝かしい未来像ではなく、目線を下げてサービスの足元を見てほしい。まだ規模が小さいサービスであっても、それが誰かにとってなくてはならないものか、継続して利用する顧客がいて愛されているかどうかを確認しよう。筆者もあるFintechサービスを利用しているが、大変便利で日常になくてはならない道具になっている。正直至らないところもあるが、問い合わせるとサポートが丁寧で、日々改善が施されて着実に使いやすくなっている。毎週のように新しい機能が追加される様子も、「手をかけている」印象が伝わってきて利用者として愛着が湧く。

投資家を見るよりも、利用者とその心理、ニーズに強い関心を持ち、きちんと仮説を持っているFintechに投資をしてはどうだろうか。これがかつての「ソーシャル熱」では曖昧にされてしまった。誰が使うのかが明確でないまま、「ソーシャル」という言葉でなんとなくラッピングされ、市場が大きければきっと誰かが使うだろうという漠然とした期待があった。

どんなFintechサービスにも共通しているのは、人間を相手にしていることだ。人間はすべて数字で割り切って考えるわけではない。時に合理的にも非合理的にもなる。新しいから、最先端だから、コストが小さいからという理由だけでサービスを使うわけではない。「自分にとって価値があると感じる」から使うのである。自分自身がサービスの利用者になるか、あるいは利用者の生の声、行動を把握することをおすすめする。

Fintechに自前で取り組むときのチェックリスト

次に、間接的ではなく、みずからサービスを開発してFintechに取り組む場合の注意点を紹介したい。これまでに紹介したチェックリストも有効だが、ここでは「よいサービスをつくる考え方」に重きを置いてみたい。

筆者としては、ぜひFintechは内製で進めてほしいと思っている。仮説を立てて顧客を通じて検証するサイクルは、サービスだけではなく組織全体を強化する大きな学びになるからだ。

ユーザにとっての手間、は何か?

先のチェックリスト冒頭で「テクノロジー自体はサービスの価値にならない」のような言い方をした。これは、テクノロジーが優れていることとサービスとして優れていることとは別である、ことを伝えたのであって、テクノロジーが人々の生活を便利にすることを否定したわけではない。

金融サービスの多くは、未だに利用者自身が「知識(リテラシ)」を持ち、自ら「手間」をかける必要がある分野が多くある。個人向けサービスで言えば、株や投資信託などの投資がそうだ。

テクノロジーは、手間を解消しさらに人手以上の効果を簡単に得ることができる魔法だ。マッチを擦ってろうそくに火を灯すより、明るく、長持ちする光をスイッチ一つで手に入れることができるのは紛れもなくテクノロジーによるものだ。

ぜひ身の回りにある「手間」「負担」を見つけるようにしてほしい。たとえば、uberというタクシー配車サービスでは、利用者はスマートフォンアプリを通じて事前にクレジットカードを登録する。これによって、タクシーの降車時の決済時間を省き、目的地に着いたらそのまま降車することができるようになった。読者もタクシー乗車時に、お札を出したら「お釣りがない」と言われたり、急いでいるのにお釣りの準備に時間がかかったり、カード決済端末の準備にもたついて苛立った経験はないだろうか。

このように、日常感じるハードルの高さや不便・手間に注目するとよいサービスが生まれる傾向にある。

常識、当たり前になっているものはなにか?

金融業界には「常識」「当たりまえ」のサービスがある。もちろん中には規制で決まっているもの、セキリュティなど担保すべきものもあるが、「意外に顧客はそこまで求めていない」「もっと違うところにニーズがある」可能性を排除してはならない。従来のサービスに固執することで視野が狭くなり、新サービスの発芽を妨げている可能性がある。

たとえば銀行の振込みも、「15時以降は翌営業日」が当たり前だが、24時間送金サービスは本当につくれないのだろうかと考えてみる。法律で決まっている、全銀システムの制約、日締め勘定のため......理由はいくつかあるかもしれないが、それらをクリアすることができないのだろうか。「顧客に金額ミスは許されない」のは思い込みで、利用者は「これまでよりエラー率が高くても、24時間送金の方がうれしい」と思ってはいないだろうか。

Fintechが輝きを放っているのは、良くも悪くも旧来の慣習や制約に妨げられずに本質的な課題を解決するサービスを生み出しているからだ。常識を捨てるのは言葉では簡単だが実行はなかなか難しい。そもそも自分が何にとらわれているか気づくことができない。だが多くのライバルが気づかないがゆえに、打破したときのインパクトは大きい。

金融サービスはあくまで手段

極論を言ってしまえば、金融サービスは手段である。銀行の借り入れも、事業に活用するための手段であってそれ自体は目的ではない。Fintechとして生み出されるサービスは、多くが手段として提案されている。悪いことではないが、広く人々に広まるためには、何かしらの目的が伴っている必要がある。理想的には、利用者が意識せずにFintechサービスが自然に使われている状況を作り出したい。

そのためには、「今すでにおこなわれていること」に注目して、Fintechによってそれらがより便利な体験・深い体験に貢献できないかと考えるとよい。たとえば、まだ知名度が高くないP2Pレンディング(ソーシャルファイナンス)も、音楽・出版などのファンビジネスと結びつくことで、多くの人に「意識せずに使われる」状態になるかもしれない。

サービス自体というよりプロモーションに寄った話にはなるが、サービス単体ではなくそれがどのような文脈で世間に広まっていくかは、偶然に任せず積極的に仕掛けていく必要がある。

進路を変えることを厭わない

金融サービスは特に信頼性や堅牢性が重要なことから、「ベータ版」と呼ばれるようなプロトタイプ段階での公開に躊躇することが多い。完成度が高く作りこんだ状態で公開するメリットは大きいが、コストをかけた分、すぐに壊し方針変更する働きが起きにくい。

サービス(特にFintechが対象とするデジタルサービス)は、顧客からのフィードバックによって仮説を見直し、サービスを修正する反復作業が成長には欠かせない。

たとえば、国内Fintechの事例として紹介されることが多いマネーフォワード社では、自社の家計簿ツールを利用する顧客への調査を重ねる段階で、単なる家計簿利用にとどまらず個人事業の確定申告として利用されていることを知った。顧客からの要望にも、税理士に見せられるようなカスタマイズ機能がほしいという声もあったことから、新たに別サービスとしてクラウド会計サービスの開発・提供に乗り出した。

家計簿ツールはこれまでも存在したが、利便性の高いクラウド型の会計サービスはキープレーヤーがいなかった。この動きが同社の知名度・利用拡大につながり、その結果として初動の家計簿ツールの利用増にもつながっていると筆者は見ている。

これらをはじめからすべて計画してその通りに進めることは非常に難しい。この例からの学びとしては、当初の企画やアイデアに拘泥せず、顧客の課題への解決につながるサービスについて検討を重ねることの大切さである。数撃てば当たるという闇雲な姿勢を促しているわけではない。あくまで顧客の価値にフォーカスし続けることが大切だ。

スマートフォンが舞台になる

以上のように考え方を中心に説明すると、「具体的にどんなサービスが有望なのか教えてほしい」という声をもらうことが多い。残念ながら筆者も明確な未来像は描くことができない。

だが、それでも確実に言えるのは、特にB2Cのデジタルサービス市場においては今後スマートフォンを抜きにしてFintechを語ることはできないだろう、ということだ。もはやインターネットを利用する舞台はPCからスマートフォンへ移行している。かつては「携帯はPCが使えないときの代替」と見られていたが、スマートフォンによってそれが逆転した。ファッションなどのECサイトや会員を募るコミュニケーションサービスでは、「PCサイトの開発は後回し」「PC向けには提供しない」と優先度を下げる判断をする企業も増えている。

ただ、「スマートフォンで何ができるか」とすぐにアイデアを出す動きに走るのは避けたい。その代わりに、ぜひ「今スマートフォンで顧客は何をしているのか」という観察調査を積極的に始めてほしい。そこには驚くべき利用行動があるだろう。

たとえば、これまで飲食店をさがすときには「食べログ」や「ぐるなび」などでお店を検索し、レビューや口コミを見比べて比較検討する行動が当たり前だった。ただこれはそれらの行動に適したPCでの話だ。画面の制約や入力環境の違いもあり、スマートフォンでの行動は様変わりをしつつある。若年層の中で、「Retty(食べログの競合サービス)」や「Instagram(写真共有ソーシャルサービス)」で料理の写真が流れてきたのを見て、おいしそうに思えた店に行く、という行動がみられるようになった。口コミも、点数も見ていない。

行動はより直感的になり、またスマートフォンへの態度も、「検索比較」という主体的なものから、より「受動的」になりつつある。Youtubeのような動画メディアが存在感を増し、Youtuberと呼ばれる動画配信主が注目されるのも、背景にはスマートフォンによる利用者行動の変化がある。

Fintechの勝者は誰か

はたして、金融業界を席巻するFintechサービスは誰か築くのだろうか。人工知能、ビッグデータ、クラウドなど技術に長けた企業だろうか。それとも奇抜なアイデアによって融資や決済など既存のサービスを破壊する企業だろうか。

どんなサービスかは想像もつかないが、ユーザの信頼を集め、デジタル生活を豊かにするサービスを提供する企業であることは間違いない。そう考えると、必ずしもプレーヤーは金融業ではないかもしれない。

Amazonは昨年、中古品販売サービス「マーケットプレイス」の法人事業者を対象にした運転資金融資サービス「Amazonレンディング」を開始した。これが将来、個人向けに開始される可能性はないだろうか。Amazonには月間4,800万ユーザが訪問し、膨大な決済データを持っている。

金融は人々の生活になくてはならないインフラである。必ずしも金融機関だけが金融サービス提供の主体になるわけではない。ぜひ視野を広げ、サービス自体ではなくそれを受け取る利用者に焦点を合わせてほしい。

執筆者:宮坂祐
株式会社ビービット エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト

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