ロイヤルカスタマーは売上上位顧客ではない【顧客ロイヤルティコラム: 第2回】

人口減少や市場の成熟に伴い新規顧客の獲得が難しくなる中、販促コストをかけずに多くの売上をもたらすロイヤルカスタマーの重要性は高まりつつある。だが購買行動を見ているだけではロイヤルカスタマーを見分けられないことに気をつける必要がある。

2016年1月 4日

ロイヤルカスタマーとは誰か

「ロイヤルカスタマーとはどのような顧客か」と聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか。

  • 競合・他社の誘いに乗らない
  • 好んで繰り返し購入してくれる
  • 第三者に推奨してくれる

上記のような、「企業に対して信頼感を抱き、継続的に関係性を維持し、企業に代わって他の顧客への宣伝役を果たしてくれる顧客」。これが一般的に想定されるロイヤルカスタマーのイメージである。

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では、続いて、「あなたの企業のロイヤルカスタマーを教えて下さい」と聞かれたとしよう。自社の抱える多数の顧客からロイヤルティの高い顧客を抽出するために、あなたはどのような条件を設定するだろうか。

これまで、ロイヤルカスタマーを識別するためには、それぞれの顧客からもたらされる売上高の合計(LTV(顧客生涯価値))や、購入頻度、継続購入期間など、顧客の「購買行動」に注目することが多かった。

「自社の売上の8割は全顧客の2割にあたる"ロイヤルカスタマー"からもたらされている」といった分析を行い、この"ロイヤルカスタマー"の割合を維持したり、増加させたりすることを目標としている企業もある。

1990年代以降ブームとなったCRMツールが目指していた"ロイヤルカスタマー"創出も、いかに効率的に顧客の購買行動を促すか、という考えに基づいていた。

しかし、実は顧客の購買行動だけに注目していては、冒頭に挙げたロイヤルカスタマーの定義を満たす顧客は正しく識別できないことが明らかになりつつある。

顧客の購買行動とロイヤルティは相反し得る

近年、顧客ロイヤルティに関する研究が進み、NPS(ネットプロモータースコア)(注1)に代表される顧客ロイヤルティ指標(顧客が企業に対して抱いているロイヤルティを計測するための指標)が登場した。その結果、顧客のロイヤルティと購買行動の関連性をより精緻に分析できるようになった。

そうして明らかになったのが、「購買行動を積極的に行っているように見える顧客であっても、企業に対して高いロイヤルティを抱いているとは限らない」という事実である。

例えば、ある日本の金融機関では、売上の90%は上位8%の顧客から得られているものだった。しかしこの売上上位8%の顧客を対象に調査を行ったところ、約半数は「他社への乗り換えが面倒なので使い続けているだけ」というロイヤルティの低い顧客であった。

彼らは競合が魅力的なキャンペーンを行った場合に離脱する危険性が高く、この企業の売上の45%はこのような薄氷を踏むような状態で獲得されていたのである。

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顧客への価値提供を伴わない「悪い売上」

ロイヤルティが低い顧客はその企業の商品・サービスを利用しなくなるのが自然に思えるため、この事実は直感に反する。なぜ、このような事態が発生するのだろうか。

実は、顧客はある商品やサービスを気に入らなかったとしても、その商品やサービスを使うのをやめるとは限らない。

例えば、顧客として、あるいは企業として、下記のような状況に心当たりがある方も多いのではないだろうか。

顧客として

  • 長期契約によって縛り付けられ、やめたいのにやめられない
  • 契約はネット上でできたのに、解約は店舗まで出向く必要があり、面倒なので解約していない
  • 購入時に契約したきり使っていないにも関わらず、惰性で課金し続けているオプション料金がある

企業として

  • 解約の増加を防ぐ目的で、解約方法をウェブサイトや説明書の分かりにくい部分に掲載したり、自動更新を訴求したりしている
  • クロスセルという名のもと、ほとんど使われず対応コストがかからないオプションをセットにし、割増料金を得ている
  • 製品・サービスそのものの改善よりも、一時的な販促施策に頼って売上を確保しようとしている

上記に挙げたように、顧客が満足していないにも関わらず発生している売上、すなわち顧客への価値提供を伴わない「悪い売上」が、現代のビジネスにおいて往々にして発生している。

「悪い売上」は事業存続のリスクを高める

これらの「悪い売上」は短期的には売上の確保に寄与する。また企業も顧客もこのような売上を「悪い売上」だと認識していないケースも多い。実際、意図的に悪い売上を生み出している企業はむしろ少ない。

問題は、ほとんどの企業においては日々の活動が「売上・利益」という金銭に関わる指標によって管理されており、顧客が満足しているかどうかは可視化されていないことにある。売上目標の達成に向けてまじめに取り組んでいる中で、知らず知らずのうちに悪い売上を抱え込んでしまうのである。

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しかし、「悪い売上」への依存は、将来の事業存続を脅かす大きなリスクとなる。

例えば企業からの請求書に、使ってもいないオプションの料金が含まれていることに気づいたとき、顧客はあたかも「騙された」ように感じるだろう。デジタルチャネルが普及した今、彼らがその不満をウェブ上に書き込み、企業が得ていた「悪い売上」が一気に明るみに出ることも十分考えられる。

あるいは、継続期間の制約がない契約、追加料金のないシンプルな料金体系など、既存の業界慣行にとらわれない新興プレーヤーが現れた場合も、顧客が一気に離反する可能性がある。近年、市場の成熟に伴って他業界への参入に活路を求める企業が増えており、多くの企業にとってこのような新興プレーヤーによる市場の切り崩しは他人事ではない。

例えば、ハーバード・ビジネススクールの教授ゲイル・マクガバンとヤンミ・ムンは、アメリカ市場において、既存の業界ルールにとらわれない新興プレーヤーの登場したことによって、「悪い売上」に依存する他社がいかに打撃を受けたかを紹介している。(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー 2007年10月号 『お客様が敵に変わる時』)

  • 【携帯電話業者】ヴァージン・モバイルUSA

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  • 【リテール銀行】INGダイレクト

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自社の「悪い売上」を見つける方法

「悪い売上」に自覚的になるための第一歩としては、上記の論文で紹介されている以下の4つの質問を自問自答するとよい。

  • 最も収益性の高い顧客は、不満を感じる理由が最も多い顧客ではないか?
  • 顧客が違反してくれたほうが収益性の高いルールがないか?
  • 顧客が理解しにくい、あるいは守りにくいルールがないか?実質的に顧客にルール違反させやすくしていないか?
  • 顧客が離反したり他社に鞍替えしたりするのを防ぐために、契約書によって縛りをかけていないか?

また、自社の売上に占める「悪い売上」の実態をデータで把握したい場合には、自社の顧客に関してロイヤルティをアンケートなどによって調査し、一人ひとりの収益データと紐づけてみるとよい。ロイヤルティが低い顧客から得ている売上の合計、これが「悪い売上」である。

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だが、「悪い売上」を排除するためには、現在獲得している売上の一部を短期的には失うことを覚悟する必要がある。果たして、将来の成長やリスク軽減のために、目先の売上を捨てることができるだろうか?

次回の「ロイヤルカスタマー創出のROIを考える【顧客ロイヤルティコラム: 第3回】」では、ロイヤルカスタマー創出が企業にもたらす経済的効果を可視化することによって、「悪い売上」排除の意思決定を行うための方法を紹介する。

注1)
NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

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執筆者:遠藤直紀
株式会社ビービット 代表取締役
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て2000年にビービットを設立。現在は、東京・台北・上海の3拠点にて顧客ロイヤルティ経営、およびユーザ中心のデジタルマーケティングを支援。共著書に『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』。TED×Todai 2013にて「貢献志向の仕事」講演。ほか、講演・寄稿多数。横浜国立大学経営学部卒。

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