ロイヤルティ別に顧客を分類し、解くべき課題を見極める【顧客ロイヤルティコラム:第11回】

顧客から取得したフィードバックは、単にロイヤルティスコアやドライビングファクターの満足度を集計するだけでは不十分である。ロイヤルティスコアによって顧客を分類し、スコアごとの顧客像を明らかにすることによって、解くべき課題をよりシャープに捉えることができる。

2016年10月21日

顧客ロイヤルティ向上のアプローチ「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」について、前々回前回のコラムでは顧客ロイヤルティの現状を正しく把握するための顧客フィードバックの集め方について紹介した(ステップ3)。

今回は顧客から集めたフィードバックを分析し、手を打つべき領域を見極めるステップ4について取り上げる。

カスタマーエクスペリエンスマネジメント導入の6ステップ

※各ステップのコラムはこちら
ステップ1・2ステップ3(前半)ステップ3(後半) │ ステップ4(今回) │ ステップ5ステップ6

【ステップ4】顧客をロイヤルティスコアで分類する ...ロイヤルティ別顧客分析

3つの基本集計

アンケート調査によって顧客フィードバックを集めた後は、それらのデータの集計を行っていく。基本の集計項目は以下の3つになる。

  1. ロイヤルティ指標基本集計
  2. ドライビングファクター基本集計
  3. 両者の相関分析

1つ目の「ロイヤルティ指標基本集計」では、満足度や推奨意向などのロイヤルティ指標への回答を集計し、現状のロイヤルティスコアを算出する。NPSの場合は推奨者割合から批判者割合を引いて算出すると決まっているが、満足度やリピート意向などをロイヤルティ指標として使っている場合は、平均値なのか、「非常に満足」の比率なのか、あるいは選択肢ごとに点数を配分しそれを集計するのか、予め集計方法を決めておく必要がある。

2つ目の「ドライビングファクター基本集計」も同様に、各ドライビングファクターへの平均満足度や不満者割合を算出する。

3つ目の「両者の相関分析」は、ロイヤルティ指標の値と各ドライビングファクターへの満足度が互いにどの程度相関しているのか、相関係数や回帰直線の傾きを求める。

これら3つの基本集計の結果を用いると、ロイヤルティ指標向上において重要かつ改善余地が大きなドライビングファクターを把握することができる。典型的なアウトプットとしては、各ドライビングファクターをロイヤルティ指標との相関係数とインパクト係数(回帰直線の傾きの値)の二軸でプロットした上で、それぞれのファクターの改善余地(不満者割合の高さ)が分かるグラフを作成することが多い。

ドライビングファクターの重要度分析

右上にプロットされているドライビングファクターほど、ロイヤルティ指標に与える影響が大きいが、このような要素はその重要性から既に改善が十分に行われ、満足度が高くなっていることが多い。上図のようにロイヤルティ指標への影響度に加えて、各ファクターの改善余地を組みわせて分析することで、必要以上の磨き込みを避けることができる。

ロイヤルティ別顧客分析

上記の基本集計だけでも、ロイヤルティ向上に向けて手を打つべき領域(ドライビングファクター)をある程度見極められるが、加えて、ロイヤルティスコアを用いて顧客を分類してみると以下のようなインプットを得ることができる。

  • 顧客基盤の健全性
  • 改善対象とすべきターゲット顧客とその特徴
  • 活動の優先順位

顧客基盤の健全性を把握し、将来のリスクに備える

集まったアンケート回答にその顧客の収益データ(購買額や継続年数など)を紐付けた上で、横軸をロイヤルティの高・中・低、縦軸を収益データの高・低で6象限に分けてそれぞれの象限に属する顧客の人数を算出すると、自社の顧客基盤の健全性を俯瞰することができる。

ロイヤルティ別顧客分析

顧客基盤として理想的な状態は、右上の「よき売上」ゾーンのボリュームが大きいことである。これは好きでたくさん買ってくれる顧客が多いことを示しており、安定した顧客基盤を築けているといえる。

逆に左上の「悪しき売上ゾーン」のボリュームが大きい場合、顧客が価値を感じていないにも関わらず、代替手段がない、長期契約で仕方なく続けている、といった理由で対価を払い続けている顧客が多いことになる。これらの顧客はロイヤルティスコアが低く、不満が既に顕在化しているため、早急に手を打たなければ離脱していく可能性が高い。このゾーンに属する顧客が多い場合は顧客基盤が不安定になっていると考えられる。

また、真ん中のゾーンは「可もなく不可もなく」と思っている顧客を示している。このゾーンのうち、収益性の高い「推奨/批判候補者」の割合が多いときも注意が必要である。これらの顧客は、特に理由もなく「なんとなく」利用を続けているだけであり、明確な価値を訴求する競合が市場に現れた場合一気に離反し、収益にダメージを与える危険性がある。

誰のどんな課題を解くべきかを見極める

冒頭の「3つの基本集計」は、各ドライビングファクターの現状の満足度やロイヤルティ指標への影響度について顧客全体を対象に分析するものであった。この基本集計だけでも手を打つべき領域の大まかな方向性は分かるが、具体的な施策に落とし込むには漠然とし過ぎていることも多い。

この場合、ロイヤルティスコア別に顧客を分類して考えることで、ターゲットとすべきセグメントや各セグメントの特徴が分かり、改善すべき課題を検討しやすくなる。

例えば、NPSをロイヤルティ指標として利用している場合、ロイヤルティ向上には批判者を中立者にするアプローチと、中立者を推奨者にするアプローチの2つが考えられる。

前者は顕在化している不満を解消し、顧客の期待にきちんと応える取り組みであるのに対し、後者は現状に対して特に問題を感じていない顧客に、期待を上回るような付加価値を提供する取り組みである。同じ領域を改善する場合でも、どちらのアプローチを取るのかによって必要となる打ち手は大きく異なる。

ロイヤルティ向上というと、顧客の期待を超える感動体験の提供、すなわち後者のアプローチを目指しがちだが、そもそも顧客から期待されている価値が提供できていない状態でプラスアルファの価値提供を行おうとしてもうまくいかない。例えば、スターバックスではスタッフがカップにイラストを描くことで顧客の気持ちを和ませてくれることがあるが、美味しいコーヒーやスタッフの溌剌とした対応が前提として提供されていなければ、同じ体験であっても「余計なお世話」に映ってしまう。

まずは自社の顧客をロイヤルティスコア別に分類してみて、批判者が多い場合は不満を生み出している課題の解消を、中立者が多いようであれば推奨者をいかに作り出すかをゴールにするというように、自社の状況に合わせた活動領域を検討すると良いだろう。

NPS向上の2つのアプローチ

また、顧客をロイヤルティ別に分類することは、ロイヤルティが異なるセグメントそれぞれの顧客像について理解を深めるのにも役立つ。

前節で紹介した顧客の6分類では、右上の「ロイヤルティが高く、収益も高い」セグメントが最も理想的であるが、現在このセグメントに属している顧客はなぜそうなったのかについて、他のセグメントに属している顧客との差異を比較することで仮説を立てていくことができる。

セグメント間の比較を行う際の観点としては、以下のようなものが考えられる。

  • 各ドライビングファクターへの満足度の差
  • 各ドライビングファクターのロイヤルティ指標への影響度
  • 購入経路や、タッチポイントの経験有無
  • フリーアンサーの内容
  • 年齢・性別・居住地
各セグメントの比較分析

例えば、中立者と批判者で各ドライビングファクターの平均満足度を比較すると、店舗スタッフの対応に対する満足度に大きく差があることが分かった。さらに両者のフリーアンサーを読み込むと、推奨者では「○○店の○○さんが何も知らない私に丁寧に教えてくれた」「自分の利用状況にあった商品を提案してくれて、とても分かりやすかった」などのコメントが多く見られる一方、中立者では商品やサービス全般について「問題なくスムーズに使えたから」といったコメントが多く、店舗スタッフの対応にことさら言及する回答は少なかった。

これらのインプットから店舗スタッフから親身な対応を受けた体験が、顧客を中立者から推奨者に押し上げるファクターとして機能しているのではないか、というように仮説を深めることができる。店舗で実施している満足度調査や優秀な店舗スタッフの対応をまとめたベストプラクティス共有資料などが別途社内に存在していればそれらの資料にあたったり、経験のある現場スタッフへのヒアリングや次ステップで触れる定性調査を行ったりすることで、この仮説の裏付けを取ることができる。

活動の優先順位を判断する

ロイヤルティ向上に取り組み始めたばかりの場合、いきなり多くのコストをかけてロイヤルティ向上施策に取り組むのは難しいだろう。そのため、現実的には、調査・分析の結果明らかになった課題領域のうち、優先度が高いものにフォーカスして活動することになる。この際、ロイヤルティ別顧客分析を通じ、各活動がそれぞれ誰のどんな課題を改善対象としているのかがブレイクダウンされていれば、より正確に優先順位の判断をできる。

なお、定量的なアンケート調査のみを実施した段階では、調査したドライビングファクターの粒度にもよるが、「解くべき課題は明確になったものの、具体的にどのような手を打つべきか分かっていない」という状態が多い。実際の手順としては、次ステップで紹介する定性調査を行い、課題が発生している背景や改善施策の概要が見えてから、活動の優先順位付けを行うことをおすすめする。優先順位を決める観点の一つに、施策実行の難易度も含めるべきであり、これは施策がある程度見えていないと判断が難しいためである。

対応領域の優先順位付けを行う観点としては以下のような項目がある。

  • ロイヤルティ改善効果...その領域を改善することによって期待されるロイヤルティ指標の向上幅を、ドライビングファクターの相関係数やインパクト係数、対象顧客ボリュームから試算する
  • 改善難易度...施策実行に要するコストや期間、関連する部門の巻き込みやすさから判断する
  • 改善余地...その領域に関わるドライビングファクターの現状の平均満足度や満足度分布から、改善余地の大きさを試算する。満足度が既に高い場合は伸びしろが少ないため、ロイヤルティ指標との相関が大きくても、優先度を下げた方が良い場合がある
  • リスク...その領域で改善活動を実施することによるリスクの有無や大きさを確認する
  • 成果創出時期...実施した活動の成果が、関係するドライビングファクターの満足度や、継続率・売上といったビジネス成果に現れるまでの期間を試算する。ロイヤルティ創出活動初期は、社内に活動の意義を示すために「Quick Win」が求められることが多いため、改善効果の大きさよりも成果が出るまでのスピードを重視する場合もある

アンケート調査の限界

ここまでアンケート調査を分析する方法について述べてきたが、最後にアンケート調査の限界について述べておきたい。

調査から得られたデータやその分析結果は、ある特定の時点における結果であって、未来を予測するものではない

例えば、「店舗でのスタッフの対応」というドライビングファクターが現状ではロイヤルティ指標と相関がなかったとしても、これは必ずしもスタッフの対応を改善しなくても良いということではない。現時点でのスタッフ対応の内容がロイヤルティ指標に影響しないというだけであり、今後スタッフの対応を見直すことでロイヤルティに貢献する要素の一つに変えていくという考え方もできる。

調査結果はあくまでも今後の方針を考えるためのインプットに過ぎず、データを分析すれば取るべき打ち手が自動的にアウトプットされる訳ではない。自社はどのような価値を顧客に提供していきたいのか、自社スタッフのロイヤルティに対する現状の理解度を踏まえると今すべきことは何か、といった観点を総合的に考えてデータを解釈し、取るべきアクションの意思決定を行うことが必要になる。

次回のコラムでは、【ステップ4】で特定した手を打つべき領域に対し、実際に取り組む施策をどのように具体化していくかについて述べる。

●カスタマーエクスペリエンスマネジメントに関する書籍のご紹介

書籍表紙

『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』

本コラムで紹介した内容以外にも、各ステップを進めていく上での注意点や事例をより詳しく紹介している他、ロイヤルティ向上活動を全社に展開し、活動を維持していく方法についても触れています。

連載バックナンバー


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執筆者:遠藤直紀
株式会社ビービット 代表取締役
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを設立。現在は、東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』。TED×Todai 2013にて「貢献志向の仕事」講演。ほか、講演・寄稿多数。横浜国立大学経営学部卒。

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