Date : 2019

05

30Thu.

アフターデジタルを考える勉強会レポート第3回(最終回):アフターデジタルは、人間が人間らしい仕事をできる世界

アフターデジタル

OMO

前回は、オンラインとオフラインの境目がなくなった世界では、ユーザが自分の状況にあわせて最適なチャネルを選べる環境を用意することが生き残りの鍵だ、というところまでお話しました。 今回はまず、それを徹底しているあるコーヒーチェーンの事例を紹介します。

ラッキンコーヒー:ユーザが置かれる状況を網羅することで急速にシェアを拡大

ラッキンコーヒー店内の様子

そのチェーン店の名前は「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」。このブログでも取り上げたことがありますし、名前を耳にしたことがある方も多いかもしれません。

ラッキンコーヒーのすごいところは、考えうるすべてのコーヒーを注文しそうなシチュエーションに対応していることだと藤井は言います。

藤井「例えば、朝自宅を出るときにスマホから注文をして、会社に到着するタイミングにあわせて届けてもらうことができますし、もし何かの事情で到着が遅れるなら、同僚にQRコードを送って代わりに受け取ってもらうこともできます。通り道に店舗があるなら自分でピックアップしてもいいし、会社に向かう途中の同僚にピックアップしてもらってもいいんです。」

更に、2杯分のコーヒーチケットを買うと1枚無料クーポンがついてくるので、上海オフィスでメンバーが集まるときには、ラッキンコーヒーを頼むのが定番になっているそうです。

つまり、1人で飲むときも、大勢で飲むときも、家にいるときも、会社にいるときも、移動しているときも、まさに”いつでもどこでも”自分の好きなように注文し受け取れるようになっているんです。

便利だとわかればユーザはリピートします。その結果、「キャッシュレス化の影響で撤去されたATMの跡地に、コーヒースタンドが乱立している」(藤井)状態の上海において、突出した成長を遂げているのがラッキンコーヒーなのです。

マスマーケティングから属性ターゲティング、さらに時代は状況ターゲティングへ

デジタルで日常的にユーザとの接点がとれるようになった結果、ユーザの置かれた状況をとらえることができ、状況にターゲティングしたサービスを提供できるようになってきている、という話には、LINE 執行役員事業戦略室室長の室山真一郎さんとパルコ 執行役グループデジタル推進室担当の林直孝さんも大きく頷かれました。

室山さん「現在私が他に担当しているLINEの1 to 1ビジネス事業部のサービス内容の変遷が、まさにマスから属性、状況という道を辿っていたんだなと思いました。」

室山さんによれば、1 to 1ビジネス事業部のスタート時のコンテンツはマス向けコンテンツである占いだったそうです。最初はマス向けのコンテンツとして例えば星座占いなどを掲載していたそうですが、ユーザが読みたいのは自分の星座だけ。そこで、「牡牛座のあなたに」という発信に進化したのが、マスから属性ターゲティングへの変化です。

しかし、牡牛座の全員にあてはまる内容を読んでいてユーザが感じるのは、「一般的な内容はわかった。で、私の場合は?」という、よりパーソナライズされた情報への欲求だったそうです。

室山さん「その結果、今1 to 1ビジネス事業部でやっているのは、LINEを使った個別のトーク占いなんです。究極の状況ターゲティングコンテンツですよね。」

パルコの林さんは、新しい技術を導入したことで気付いた”習慣の罠”のお話を共有してくださいました。

林さん「PARCO_ya上野では、カメラ画像からAIが推定した性別・年代などの属性情報を数値化したグラフなどでショップに提供する、というシステムを入れています。しかしそれで気付いたのは、スタッフの方にとって属性情報も参考にはなるのですが、お客様が初回のご来店なのか、すでに何度か来てくださっているお客様なのかを理解できる情報の方がおもてなしを感じていただくための接客には重要だということです。」

このお話を受けて、尾原さんはこうセッションを締めくくりました。

尾原さん「どうしてもこれまでの習慣でファネルの罠、属性の罠にはまってそういうものに当てはめようとしてしまうけれども、それはユーザを点でしか捉えられなかった時代の話。オフラインのなくなったこれからの時代では、ユーザを線でとらえる状況ターゲティングが主流になっていくんだと思います。繰り返しになりますがそこで重要になるのが、ユーザが融通無碍にチャネルを選択できるようにテックタッチやロータッチ、ハイタッチを展開すること。今日は、中国だけでなく、日本でもそういう例は出てきているんだということをお伝えできたのではないかと思います。」

撮影:下玉利 尚明=タンクフル

文章では伝えきれない活気に溢れた勉強会でした。背景にある中国の事例や、さらに深い考察・解説・提言を知りたい方は、ぜひこちらの書籍もチェックしてみてくださいね。
アフターデジタル – オフラインのない時代に生き残る

「アフターデジタルを考える勉強会レポート」
第1回:人間が本当にすべき仕事とは?
第2回:日本企業の先進事例 – ポケットパルコとLINEヘルスケア
第3回(最終回):アフターデジタルは、人間が人間らしい仕事をできる世界