eNPSは何によって上がるのか ー 16業界eNPS調査結果【後編】

本コラムの前編では、昨今eNPSが重要になってきていること、また、eNPSには「正当な報酬」・「正当な評価」・「顧客への貢献実感」が影響していることを述べました。 本コラムでは、仕事の役割が見える「部署」を切り口に、eNPSの比較を行い、そこからeNPSを高めていくための方法について考察・ご紹介します。

2017年11月 6日

部署別では人事部を始めとした本社機能のeNPSが高い

図12)部署別eNPS

eNPS調査を回答者の部署別で集計すると、人事部が-40.7でeNPSが最も高いことが分かりました。続いて、経営/経営企画、広報/マーケティング部門となります。一方、eNPSが低かったのは、生産部門、カスタマーサポート、営業/販売という結果でした。

ここで着目したいことは、緑色の線で囲まれた「本社機能を担う部署」のeNPSが高いことに対し、オレンジ色の線で囲まれた「顧客と接点を持つ部署」、いわゆる現場部門のeNPSが低いことです。絶対値で見ても、人事部のeNPSが最高で-40.7であるのに対し、カスタマーサポートのeNPSは-68.3と大きく開いています。

eNPSは、「顧客や社員(同僚)の役に立つことに喜びを感じ、顧客・同僚に対してよりよい体験を提供しようという高いモチベーションを持っているかどうか」を把握できると言われています。本社機能を担う社員がモチベーション高く働くことも重要ですが、顧客からの評価(NPS※)を高めるにあたっては、顧客と直接的な関わりをもつ「営業/販売」や「カスタマーサポート」の役割は一層重要です。にも関わらず本社機能よりスコアが低いのは、課題と言えます。

そこで、「本社機能を担う部署」と「顧客と接点を持つ部署」のeNPSの差は何によって生じ、どう改善できるのか、別のデータで見ていきます。

顧客接点を担う部署が「正当な報酬」を受けていないと感じている

本コラム前編でeNPSに影響を与えていると見られた3つの要素、「顧客への貢献実感」「正当な評価」「正当な報酬」を部署別に比較してみました。

図13)部署タイプ別不満者の割合

スコアを比較すると、「顧客への貢献実感」についてはほとんど差が見られない一方で、「正当な評価を受けられているか」「正当な報酬を受けられているか」について、顧客接点を担う部署の方が本社機能を担う部署に比べ不満を抱えている方が多いという結果でした。つまり、顧客接点を担う部署のeNPSを下げている要因として「正当な報酬・評価を得られていると従業員が感じていないこと」が大きいと予測されます。

「評価への不満」が「報酬への不満」を増長

もちろん、単純にこれらの部署の金銭報酬をあげればeNPSが高まる可能性が高いですが、報酬は事業の収益性、人材獲得のコスト、キャリアパスや評価体系など複合的な要素で決められているため、そう簡単に変更することはできません。また金銭報酬はあまりに効力が強いため、安易な報酬変更は「従業員が金銭報酬を多く得られるようになることを目的に働くようになる」など、組織に思わぬネガティブな影響をもたらすリスクさえあります。

そこで改善方針を探るべく、より詳しく「顧客接点を担う部署」のeNPSの理由(フリーアンサー)を見ていくと、「遣り甲斐はあるが待遇はあまりよくない」「給料が安い」「責任の割に給与が低い」といった回答が多く見られました。また、当社の別の調査でも現場と本社部門の意識の乖離が見えることは多く、例えば「現場が担っている部分が大きいのに本部は現場の声を聴かずに顧客ニーズに合わない企画ばかり立てて押し付けてくる」「本社に何を言っても無駄」といった声をどの業界でもよく聞きます。

これらから、評価や報酬に対する不満は、単純に「金銭報酬をあげてほしい」という要望だけではなく、その奥には「自分の仕事が認められていない」と感じていることがあるのではないかと受け取れます。そして、「自分の仕事が認められている」と従業員に感じてもらうには、必ずしも「金銭による報酬」である必要はなく、「金銭以外の報酬」が有効に機能することも多々ありそうです。

次の章では、「金銭以外の報酬」によって社員を評価し、社員のeNPSを高め、さらに顧客志向の活動を推進している企業の例を紹介します。

「金銭以外の報酬」で社員への評価を示す

「金銭以外の報酬」とは、仕事ぶりに感謝を伝えることや、社内表彰、あるいは特別な肩書きや社内資格を与えるなどの活動を指します。

例えばeNPSのスコアが9 とプラススコアになっている米国スターバックスでは、「グリーンエプロンブックカード(GABカード)」という仕組みがあります。同社では、「歓迎する」「心こめて」などの5つの行動規範を記した「グリーンエプロンブック」を全従業員に配布していますが、従業員はこれを常に携帯し、行動規範の意味を自分なりに考えて接客に生かしています。そして、このような行動規範を実現する仲間の行動に気づいた時は、良かった点などを記入したGABカードを従業員間で手渡すよう仕組み化されています。また、GABカードを5枚集めた従業員に対してはお店で正式に表彰しています。

さらにリッツ・カールトンでは従業員から評価カード(ファースト・クラス・カード)に加え、お客様からの感謝状の数、「ワオ・ストーリー」を生み出した実績などから月間最優秀従業員賞が表彰されています。

またコールセンターの通話の直後に、顧客から「今の通話の対応満足度」をIVR(音声自動応答システム)で聴取し、その結果をオペーレータやグループごとに集計して高評価の個人/グループを表彰するという方法を取っている会社もあります。

これらの事例は、従業員に「金銭以外の報酬」を与えるのみならず、従業員の主体的な「顧客志向の行動」をもたらします。自分の仕事に対して記憶が新鮮なうちに相手からの前向きなフィードバックを得られることで、モチベーションが上がるのみならず、「どうしたらもっとお客様は喜んでもらえるのだろうか」と考えることができるためです。ただし、このような活動が奏功するためには、現場に一定の権限・裁量がなければいけません。自分なりに考え、工夫した結果が誰かの役に立った時、人は喜びや、やり甲斐を感じるものです。
現場社員の経験や意志・アイディアを尊重し、それを顧客や同僚の視点から評価をすることでeNPS、ひいてはNPS、業績の改善が期待できると考えられます。

パンドラの箱を開けずにeNPSを把握する

これまで述べてきた通り、eNPSの向上は、社員の高いパフォーマンスをもたらし、それは顧客のNPSの向上に繋がります。また、eNPSが高い社員は勤続年数が長くなるため、採用コストの削減や、社内でのナレッジの蓄積にも効果があると言われています。

一方で、「自社のeNPS調査はやりたくない」という経営者の声をよく聞きます。「意見を言ったのに反映されなかった」という感想を社員に持たれてしまいやすいという、パンドラの箱のような側面があるためです。

そこで、eNPSを代替数値で把握する方法をご紹介します。
直接的にeNPSを取得するのではなく、NPSと離職率の相関を見るという方法です。もしNPSと離職率が相関していれば、NPSとeNPSが一定相関すると捉えることができるので、NPSをeNPSの代替数値として計測し、マネージメントすることが可能になります。部署ごと、支店ごとなどでNPSと離職率を算出し比較してみると良いでしょう。

図14)従業員へのアンケート不要の「従業員・スタッフ」ロイヤルティの証明方法

同様に、経理部門や総務部門など、直接的に顧客に接していない部署のeNPSを把握するには、その部署の仕事の対象となる社員(社内顧客)を定義し、その社員からの評価を聞くという方法もあります。例えば経理部門の仕事の対象である社員(社内顧客)に、「問い合わせをした際にその対応はスムーズか、また回答は的確か」などその部署の評価(CS)を尋ねるのです。先ほどと同様、離職率との相関を見ることで、社内顧客からの評価をeNPSの代替数値としてみなすことができます。
なお、この時も「○○部(○○さん)を同僚に勧める可能性はどのくらいありますか」とNPSを尋ねることができればより有効ですが、自社部門について他者に勧めるというシチュエーションは想定しづらいため、CSを代替数値とするのが良いと考えています。

また、この社内顧客への満足度調査は副次的な効果もあります。法務部門や経理部門などの本社業務の部門は、得てして仕事の対象者からフィードバックを受けづらいですが、このような調査を行うことで、仕事の対象者(顧客)からのフィードバックを受け取ることができ、貢献する対象を意識した仕事の振り返りができたり、顧客体験(Customer Experience: CX)を間接部門であっても考えるという文化が組織に定着しやすくなります。

eNPS・NPS・収益が善循環する経営システムの構築を

ここまでeNPS調査結果を色々な角度から眺めてきましたが、「eNPS」をあげることは目的ではなく、目指すべきは、社員の働きがい(≒eNPS)、顧客の喜び(≒NPS)、事業成長のエネルギーとしての収益の3つが好循環する経営システムの構築です。

例えば、eNPSの向上だけを目指せば、報酬アップや労働時間の短縮などの施策もありえるでしょう。しかし、その分、商品単価がアップしたり、問い合わせへ対応時間が減るとしたら、顧客価値が低下し、NPSを下げる結果となることもあります。
また、NPSをあげるための取り組み(例えば、顧客サービス品質向上のため、土日に交代制で出社、平日に顧客応対をストップして社員研修を実施等)が、短期的にeNPSや売上を下げてしまうことも往々にしてあります。

このようにNPS・eNPS・収益の一つ一つを短期的に捉えて数字改善だけを図ろうとすると、全体のバランスを欠いて逆効果となることもあります。NPSを顧客価値指標として取り入れる企業が増える中、長期的かつ、全体感を持った活動の推進がされるよう、本レポートが一助となれば幸いです。

本調査レポートの全文及び調査結果の全データは以下よりご覧いただけます。(個人情報等の入力は不要です。)


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※注記
NPSとは、ベイン&カンパニーが開発した「顧客ロイヤルティ測定指標」であり、顧客が企業に対して抱く満足度や信頼の度合いを定量化するもの。測定方法は「この企業(あるいは、この製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか?0〜10点で評価してください」という「究極の質問」を顧客に行い、10,9点をつけた顧客を「推奨者」、8,7点を「中立者」、6点以下を「批判者」(6〜0)と分類する。推奨者の割合(%)から批判者の割合(%)を引いた割合 がその企業のNPSとなり、マイナス100からプラス100までの数値で表される。

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執筆者:武井由紀子(取締役)
早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。チェンジマネージメントグループに従事。

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