2種類のカスタマージャーニーを使い分ける

カスタマージャーニーマップを作るときの考え方には2種類ある。よくある考え方は、個別の接点で顧客を啓蒙・誘導していく「接点最適ファネル型」である。しかし、この考え方は万能ではない。顧客ロイヤルティ向上を目指すときは、もう一つの「信頼貯蓄型」の考え方を理解しておく必要がある。

2016年3月25日

前回のコラムでは、カスタマージャーニーマップを社内で有効に活用してもらうための、作成の進め方の工夫について解説した。今回は、カスタマージャーニーマップを作るときに、全体を通してどのような設計思想が必要になるかについて解説する。

ビービットでは、カスタマージャーニーを設計するときの思想は大きく2種類あると考えている。「接点最適ファネル型」「信頼貯蓄型」である。前者のような、ファネルに近いカスタマージャーニーが有効であることも多いが、後者の思想がなければうまくいかない場合もある。

「接点最適ファネル型」ジャーニー

よく見られるカスタマージャーニーの設計思想は、顧客を購買というゴールに向けて啓蒙・誘導するというものである。これは、顧客との接点それぞれでのコミュニケーションを最適化することで、顧客をゴールへと導いていくという手法である。自分たちが想定したコースの上を、顧客をピンポイントに誘導しながらゴールへ向けてたどってもらうという点で、ファネルマーケティングに似た発想といえる。

例えばある金融機関では、既存顧客に新しい金融商品を利用してもらうためにファネル型のカスタマージャーニーが使われていた。その中では、SNSを使い日常的な接触頻度を高め、コンテンツを通じて資産運用の大切さを学んでもらい、興味が喚起されたユーザに新商品のお知らせを送るという流れとなっていた。

このようなアプローチは、新たな購買を生み出すためにはとても重要であり、大きな効果を生むことも多い。しかし、このアプローチは常に有効というわけではない。カスタマージャーニーをファネルの一種として扱うだけでは、不十分になってしまう場合もある。

接点最適ファネル型が有効ではない場合

顧客を啓蒙・誘導するアプローチは有効なことも多いが、以下のような場合には注意が必要である。

長期間にわたるカスタマージャーニーを考えるとき

数年から数十年単位の長期で顧客関係の構築を考えるときは、顧客の啓蒙・誘導の効果が薄れてしまいやすい。期間が長くなるほど、顧客の興味関心を動かすものや行動のパターンが増えていくため、同じように誘導してもどのような効果を生むか振れ幅が大きくなる。そのため、一本道の誘導コースをたどってもらうことが難しくなっていく。さきほどの保険会社の例も、期間を数週間から数ヶ月の比較検討にしぼっているからこそ有効といえる。

顧客ロイヤルティ向上を第一の目的とするとき

顧客ロイヤルティ向上を重視する場合も注意が必要となる。ロイヤルティは「そのサービス・ブランドが好きという気持ち」であり、論理だけでは説明しきれないような感情に左右される面が大きい。そのため、合理的な検討行動を促すようなやり方のみでは、必ずしもロイヤルティ向上に結びつかないこともある。
必要に迫られて比較検討を行っている場合以外は、顧客はサービスを通じて何かを学びたいとは思っていないことが多い。そのため、サービスに興味を持っていない顧客を適切なコンテンツで啓蒙したとしても、ロイヤルティ向上にはつながりにくい傾向にある。むしろ「広告やメールがしつこい」という感情的な反応をされ、かえってロイヤルティが下がってしまうこともある。



これらのような場合に、各接点でのコミュニケーション最適化という思想のみでカスタマージャーニーマップを作ろうとすると、非常に難しくなってしまう。前回のコラムでも紹介したが、ある教育企業では子供が生まれてから高校を出るまでの18年間のカスタマージャーニーマップを作り、各年代の教材を適切なタイミングで訴求していこうとした。しかし、マップが複雑になりすぎたうえ、課題が多すぎて収拾がつかなくなり、結局失敗してしまっている。顧客の長い人生を「購買へと誘導するファネル」として捉えるアプローチだけでは限界がある。

「信頼貯蓄型」ジャーニー

では、期間が長い場合やロイヤルティ向上が主目的の場合、他にどのような設計思想が必要になるのだろうか。ビービットでは、もう1つの設計思想として、「顧客からの信頼関係の土台を築く」ことが重要であると考えている。

この設計思想では、目先の購買を追うのではなく、顧客にとってのサービス利用体験を高めることを重視する。それにより、単に繰り返し購買するだけのリピーターではなく、自社サービスに愛着を感じ、他の人に勧めてくれるようなファンになってもらうことを目指す。個別の接点におけるコミュニケーション手法に注目するのではなく、利用体験全体で良い体験を積み上げていき、サービスに対する信頼の土台を作るのである。

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図1:2種類のカスタマージャーニーの違い

信頼貯蓄型ジャーニーを作るための視点

とはいえ、「信頼関係の土台といわれても、どのような視点を持って顧客体験を検証すればよいかわからない」という方もいるだろう。ビービットでは、以下の2つの視点を持ってカスタマージャーニーを考えることが多い。

利用体験におけるストレスの解消

サービスを利用するときは、「サービスの設定を変える方法がわからなかった」「電話をしたらたらい回しにされた」など、自分がやりたいことを実行するのに労力がかかり、顧客がストレスを感じてしまうポイントがあることが多い。これをフリクションという。カスタマージャーニーマップを作るときも、利用体験を大きく阻害しているようなフリクションを見つけて改善するという視点が有効になることが多い。

「個別の接点を最適化するのとどこが違うのか」と思った方もいるかもしれない。しかし、カスタマージャーニーマップ作成時にこの視点を持つことで、個々の接点ごとの課題だけでなく、利用体験全体を通じた課題が見えやすくなる。例えば、あるケーブルテレビの企業では、ウェブサイトや工事申し込み・コールセンターなど個々の接点では最適な顧客対応をしており、顧客満足度も高かった。しかし、チャネル間での情報の連携が不十分であったため、契約プロセスを進めるにつれて、顧客は以前話したことを何度も説明しなければならず、全体として大きなストレスと不安をためていたという。

カスタマージャーニー個々の接点を分断して考えるのではなく、全体として一貫した体験を作るという視点を持つことで、今まで気づかなかったフリクションが見えやすくなる。

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図2:個々の接点を超えたフリクションを見つける

感動体験を創出する

大きなフリクションをひと通り解消できた段階に達していれば、感動体験の創出を目指してもよい。フリクションがなくなっていれば、顧客の顕在的なニーズはほぼ満たされているため、「期待どおりにスムーズに使うことができた」「便利だった」という良い評価が寄せられているだろう。しかし、顧客の中にはさらなる潜在ニーズが眠っていることが多い。潜在ニーズを見つけ出して期待以上の体験を提供することで、顧客に「ここまでしてくれるなんて思わなかった」という感動を与え、自社サービスのファンとなってもらうことができる。

サービスのファンが増えれば、外部環境が変わっても簡単には他のサービスへ流れなくなり、長期的に大きな競争優位を作っていくことができるだろう。

2つの考え方を使い分ける

今回解説した「接点最適ファネル型」と「信頼貯蓄型」は、いずれも有効な手法であり、どちらかに絞るべきではない。ただし、カスタマージャーニーを成果につなげたいという思いを強く持っていると、いつの間にか接点最適ファネル型の考え方に偏った見方になってしまいやすい。カスタマージャーニー上の潜在的な課題を洗い出すときには、両方の視点を持って臨むと良いだろう。



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執筆者:宮坂祐
(エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト)
一橋大学法学部を卒業後、ビービット入社。金融、電機メーカー、メディア等の大手企業・ネット先進企業のウェブサイト改善・再構築に関するコンサルティングプロジェクトを多数手がけ、クライアントの成果向上に貢献。累計1000人超のユーザ行動観察調査の経験をもとに、近年は講演や執筆活動も実施。
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執筆者:大谷直也
(コンサルタント)
東京大学経済学部を卒業後、ビービット入社。人材、メディア、金融機関等のウェブサイト・デジタルサービス改善プロジェクトに携わった後、現在はテクノロジーとユーザ中心設計に関する調査・研究活動に従事。

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