顧客フィードバックを獲得し、現状を把握する(前編)【顧客ロイヤルティコラム:第9回】

顧客ロイヤルティ向上に取り組むためには、ロイヤルティの現状を正しく把握することが欠かせない。今回のコラムではロイヤルティの全体像を把握し手を打つべきポイントを知るために、どのような顧客フィードバックを得るべきかについて取り上げる。

2016年10月14日

このコラムでは、前回から、顧客ロイヤルティ向上のアプローチ「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」について紹介している。

前回(ロイヤルティ指標を決め、ジャーニーマップを描く【顧客ロイヤルティコラム:第8回】)はロイヤルティという曖昧な概念を定量化し管理するモノサシである「ロイヤルティ指標」の定義と、ロイヤルティに影響する要素を整理するための「カスタマージャーニーマップ」について紹介した。

今回と次回のコラムでは、ロイヤルティ指標とジャーニーマップに基づいて顧客からフィードバックを集め、自社の顧客ロイヤルティの現状を把握する方法(ステップ3)について取り上げる。

カスタマーエクスペリエンスマネジメント導入の6ステップ

※各ステップのコラムはこちら
ステップ1・2 │ ステップ3(前半)(今回) │ ステップ3(後半)ステップ4ステップ5ステップ6

【ステップ3】顧客ロイヤルティの現状を把握する ...顧客フィードバック獲得

顧客ロイヤルティ向上に取り組もうと思った場合、何から始めるべきかで頭を悩ませる方も多いのではないだろうか。カスタマージャーニーマップを作成し、顧客体験の全体像を把握したとしても、その中に登場する様々な出来事の重要度や対応優先度を見極めるのは簡単ではない。しかも、企業が「顧客が重視しているだろう」と考える要素と、実際に顧客が重視している要素はしばしば異なっている。

顧客の気持ちは顧客にしか分からないことを考えると、顧客ロイヤルティ向上活動を始めるにあたっては、社内で議論を繰り返すよりも、まずは顧客からのフィードバックを集め、現状のロイヤルティの全体像をきちんと把握することをおすすめする。具体的には、自社の既存顧客に対し、ロイヤルティについて尋ねるアンケート調査を実施すると良い。

今回のコラムでは顧客フィードバックとして「何を」集めるべきかについて述べ、次回のコラムではそれを「誰から」「どうやって」集めるべきかについて取り上げる。

1.顧客フィードバックの集め方...「何を」

総合指標とドライビングファクター

顧客ロイヤルティの現状を把握し、打ち手を導出するためには、以下の2点を把握する必要がある。

  • 総合的なロイヤルティスコア
  • ロイヤルティの創出要素(ドライビングファクター)への満足度

1つ目の「総合的なロイヤルティ」とは、ステップ1で定義したロイヤルティ指標の値であり、自社のカスタマーエクスペリエンス全体に対する顧客からの評価である。自社で定義した指標に合わせて、「満足度」「おすすめ度」など質問すべき内容が変わる。

2つ目の「ロイヤルティ創出要素」は、ステップ2で整理したカスタマージャーニーに記された、企業が顧客に提供している価値の一つひとつであり、顧客がそれらを体験することでロイヤルティが形成されていくものである。このコラムでは、ロイヤルティを創出する要素という意味で、ドライビングファクターと呼ぶ。

総合的なロイヤルティスコアとドライビングファクターへの満足度のデータを集め、互いに相関分析を行うことで、自社のロイヤルティの現状値を把握すると共に、各ドライビングファクターが全体のロイヤルティに与える影響の大きさや、各ドライビングファクターへの対応優先度を検討することができる。

質問票のイメージ

タッチポイント思考になりがちなドライビングファクター

ここで注意したいのは、顧客視点でドライビングファクターを考えることである。

カスタマージャーニーを見ながらロイヤルティに影響する要素が何かを考える場合、「商品」「店舗」「コールセンター」「ウェブサイト」といった項目が浮かぶことが多い。ドライビングファクターを、このような顧客との"接点(タッチポイント)"単位で整理することは、課題があるタッチポイントを特定し、そのタッチポイントを担う部署が主幹となって改善活動に取り組む流れがイメージしやすく、企業側としては扱いやすい。実際、これまでに実施されている顧客調査でもこのようなタッチポイント単位の設問設計になっていることが多いのではないだろうか。

しかし、顧客は企業とのやりとりを必ずしもタッチポイントごとに評価しているわけではない。顧客が期待しているのは「簡単な手続きで購入できる」「始めての利用でもすぐに使い方が分かる」「サポートの対応が親身でスピーディー」といった"体験"であり、企業とのやり取りもこれらの"体験"の良し悪しで評価している。タッチポイントは"体験"を実現するための接点でしかないのである。

マルチチャネル化が進む現在、一つの体験の中で複数のタッチポイントが利用されることも多い。例えば購入手続きであれば、ウェブサイト、店舗、コールセンターを併用する顧客もいるだろう。この場合、顧客にとって重要なのは、複数のチャネルをまたいだ購入手続きがスムーズに進むことであって、たとえ店舗スタッフの対応が丁寧でも、ウェブサイトが分かりやすくても、ウェブサイトでチェックした内容と店頭の掲示に食い違いがあれば、購入体験について高い評価を得ることはできない。

過去のコラム(「カスタマーエクスペリエンス向上」における3つの間違い【顧客ロイヤルティコラム:第6回】)で述べた通り、カスタマーエクスペリエンス向上は個々の接点の磨き上げだけでは不十分であり、接点と接点の「つなぎ」を含めた改善が求められる。顧客ロイヤルティの現状を把握する際にも、「つなぎ」部分の課題を見落とさないよう、タッチポイント単位だけでなく、体験単位でもドライビングファクターを整理し、質問項目に組み込むことが重要である。

顧客が重視するのは、タッチポイント横断の「体験」

アンケートで聞くべきドライビングファクターの見つけ方

では、カスタマージャーニー内に含まれる様々な要素から、顧客ロイヤルティに影響を与える"体験"をドライビングファクターとして適切に切り出すにはどうすれば良いのだろうか?

おすすめなのは、実際の顧客に定性インタビューを実施することである。ロイヤルティが高い顧客・低い顧客をそれぞれ集め、現状のロイヤルティに至った背景をヒアリングし、両者の体験の違いを比較してみる。すると、「購入検討時の店舗スタッフの対応」「オンラインショップの利用経験」といった形で、カスタマージャーニーの中でロイヤルティ形成・毀損に影響の大きな体験が浮かび上がってくる。

これらの体験への評価をタッチポイント評価と合わせて質問項目に組み込んでおくことで、個別のタッチポイントを超え、ロイヤルティ形成に必要な要素の全体像を把握することができる。

アンケートに組み込むドライビングファクターを把握するために、定性インタビューを実施するのは手間に感じるかもしれない。

しかし、アンケートは質問票で聞いた内容しか分からないため、質問票の設計が回答データの有効性を大きく左右する。アンケート調査では各ドライビングファクターが全体のロイヤルティスコアに与える影響を定量的に把握することが目的だが、そもそもロイヤルティに影響する要素への評価がうまく取得できていなければ、どんなに分析を行っても正しい考察を得ることはできない。

また、顧客フィードバックは一度集めて終わりというものではなく、継続的に収集し続け、ロイヤルティ指標や各ドライビングファクター評価の変化把握や、実施した施策の効果検証に使っていくものである。そのため、一度取得し始めたアンケートの設問内容を安易に変更することは望ましくない。アンケート取得後の運用をスムーズにするためには、アンケート項目の設計には時間と工数をかけておくべきである。

さらに、この段階で得た定性インタビューの結果は、アンケート実施後に集まったデータを読み解くインプットとして活用できる。定量調査は自社のロイヤルティやドライビングファクターの現状を教えてくれるが、その背景までは分からない。その点、定性インタビューで最終的なロイヤルティ評価につながる背景をヒアリングできていれば、「なぜこのドライビングファクターがロイヤルティに大きく影響するのか」や「ロイヤルティが高い顧客は具体的にどんな体験をしているのか」といったデータの解釈が容易になる。

カスタマーエクスペリエンスマネジメントのステップ5では、定量調査によって明らかになった課題の真因を探るために定性インタビューを実施するが、ステップ3で定量アンケートの前に定性インタビューを実施した場合はこのステップ5を省略することもできる。定性インタビューのやり方の詳細については、ステップ5のコラムを参照頂きたい。

複数のタッチポイントが絡む"体験"をどう改善するか

複数のタッチポイントから構成される"体験"は、関係する部署も複数存在することが多い。アンケート結果の分析により、ロイヤルティ向上のカギとなる体験が分かった後は、その体験を構成する各タッチポイントを担う部署を集めたワーキンググループを立上げ、協働して改善に取り組むことをおすすめする。

部署横断で関係者が集まり、該当する体験のカスタマージャーニーの詳細化と企業サイドの従業員の動き(スタッフジャーニー)を整理することで、タッチポイント間のつなぎで発生している課題や、課題発生に至る企業サイドの背景を把握することができる

例えば、売上ノルマを追う営業スタッフは、自社商品に対する顧客の期待を膨らませようとするのが一般的だが、過度に膨らんだ期待は顧客が実際に商品を利用するタイミングで必要以上の落胆をもたらしたり、サポートの工数を増やしたりしていることがある。こうした場合、営業スタッフのKPIを売上だけでなく購入後の継続利用期間や商品満足度まで含めたものに変更したり、サポートに多く寄せられる質問を営業トークにフィードバックしたりするなどの対応が考えられる。

早くからロイヤルティ向上に取り組んでいるダイレクト型自動車保険大手・ソニー損保では、各部門の部門長レベルが参加する「NPS向上会議」を定期的に開催し、部門横断で改善テーマを明確にし、現場が改善を行うための土台を整える場として活用している。具体的には、従来コールセンターのトークスクリプトは、トークスクリプト単体での最適化を行っていたため「てにをは」レベルでの改善しかできなかったが、「NPS向上会議」開始後は、部門横断の視点からスクリプトで本当に話すべき要件の取捨選択を行い、改善余地を増やすといった活動が行われている。(「顧客価値戦略サミット2015」レポート 【第3部:ソニー損保様トークセッション】より)

顧客アンケートを実施している企業の中には、アンケート結果を改善につなげることを重視するあまり、改善が難しいドライビングファクターを質問項目の中から外しているケースがある。しかし、各部署が個別に取り組むと改善余地が乏しいように見える要素であっても、ソニー損保の事例のように複数の部署が協働して取り組めば打ち手が広がることもある。ここでのアンケートの目的は現状の顧客ロイヤルティの正しい理解であることを考えても、改善が難しいからという理由で顧客から見て重要なドライビングファクターを外すことは避け、逆にどうすれば改善ができるのかを企業全体として考えた方が良いだろう。


次回のコラムでは、ステップ3の後編として、今回ご紹介した顧客フィードバックの内容を、「誰から」「どうやって」取得するべきかについて説明する。

●カスタマーエクスペリエンスマネジメントに関する書籍のご紹介

書籍表紙

『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』

本コラムで紹介した内容以外にも、各ステップを進めていく上での注意点や事例をより詳しく紹介している他、ロイヤルティ向上活動を全社に展開し、活動を維持していく方法についても触れています。

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執筆者:遠藤直紀
株式会社ビービット 代表取締役
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを設立。現在は、東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』。TED×Todai 2013にて「貢献志向の仕事」講演。ほか、講演・寄稿多数。横浜国立大学経営学部卒。

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