顧客インサイトを理解し、課題の真因を探る【顧客ロイヤルティコラム:第12回】

ロイヤルティ向上活動にはスピーディーな「フロントライン改善」と、より抜本的な「戦略的改善」が存在する。戦略的改善を効果的に行うためには、定性調査を用いて顧客インサイトに迫り、課題の真因を理解することが重要である。

2016年10月25日

顧客ロイヤルティ向上のアプローチ「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」について、前回までは顧客フィードバックを集めることで現状を把握し、ロイヤルティ向上に向けて解くべき課題を特定する方法について紹介してきた。

今回はステップ5にあたる、効果的な施策を導出するために欠かせない、課題の背景にある顧客インサイトを把握する方法について述べる。

カスタマーエクスペリエンスマネジメント導入の6ステップ

※各ステップのコラムはこちら
ステップ1・2ステップ3(前半)ステップ3(後半)ステップ4 │ ステップ5(今回) │ ステップ6

【ステップ5】定性調査で課題の真因を探る ...インサイト調査・要因分析

「フロントライン改善」と「戦略的改善」

アンケート調査によって集めた顧客フィードバックを分析し、現状の課題が明らかになった後は、実際の改善活動を行っていくことになる。ロイヤルティ創出における改善活動には大きく分けて

  • フロントライン(現場)改善
  • 戦略的改善

の2つのサイクルがある。

1つ目の「フロントライン(現場)改善」は、顧客フィードバックから分かった課題や改善方針を日々の顧客とのやり取りを担うオペレーション部門にフィードバックすることで、スピーディーに改善を行っていく活動を指す。

例えば、ステップ4までの中で、ドライビングファクター検討のために定性インタビューを実施したり、アンケート内のフリーコメントの読み込みを行っていたりすると、「ウェブサイトの○○ページの表現が分かりづらい」「営業スタッフがサポート体制について顧客に十分に説明できていない」といった課題が明らかになる。このような担当部門や対応策が明確な課題は、該当するチームに調査結果をフィードバックし改善を行ってもらう。

フロントライン改善には、具体的な改善策の実行だけでなく、アンケートでロイヤルティスコアが低かった顧客(例えばNPSで推奨意向が10点満点中4点以下の顧客)に対してフォローコールを行い、不満の原因をヒアリングし、不満解消のためにできることを提案する活動も含まれる。また、フリーコメントの中で顧客に感謝・称賛されている内容をベストプラクティスとしてチームに共有し、現場のオペレーションを改善していくこともある。

フロントライン改善は見つかった課題にスピーディーに対応できる一方で、一時的・表面的な改善にとどまり、ロイヤルティ向上へのインパクトは限定的であることが多い。また、オペレーションに関わる改善が中心となるため、料金体系やサービス・商品、業務システムなど、顧客への提供価値そのものに関わる領域には踏み込みづらい。そのため、活動を一定期間続けていると、現場で対応できる課題は対応しきってしまい、改善活動が「ネタ切れ」を起こしてしまう可能性がある。

ここで必要になるのが、2つめの「戦略的改善」である。戦略的改善は、全社的な活動であり、ロイヤルティを主管する部署が中心となって関係する複数の部署を巻き込み、抜本的な改善施策の企画・立案・実行を進めていく。商品・サービスの内容を見直したり、関係部門の権限や責任領域を見直して打ち手の幅を広げたりするのが戦略的改善の役割となる。(ステップ3 で取り上げた、複数のタッチポイントをまたぐ顧客体験を改善する活動もこの戦略的改善にあたる。)

ロイヤルティ向上の2つの改善サイクル

戦略的改善で実施される活動は、大幅なロイヤルティ向上につながることが期待される一方で、投資が必要だったり、失敗時のリスクも大きくなることが多い。また、仮にアンケート調査から「料金への不満が高い」ということが分かっていたとしても、具体的にどのような打ち手を実施すれば良いか分からず、改善活動が進まない、といった状況に陥ってしまうこともある。

戦略的改善を行うにあたっては、カスタマーエクスペリエンスの全体像を理解し、課題が発生している背景や顧客の期待を深く理解することが必要になる。そのための手段として、定性調査の実施をおすすめする。

定量調査と定性調査は相互補完的

定量的なアンケート調査で得られた分析結果について、「なぜそのような結果になっているのか」という背景や、「どのように対応すれば理想的な体験になるのか」といった改善方針を探るには、インタビューや行動観察などの定性調査が有効である。

例えば、ある金融機関では、「ロイヤルティが低い顧客は料金への不満が高い」ということが定量調査で分かったため、真因を探るべく顧客インタビューを実施した。

顧客が料金に接する状況として考えられる、ウェブ上のマイページやメール、パンフレットや手続き書類などを用意した上で、これまでの体験についてヒアリングを行ったところ、契約確認の手紙を見た時に料金が高いと感じて、競合への乗り換えを検討したという話が多く聞かれた。そこで、契約確認の手紙について、普段どのように開封・確認しているのかを再現してもらったところ、料金部分の表記が顧客の誤解を招く表現になっており、その誤解が価格を実態よりも高いように感じさせているということが分かった。

この場合、顧客の不満を生じさせているのは料金が高いことそのものではなく、料金の伝え方であった。調査結果を受け、料金部分の表記改訂が進められることになったが、それだけで料金不満を緩和する効果があったという。料金体系は即座の変更が難しいため、価格に対して不満が大きいことが分かったとしても「打ち手なし」という結論になりがちであるが、不満が生じている背景を理解したことによって適切な打ち手を見い出せた好例である。

顧客自身は料金表記に関する自らの誤解に気づいていないため、顧客の意識的な記述に頼るアンケート調査からこのような発見を得るのは難しい。定性調査は準備の手間やコスト、調査スキルが必要になるため敬遠されがちだが、定性調査を行うことで得られる発見の価値を考えると投資の価値はある。実際、P&Gや良品計画、花王、星野リゾート、LIXILといった企業では定性調査を積極的に実施しているという。

戦略的改善のような大きな打ち手を実施する場合には、現状の全体像を広く捉えられる定量調査と、個別課題の背景や顧客心理を深く捉えられる定性調査を互いに補完的に用いて、改善施策の精緻化を進めていくのが望ましい。

定量調査と定性調査は相互補完的

顧客の体験に注目する「カスタマージャーニーインタビュー」

定性調査の手法には様々なものがあるが、ロイヤルティ向上につながるインプットを得るためにおすすめの手法としては「カスタマージャーニーインタビュー」がある。

カスタマージャーニーインタビューは、ターゲットとなる顧客に対してこれまでの企業との関わりや出来事、そのときの印象・感想を時系列に沿って一対一でヒアリングし、ロイヤルティに影響を与える要素を明らかにする手法である。

カスタマージャーニーインタビューを実施する際には、以下の3つがポイントとなる。

  • 調査対象は推奨者と批判者とする
  • 顧客の一連の体験を「行動+気持ち」のセットで捉える
  • 過去の記憶を思い出すきっかけとなるような刺激ツールを用意する

調査対象は推奨者と批判者とする

ロイヤルティに影響を与える要素を明らかにするためには、ロイヤルティが高い顧客と低い顧客の体験を比較し、それぞれの違いに注目することがポイントとなる。特に、強く満足している顧客(NPSで言えば推奨者)と、強く不満を感じている顧客(NPSで言えば批判者)を対象に、調査を行うことをおすすめする。

顧客をロイヤルティスコア別に分類すると、中央値前後(NPSで言えば中立者)の割合が高くなることが多いため、これらの「強く満足しているわけではないが、明確な不満があるわけでもない」顧客群を調査の対象とするのが適切なようにも思える。

しかし、中立者が英語では「Passive(受動的・消極的)」と表現される通り、これらの顧客群はこれまでの企業とのやり取りの中で当たり障りのない体験しかしていないことが多く、ロイヤルティスコアの上下をもたらす要素を把握するのが難しい。

その点、推奨者や批判者に属する顧客は、推奨・批判に至った理由となる出来事を何かしら体験しており、ロイヤルティに影響を与える要素について多くのインプットを得ることができる。

顧客の一連の体験を「行動+気持ち」のセットで捉える

インタビューを行う際に重要なのは、これまで企業とのやり取りの中で経験した一連の体験について、「行動や出来事」とその時の「気持ち」をセットで把握することである。

ロイヤルティは、長い時間をかけて、その間に起こった様々な出来事が絡み合って形成されていくものであり、顧客自身もなぜ今自分はその企業にロイヤルティを感じている(あるいは感じていない)のか、正確に理解しているわけではない。

そのため、まずは「購入時に営業担当者に○○という説明を受けた」「商品が手元に届いたとき、最初は○○のように使っていた」といった過去に取った行動や起こった出来事など"事実"を聞きとり、続いてそれぞれの行動や出来事に対して「その時どう思ったのか」を思い出してもらうステップを踏むと良い。インタビュー対象者にとって、「過去に何があったか」を思い出すことは、ロイヤルティの変遷を説明するよりもぐっと容易なはずである。

過去の事実について聞く際は、限られた時間内で効率的にインタビューを進めるために、まずは企業とのやりとりの中で印象に残っている出来事を教えてもらい、その後時系列に沿って最初に企業との接点を持ってからの一連の出来事を詳しく聞き取っていくと良いだろう。

インタビュー時には、聞き取った内容を大きな紙に年表形式でメモし、インタビュー対象者と共有できるようにしておくと、お互いの頭の中が整理されると同時にメモした内容が刺激となって「そういえばこの出来事の前にこういうこともありました」という記憶が蘇りやすくなるのでおすすめである。

カスタマージャーニーインタビュー時のメモ

また、インタビューを通じてロイヤルティ向上につながる打ち手のインプットを得たい場合、顧客に改善意見を尋ねたくなるが、これは「行動や出来事」と「気持ち」をセットで尋ねるという原則に照らすと望ましくない。

なぜなら、自らが感じているロイヤルティの背景についてうまく説明できないのと同様、自分のニーズを正確に言語化できる人間は少なく、言語化できたとしてもそのニーズと実際の行動にはギャップが存在するためである。

例えばある食器メーカーが行ったグループインタビューでは、「次に買うとしたらどんな食器が欲しいか」というテーマでディスカッションを行った結果、「おしゃれでかっこいい四角い黒いお皿」という結論になったにも関わらず、その後インタビュー協力のお礼として参加者が選んだのは丸くて白いお皿だったという。

言語化されたニーズと実際の行動のギャップ

斬新なデザインの食器に憧れる気持ちはあっても、実際の行動ではこれまで使い慣れた色・形を選ぶというのが顧客の実態であり、この実態は改善意見を聞いているだけでは理解することが難しい。打ち手へのインプットを得るためには、顧客に改善意見を尋ねるのではなく、既に顧客が経験した行動や出来事の中から実際にロイヤルティの向上につながったものを抽出した方が、信頼性の高い情報が得られるだろう。

過去の記憶を思い出すきっかけとなるような刺激ツールを用意する

カスタマージャーニーインタビューでヒアリングしていく顧客の体験は、長い場合は数年以上にわたることもある。この場合、顧客自身も忘れている過去の古い記憶を、いかに正確に聞き出すかが重要になる。

抜け漏れのないヒアリングを行うためには、顧客が体験していると想定されるカスタマージャーニーの仮説を予め持っておくと共に、かつての記憶を思い出すきっかけとなるような刺激ツール(パンフレットや製品、ウェブサイトなど)を準備しておくと良い。例えば商品購入時に顧客が見たと考えられるパンフレットを見せると、購入時の検討事項を思い出しやすくなる。

あるいは、誘導にならないよう注意する必要はあるが、「購入時に○○という出来事はありませんでしたか?」とインタビュアーから水を向けても良い。的確な質問を行うためにはステップ2で作成したカスタマージャーニーをもとに、顧客ロイヤルティに影響を与える要素についての仮説をしっかりと準備しておく必要がある。

従業員の「ノーマルプラクティス」に注目する

最後に、ロイヤルティ課題の真因を探る際には、顧客サイドだけでなく従業員サイドの理解も重要であることに触れておきたい。

対面営業や店舗、コールセンターなど、スタッフとのやり取りが発生するタッチポイントでは、現場のスタッフ一人ひとりの行動がカスタマーエクスペリエンスに大きな影響を及ぼす。顧客視点で理想的な改善策を考えたとしても、現場スタッフがその施策を実施できなければ絵に描いた餅になってしまう。

従業員サイドの理解を深めるには、ベストプラクティスと比較した場合の「ノーマルプラクティス」に注目すると良い。顧客ロイヤルティを向上させるようなベストプラクティスの周辺には、似たような状況でもロイヤルティ向上につながらないノーマルプラクティスが存在しているはずである。

ノーマルプラクティスにとどまる背景としては「業務が多く、顧客対応に十分な時間が割けない」「スタッフの入れ替わりが激しく、スキルや経験が足りない」「KPIが売上志向であり、顧客対応へのマインドシェアが低い」などが考えられるが、これらの要因を予め理解しておくことによって、現場の状況を加味した実現可能性の高い施策を導出することができる。

次回のコラムでは、これまでのステップで明らかになったロイヤルティ上の課題やその真因に対し、打ち手を具体化する際のポイントについて取り上げる。

●カスタマーエクスペリエンスマネジメントに関する書籍のご紹介

書籍表紙

『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』

本コラムで紹介した内容以外にも、各ステップを進めていく上での注意点や事例をより詳しく紹介している他、ロイヤルティ向上活動を全社に展開し、活動を維持していく方法についても触れています。

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執筆者:遠藤直紀
株式会社ビービット 代表取締役
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを設立。現在は、東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』。TED×Todai 2013にて「貢献志向の仕事」講演。ほか、講演・寄稿多数。横浜国立大学経営学部卒。

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