顧客志向を武器とした新たな競争

成熟市場においては、既存顧客からどれほどの信頼を得ているかが、新規事業の展開をも左右します。さらに、強い顧客志向を掲げた新興企業が、既存の市場に大きく切り込むケースも増えています。顧客志向を武器とした新たな競争について、代表の遠藤が執筆しました。

2016年9月 2日

成熟市場では既存顧客からの評価が大事

高度経済成長期のような人口増加による市場拡大トレンドでは、新たな顧客獲得に注力し続ければ売上は向上します。さらに供給が足りない時には、その傾向は増幅され、とにもかくにも売り上がる状態になります。

こういった右肩上がりの経済環境では、企業活動は新規顧客獲得に力点が置かれて多大な予算が付き、再度買ってくれるかどうかわからない効率の悪そうな既存顧客向けの施策は注力されないのが一般的です。

これに対し、現在の国内市場は低成長化しています。しかし、これまで通りの新規獲得重視の方針で乗り切ろうとしている企業が依然として多く存在しています。今後、市場規模が縮小すると、競争はさらに激化していき、新規顧客獲得単価は上昇するため、何らかの対応策が求められます。

そこで、優秀な経営者は状況の変化に気付き、既存事業の縮小リスクを新規事業の開拓によって補う機敏な取り組みを始めています。その際に、これまでのブランドを活かし、既存顧客を新たな事業の販売基盤と見立て、営業ターゲットとして捉えるのです。

例えばある飲食店が、近年伸びが著しい介護事業への参入を検討しているとします。このとき、「このお店は本当に気が利くし、食事も美味しい」と気に入っているファンであれば、その飲食店が始めた介護事業はとても魅力的に見えるはずです。このように既存事業において顧客からの評価が高いと、新規事業の営業がしやすく、クロスセルも容易に実行できます。

しかしながら、新規獲得のみに注力してきたために既存顧客からの信任を得られていない場合は、そもそも話を聞いてもらえないという課題にぶつかります。そうすると、新規事業の推進に追い風は吹かず、想定通りの成果が期待できない事態になります。

さらには、低い評価の顧客に営業活動を行うと、押し売りされたと感じてますますその企業を嫌いになり、既存事業を解約してしまうリスクにまでさらしかねません。ただでさえ業績を伸ばしにくい市場環境において、既存の顧客を失っていくことは致命傷になりえます。

成熟市場では、既存顧客の評価を高めることの重要度合いが、成長市場とは比較にならないほど高いという認識を持つ必要があります。

「顧客志向」で市場を揺さぶる新興企業

一方、人口がまだまだ増加しており、GDP成長も続いている米国においても、カスタマーエクスペリエンスや顧客ロイヤルティといった、既存顧客からの評価を重視する大きなうねりが発生しています。

その最大の理由は、既存の巨大企業の存在をも揺るがす、破壊的な新企業が誕生していることだと言われています。

Google、Amazon、Facebookを始め、最近ではUber、Airbnbといった新たなビジネスモデルの企業が誕生し、伝統企業の平安を脅かしており、あらゆる企業が高い危機意識を持ちつつあります。
注目すべきは、これらの成功している新興企業の特徴が「徹底した顧客志向」にあり、どの企業も顧客から絶大なる評価を得ていることです。通常では、これまでとは異なるモデルのサービスは乗り換えに心理的・物理的な負担が掛かるために敬遠されがちです。しかしこれらの新興企業は、圧倒的に魅力のあるサービスを提供することで、既存市場からシェアを奪取してきました。

どんなにこれまで市場シェアの高い企業であっても、従来のやり方に安住していると足元をすくわれるため、米国では顧客への新たな価値を提供し、評価を高めていく必然性があるのです。

日本でも顧客志向による戦いが始まる

しかし、日本においては同様の危機意識をあまり耳にしません。米国市場の時価総額トップ10には、Alphabet(Google)、Amazon、Facebookの新興系3社がランクインしているのに対し、日本では時価総額トップ50の中にインターネット誕生後に創業された企業はありませんでした。この違いが危機意識の差につながっているのでしょう。

しかしながら、Google、Amazon、Facebookが日本でも大いに展開していることからわかるように、競争はグローバル化し、日本企業だけが海岸線と独自言語によって守られているというわけにはいかなくなっています。実際、Amazonの攻勢もあり1999年から2015年までの17年間に約9000の書店が閉店しています。実に毎日1店舗以上の書店が消えていることになるのですが、変化が急激でないため気づかれにくいのだと考えられます。

縮みゆく市場環境の中で、グローバル競争にさらされていることを明確に意識できると、顧客評価向上の緊急度、重要度が実感できるはずです。少しでも売上の伸び悩みが見えている事業があれば、即座に顧客からの評価を確認し、課題があれば危機意識を共有することから取り組みを開始することをおすすめします。

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執筆者:遠藤直紀
(代表取締役)
横浜国立大学経営学部経営システム科学科を卒業。ソフトウェア開発会社を経て、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2000年3月にビービットを設立し、現在は東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に「売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門」。経済同友会会員。

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