【経営者インタビュー】顧客志向で業界No.1の来店客数を実現 アットコスメストア遠藤社長

業界慣習を覆す顧客志向サービスを提供し、化粧品専門店として日本一の来店客数を誇る「アットコスメストア」。1号店出店当時から経営を担う遠藤社長に、店舗運営や組織づくりの考え方を伺いました。

2016年10月11日

アットコスメストアとは

買わなくても人気の化粧品が自由に試せるお店

コスメや美容に関わるクチコミが1200万件以上集まり、370万人の会員を抱える日本最大の化粧品クチコミサイト「@cosme(アットコスメ)」をご存知だろうか。

「@cosme store(アットコスメストア)」は、アットコスメを運営する(株)アイスタイルが手がける化粧品小売店であり、アットコスメで紹介されている化粧品を実際に試用・購入できる場として、2016年9月現在、東京、大阪、神奈川などで12店舗が運営されている。

化粧品は通常、百貨店・ドラッグストア・化粧品専門店・通販といったチャネルごとに販売されるブランドが分かれており、かつ、店頭ではブランドごとに売り場が分かれていることが多い。そのため「洗顔料」「ファンデーション」といったアイテム単位で商品を比較検討することが難しい。

これに対しアットコスメストアでは、アットコスメに寄せられたクチコミをもとにアイテムごとの人気商品をランキング形式で展示したり、来店客に気づきを提案するブランド横断型の編集企画売り場を展開したりするなど、ブランドや価格にとらわれず、今、注目を集めている化粧品と出会える場を提供している。

また、ウェブサイト上では提供できないリアル店舗独自の価値として、「実際に試せる」ことを重視しており、店内にある商品のほとんどにテスターが用意され、顧客が自由に使用感を確かめることができる。百貨店チャネル限定といった理由でアットコスメストアでは販売できない商品であっても、自社負担で購入しテスターとして設置しているほか、店内には水栓やコットンも用意されており、様々な化粧品を気兼ねなく何度でも試せるような工夫がこらされている。

これ以外にも、店頭で販売していない商品は近隣の取扱い店舗を紹介し、必要であれば在庫の問い合わせまで実施、一般的には購入のおまけとして配布される化粧品サンプルを購入するかどうかを悩む顧客に積極的に渡すなど、従来の化粧品業界の常識にとらわれず、化粧品の検討・購入に関して顧客の目線に立った数々のサービスを提供している。

アットコスメストア

業界常識を覆すサービスで来店客数日本一を達成

従来の化粧品販売店の常識を破るアットコスメストアは、業績面でも極めて好調で、毎年増収・増益を重ね、直近では売上高47億円(2016年6月期決算)に成長している。全店での来店客数は約22万人(2015年1月時点)、1号店の新宿店では1日の平均来店客数が約2,500人にのぼり、ともに化粧品専門業態としては日本一の規模となっている。

多くのロイヤルカスタマーに支えられた結果、営業利益率は業界平均の約3倍、日本最大のドラッグストアであるマツモトキヨシと比較しても約1.5倍の高収益体質であり、顧客志向なサービスが業績にもつながっている。

※アイスタイル2016年6月期決算説明資料、『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』遠藤直紀+武井由紀子著より

本インタビューでは、1号店出店当時からアットコスメストアの経営を担う(株)コスメネクストの代表取締役社長・遠藤宗氏に、顧客志向サービスを追求する化粧品店が生まれた背景や、顧客志向サービスを実践するための現場組織の作り方などを伺った。

株式会社コスメネクスト代表取締役社長 遠藤宗氏

遠藤社長インタビュー

「お客さんの期待に応えること」を自然とやっているだけ

筆者:アットコスメストアでは1本1万円もするような高額商品であってもテスターが置いてあり、顧客がセルフサービスで自由に試せるようになっています。顧客から見れば嬉しいサービスだと思いますがコストがかかりますし、他の化粧品小売店ではあまり見かけません。なぜアットコスメストアではこのようなサービスを実施できているのでしょうか?

遠藤社長:実は、自分たちのサービスが特別だとはあまり思っていません。

例えばアットコスメストアでは、店頭で売っていない商品についてお客さんに聞かれた場合、近隣の取扱い店やそこの在庫を調べてお伝えするようにしていますが、これはアットコスメストアに訪れるお客さんはウェブサイトのアットコスメを見ている方が多く、アットコスメに載っているものはアットコスメストアにも置いてあると期待している方が多いからです。

ブランド毎に販売チャネルが分けられていることは化粧品業界の関係者から見れば当たり前ですが、お客さんとしては百貨店ブランド、通販ブランドといった区分に関係なく、アットコスメストアに来れば何でも分かると思って来店している。そういったお客さんの期待にできるだけ応えよう、ということをオープン時から自然とやってきた結果、今に至っています。

これまでの化粧品小売業界は、メーカーと小売の都合で店作りをしてきました。顧客志向と言いながら、お客さんがやって欲しいと思うことをやってこなかった。それを全部変えてやろうと思って始めたのがアットコスメストア。購入前にお試しができる、購入を悩んでいるお客さんには無理に買わせないなど、シンプルなことを普通にやっているだけです。

権限委譲すると、現場は売上を追いたくなる

筆者:顧客志向で店舗運営をしていく中で、難しいことは何でしょうか。

遠藤社長:アットコスメストアでは、「百貨店限定ブランドだから」などの理由で、アットコスメストアの店頭で取り扱えない商品であっても、お客さんの試したいという期待に応えるために百貨店に行って買ってきて、テスターとして展示しています。ただ、こういった取り組みは、儲けにつながらないので、見方を変えれば売り場スペースの無駄遣いと捉えることもでき、最近ではこのような取り組みを行っていない店舗もあります。

アットコスメストアでは、現場への権限委譲が進んでおり、各店舗の活動を本社でコントロールすることはほとんどしていません。その分、現場スタッフの売上に対するコミットメントが強いため、結果として売上を伸ばすために無駄な要素を削ろうとし始めます。特に売上が伸びている状況だと、現場はもっと売り上げたくなってしまうのが現場の心情です。

しかし、売上という視点で見れば同じ無駄であっても、お客さんの期待という視点から見れば、意味のある無駄と、意味のない無駄があります。たとえ売上につながらなくてもお客さんの期待に応えるには必要な「有効な無駄」を失われてしまわないようにするためには、経営が意思を持って維持していく必要があると感じています。

マルチチャネル化が進む中で重要なのは、顧客の選択肢に入ること

筆者:売上だけを追求しないという点では、アットコスメストアの売り場スタッフは個人の営業ノルマを一切持っていないそうですね。

遠藤社長:はい。顧客が化粧品を買う手段はどんどん多様になっています。マルチチャネル化が進む中で重要なのは、購入先としてお客さんの選択肢に入ることです。

アットコスメストアは、展示・陳列にこだわり、商品との出会いの回数を多く与えられる店であることを目指していますが、どんなに良い展示をしても受け手となるお客さんが来てくれなければ意味がありません。今この場で買ってくれることよりも、この先何度も来てくれることが重要なのです。

「アットコスメストアに来れば化粧品のことは何でも分かる」と思ってもらえれば、お客さんはまた来てくれる。そして、その時に欲しいものがあれば買ってくれる。それでいいと思っています。

「背中を押す」のが本部の役割。効果検証はあえて行わない

筆者:顧客の期待に応える取り組みの数々はどのように企画されているのでしょうか?顧客調査などは行っているのですか?

遠藤社長:調査は実施していません。店頭ではカウンセリング販売も行っているため、お客さんのことは現場のスタッフがよく知っているためです。お客さまから頂いたコメントやスタッフのアイディアを書き留めておくノートが各店に置いてあり、そこから施策案が生まれてきます。

お客さんのことは本部よりも現場の方が知っているし、そもそも男性である僕は化粧品を使ったことがないのでよく分からない。なので、現場に権限を渡し、現場主導で施策が動くようにしています。

例えば、新しい商品を店頭に置きたいとなった場合、本社の営業本部を通すと時間がかかってしまうので、既存の取引先が扱う商品であれば現場の判断で自由に導入できるようにしています。

細かな業務改善も自主的に実施されていて本社に上がってこないので、正直、どのぐらいの改善が現場で起こっているのかはよく分かりません(笑)。

ただ、現場は、少しでもコストがかかる施策はやりにくいと感じてしまいがちです。権限を任されている分、お金を気軽に使えないのです。経営視点で見れば、店頭で大きなコストがかかるような施策はそれほどないのですが...。なので、「少しでも可能性があるんだったら一旦やってみよう」と現場の背中を押してあげることが本部の役割だと思っています。

また、取り組んだ施策で実際に成果が出たのかという検証はあえてしていません。現場が新しい活動に取り組む上での足かせになってしまうのを防ぐためです。現場はお金を気軽に使えないので、逆に、お金をかけていいと言われた活動はなんとか成功させようとしてくれます。仮に施策がうまくいかなくても、その理由を自ら突き詰めて説明してくれるので、あえてきちんと検証する必要はないと感じています。

やってみないと分からないのでやってみる

筆者:顧客の期待に応えるためとはいえ、それまでの業界常識に反する取り組みを行うことに対して、不安などはないのでしょうか?

遠藤社長:やってみないと分からないのでやってみる、というスタンスでいるので、不安は特にないですね。もちろん、うまくいかずに閉店してしまった経験もありますが、その失敗を繰り返さないように学べば良いのです。

例えば、昔、入り口に壁がついている店を作ったことがありました。店内を見えなくすることで入店時のドキドキ感を狙ったのですが、お客さんが入って来ず300万円ムダにしました(笑)

あとは、アットコスメストアのお客さんはアットコスメのクチコミを見ている方が多いので、「店頭でもクチコミが見られたら便利なのでは」ということで、商品にICチップを付けておき、商品をかざすとクチコミが映るモニターを店頭に設置したこともありました。

でも、その後、お客さんの様子を見てみると、モニターがあっても自分のスマホでクチコミを見ている。その方が見やすいんですね。しかも、お客さんの立場からしてみれば、せっかく店頭にいて目の前に実物の商品があるんだから、クチコミを見るよりも実物を試せることの方が価値がある。だったらテスターを揃えるほうが重要だよねという結論になりました。

新しいことに挑戦し続ける姿勢は、弊社のミッションである「innovation first!(イノベーションファースト)」を反映した結果でもあります。イノベーションは未知への挑戦。我々は化粧品小売業界の先端を走っているので、既存の道はありません。お客さんの「もっと」に応え続けることが、会社としてのあり方そのものになっています。

新しく始めた取り組みであっても、すぐに競合に真似されます。例えばアットコスメストアは化粧品を試しやすいよう、店内にコットンや水栓を設置しました。これは、当時は珍しい施策でしたが、今では同じような設備を持つ店舗が増えています。ただ、そういった設備の背後にある「お客さんが自由に試せる環境をどう作るか」を追求し続けていれば、競合が同様の設備を揃えたとしても、その時点で自分たちはもっと先に行っていることができます。

同じことを何度も言い続けることで、「ルール」ではなく「文化」を作る

筆者:お話を伺っていると、遠藤社長の思いや会社の理念が現場スタッフにまでしっかりと浸透し、実践されていることが伝わってくるのですが、そのような組織を作るためのコツはあるのでしょうか。

遠藤社長:明確なルールを決めるよりも文化を作っていこうとしています。やり方を決めるとやらされ感が出ますし、ルールに従うよりも現場の人が考えた方がいいからです。

良いアイディアは店長会議などでの「こうやった方が楽しい売り場になりそう」「こういうサービスがあったら良い」といった日々の会話の中から出てくる。ベストプラクティスを勉強しましょう、という感じでは、本当の意味での気づきはないのでは?と思っています。

文化を作るためには、同じことをひたすら言い続けることが重要です。「アットコスメストアはこういうお店だよね」「自分たちがやりたいのはこういうことじゃないよね」「もっと考えよう」といったことをひたすら言い続けています。

新人は先輩の背中を見て学ぶので、特に現場の店長たちとのコミュニケーションを重視しているのですが、店長に言い続けると、だんだん店長もスタッフに対して同じことを言うようになってきて、みんなにとっての「当たり前」が形成されていきます。

今は店舗が増えてきたので難しくなりつつありますが、昔は週に1、2回は店舗に行って2時間ぐらい店長と話していました。一度、文化になれば継承も容易になります。大変なのは、文化になるまで言い続けることです。

「それってお客さんが喜んでくれるの?」という問いを忘れない

筆者:最後に、顧客志向でビジネスを行っていくために心がけていることを教えてください。

遠藤社長:「それってお客さんが喜んでくれるの?」という問いを忘れないことでしょうか。

事業を考える時、我々はすぐにビジネスモデルなどの話になりがちで、生活者の視点を忘れてしまいます。

しかし、自分たちのこだわりがあることでも、それがお客さまに指示されなければエゴでしかありません。お客さんはどう思うのか、本当に喜んでくれるのか、を常に問いかけることが重要だと思います。

新しい取り組みを行うとき、時代の二歩ぐらい先に行くと先過ぎるんですね。お客さんが「そうそう、そういうのが欲しかった」と思ってもらえることが重要で、自分たちとしてやりたいことがあったとしても「やり過ぎじゃないか?いや、こういう層のお客さんなら喜んでくれるのでは?」のようにお客さんの視点から問い直すようにしています。

これまでは人通りの多いターミナル駅を中心に出店してきましたが、今後は新しいタイプのお店の出店も行っていく予定です。直営でやるかもしれないしM&Aをするかもしれないですが、我々の仲間を小売業界の中に増やしていきたいと思っています。自分たちの売り方が業界の普通になったら嬉しいですね。

インタビューを終えて

アットコスメストアでは、事業ゴールを「短期的な売上」ではなく、顧客の「店舗ロイヤルティを上げること」だと定義し、店舗ロイヤルティを示す指標として「来店客数」「平均買上点数」「買上率(来店客数に占める購入者数の割合)」の3つを最重要KPIとして定義しているという。

それぞれのKPIは「たくさんの顧客に気楽に来店してもらいたい(=来店客数)」「商品との出会いの回数を多く提供したい(=平均買上点数と買上げ率)」という方針を反映しており、店舗の活動方針を現場の活動に落とし込むためのツールとして機能している。

また、買上げ率については上限値が設けられており、「買わないといけない店」にならず「気楽に楽しめる店」であり続けるための工夫がこらされている。

※『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』遠藤直紀+武井由紀子著より

現場を信頼して権限委譲を行いつつ、つい売りたくなってしまう現場の気持ちをうまくコントロールするKPIとコミュニケーションが、顧客志向を現場レベルまで浸透させ機能させるためのカギとして機能しているといえるだろう。

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執筆者:肥後 真
株式会社ビービット コンサルタント
京都大学総合人間学部卒業

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