第40回 進化するユーザビリティテスト 「ユーザ行動観察調査」の効果・効能

ユーザビリティテストとユーザ行動観察調査の違いを明らかにします。

2008年9月26日

本コラムのサマリ

  • ユーザインタフェースの課題を抽出するだけのユーザビリティテストでは、サイトの本質的な改善はできない
  • ユーザ行動観察調査をプロジェクト初期段階から実施し、ターゲットユーザとその行動原理(インサイト)を正しく把握することがプロジェクトのROIを最大化させる

ユーザビリティテストは誤解されている!?

「ユーザ中心」「ユーザーエクスペリエンス」といった概念の浸透に伴い、近年のウェブサイトリニューアルプロジェクトでは「ユーザビリティテスト」を実施することが当たり前になってきたようです。アイトラッキング(視線追跡)なども駆使した本格的なユーザビリティテストの事例が多く聞かれるようになったことは、数年前の状況から考えると非常に好ましい進歩です。

ただ、ユーザビリティテストを単なる「サイトの使いやすさ調査」と位置づけてユーザインタフェースの課題(見つけやすさ・読み易さなど)を抽出するためのものと捉える向きが一般的で、その本質的な効果・効能が理解されていないケースも見受けられます。

ユーザビリティテストはユーザインタフェースの課題を抽出するだけに止まらず、「ユーザを知る」ための強力な手段として活用可能なのです。ビービットでは「ユーザビリティテスト」を「ユーザ行動観察調査」と呼び、ユーザの内面にまで踏み込んだ分析を可能にする、より上位のマーケティングツールとして活用することを推奨しています。

今回は、単なる「使いやすさ調査(ユーザビリティテスト)」を超えた「ユーザ行動観察調査」の効果・効能をご紹介していきます。

一般的なユーザビリティテスト≠ユーザ行動観察調査

一般的なユーザビリティテストとユーザ行動観察調査との間の違いは何でしょうか。被験者がサイトを使用する様子を観察するという点において両者の違いは全くありません。ただ、その実施内容に大きな違いがあるのです。以下簡単に整理しました。

図表1:一般的なユーザビリティテストとユーザ行動観察調査の違い

一般的なユーザビリティテスト ユーザ行動観察調査
完成間近又は完成後のサイトをチェックする(プロジェクト期間中1回のみ実施のことが多い) リニューアルプロジェクトの初期段階から段階的に複数回のテストを実施する
ユーザインタフェース(UI)として使い勝手の悪い点が無いかを発見することが目的 UIの課題のみならず、ターゲットユーザの妥当性やユーザの行動パターン・行動原理を把握することが目的
テスト前に既定のタスクを用意し、被験者がタスクを正しく実行できるかを確認するプロセス(出来た出来ないテストになりがち) タスクを実行させるのではなく、状況設定のみを行い、その状況下(文脈)でユーザがどのような行動をとるかを観察するプロセス
対象サイトのみ被験者に使わせ、サイト内の表面上の課題把握に適している 競合サイトや検索エンジン(場合によってはパンフレットなど紙媒体)もユーザの行動に任せて使わせるため、サイト内外の発見が得られ、本質的な課題抽出と改善が可能(サイトやインターネットに限らない打ち手を考えることも可能)

ビービットでも一般的なユーザビリティテストを実施しており、上記比較は決して一般的なテストを否定する意図のものではありません。ここではユーザビリティテストのより高レベルでの活用可能性を示唆したいのです。

UI設計の第一人者アラン・クーパー氏は著書「About Face3」の中で「ゴールダイレクテッドデザイン概念」とユーザのゴールを把握するための「民族誌学的インタビュー」について言及していますが、「ユーザ行動観察調査」はこの「民族誌学的インタビュー」に類似する側面を持っており、「個々の製品とインタラクションする人々の行動や習慣を理解することを目標とする(「About Face3」P.80より引用)」ものとして活用できる可能性を持ちます。

ユーザ行動観察調査を実施することにより具体的にどのようなメリットが得られるのかをご紹介していこうと思います。

  • メリット1:ターゲットユーザ像を明確にすることができる
  • メリット2:ユーザの行動原理を把握できる
  • メリット3:ROIの高い施策を導出できる

[メリット1] ターゲットユーザ像を明確にすることができる

ターゲットユーザ分類を行う際に重要なポイントは、「ユーザ行動に影響を与える要素で分類すること」です。サイトリニューアルにおいても対象となるターゲットの検討を行っていると思いますが、サイト運営者が事前に想定しているターゲットユーザ分類が実態と乖離してしまっているケースも残念ながらあります。

ユーザ行動観察調査では、特定の文脈(コンテキスト)でのユーザ行動を観察するわけですから「ユーザの行動に影響を与える要素」がより明確に把握することができます。以下に、ある金融機関の住宅ローンサイトにおいて、現場ヒアリングとユーザ行動観察調査を経てターゲットユーザ分類が修正されたケースをご紹介します。

図表2:ターゲットユーザ分類の修正例
(「ユーザ中心ウェブサイト戦略 P.234から抜粋」)

ターゲットユーザ分類の修正例

※画像をクリックすると拡大します。

この例では、ターゲットユーザの分類軸が変わったことで、物件確定後の「業者不安ユーザ」「金利選好ユーザ」を説得するコンテンツを提示する方向でサイトを構築していかなければいけないことが明確なったのです。当初の分類でサイトを構築していたら全くズレた構造・コンテンツになっていたことは想像に難くありません。

[メリット2] ユーザの行動原理を把握できる

「行動原理」とは、行動を突き動かすユーザにとっての根源的なゴール(そのような行動をしてしまったことの背景や本当の理由)のことです。

ユーザ行動観察調査では、ある状況下でのユーザの一連の行動を観察することから、当該文脈(コンテキスト)内での行動や反応を総合的に分析することで、その裏にどのような想いやニーズがあったのかの仮説を導出できる場合があります。

この仮説を元に改善の方向性を検討することにより、場当たり的で表面的なユーザインタフェースの課題潰しというレベルから一歩先に行くことができるのです。

[メリット3] ROIの高い施策を導出できる

一般的なユーザビリティテストでは既に存在しているユーザインタフェースを評価するため、現状をベースにどう良くするかという思考に陥りがちです。当該ユーザインタフェースが誰に・何のために提供されるべきなのかのという本質まで遡った改善提案を導出しにくいのです。

ユーザ行動観察調査はターゲットユーザ分類を明確にし、各ユーザタイプの行動原理を特定できる場合もあるため、誰に対して何を提供すればビジネス的なメリットが得られるのかという本質に遡った検討を可能にします。極端なケースでは、調査結果が当該サイトリニューアルを実施すべきではないという決定の手助けとなり、クライアントの無駄な投資を未然に防ぐことができたという話も実際にあります。

ユーザビリティテストの進化系(深化系?)ともいうべきユーザ行動観察調査がユーザ中心アプローチに必須のものとして今後のサイト構築のプロセスとして一般的になる日は近いはずです。

執筆者:宮坂 祐
株式会社ビービット マネージャ

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ユーザ行動調査

実績

  • リクルートジョブズ

    日本最大級の求人サイト「フロム・エーナビ」において、アルバイトを探すユーザの実態をオンラインのみならずオフラインの行動も併せて調査。

  • 三井不動産レジデンシャル

    新築物件サイトの反響数向上に向けた改善方針を策定。物件検討ユーザのサイト内外の行動を精緻に把握し、サイト内のコミュニケーションを改善した。

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